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イスラエルとUAEの国交正常化とパレスチナ和平の動き

ポイント
・イスラエルとUAEが国交正常化に向けて動くことになったが、それを後押しする動きとして、1月にイランの革命防衛隊が殺害され、その直後に米政府が「繁栄のための平和計画」が発表された。
・革命防衛隊の司令官殺害を受けてイラン側はその報復としてイラクの米軍基地をミサイル攻撃したが形式的なものに過ぎず、“脅し”に屈してレバノンのヒズボラとともに身動きが取れなくなり、IAEAの核査察も受け入れざるを得なくなった。
・「繁栄のための平和計画」では占領地は既成事実であり、東エルサレムのイスラエルへの帰属も認められているが、それが実現すればスンニ派湾岸諸国は国連を介したパレスチナへの寄付の支払いをせずに済むようになるので歓迎の意向を示している。
・パレスチナが反対しているのは援助金が得られなくなるからであり、和平計画では経済復興策も示されているが、一般住民は経済活動して自生していく自信がないようだ。それ以上に有力者は密かに横流ししたものが“懐”に入ってこなくなるので強硬に抵抗している。



イスラエルとUAEの国交正常化は日本に大きな影響を及ぼす

 次に、8月13日にイスラエルと中東湾岸で有力な産油国であるアラブ首長国連邦(UAE)が国交正常化に向けて動くことで合意したことを以前、当欄で取り上げたが、31日にイスラエルの訪問団がUAEを訪問し、そこにドナルド・トランプ米大統領の娘婿のジャレッド・クシュナー上級顧問も同席していたものだ。翌9月1日から両国間で各分野において協議が開始されたので、そのことについて少し取り上げることにする。なぜなら、それが日本にかなり影響することが見込まれるからだ。


米国の脅しに屈して身動きが取れなくなったイラン

 イスラエルと湾岸の富裕な小国との国交樹立に向けてそれを後押しする重要な動きが、年明け1月2日に米軍の無人爆撃機がイラクに駐留していたイラン革命防衛隊のコッズ部隊のカセム・ソレイマニ司令官を殺害したことと、その直後にトランプ政権が中東政策の基本的な方針を示す「繁栄のための平和計画」を公表したことだ。
 イランはその後、8日にイラクの米軍基地にその報復としてミサイルを撃ち込んだが、事前に攻撃することをイラク政府に知らせることで間接的に米軍にも伝わるように配慮したことで、基地は“もぬけの殻”のような状態だった。イランとしてはとりあえず報復攻撃をすることで体裁を取り繕って国内の強硬派による批判をかわしながら、米国との衝突も避けたわけだが、まともに米軍と激突すれば間違いなく“ぼろ負け”するために当然の動きである。一方でトランプ大統領としても大統領選挙を控えて、自身の有力な支持基盤であるキリスト教福音派の勢力に配慮しながら、ヘンリー・キッシンジャー元国務長官の意向を受けて米軍の中東からの撤退に向けて、できる限り戦闘行為に巻き込まれるのを避けたといえる。
 ただ、この殺害行為がイラン側に与えた衝撃は大きなものがあり、その後、イランは表だって中東で大きく動くことができずにいる。実際にイスラエルとUAEが国交の正常化に向けて動くことが発表されると、予想通りイランとパレスチナ解放機構(PLO)がそれを批判する声明を出したが、イランとしてはそれに対して特に対抗措置を打ち出すことができないでいる。それだけでなく、国連の核合意から離脱した米国が強硬にイランに国連の制裁の全面的な再開(スナップバック)を求めており、それを受けて欧州勢の制止も振り切って6月に国際原子力機関(IAEA)がイランの首都テヘランとイスファハンの2カ所の核関連施設の査察を決めたなかで、ここにきてイラン政府はそれを受け入れざるを得なくなっている。
 このように、トランプ大統領がイラン革命防衛隊の有力な司令官への殺害命令を出したのは、イランに対して実に大きな“脅し”の効果があったわけだ。イランが支援しているレバノンのヒズボラも、8月4日に首都ベイルートで起こった大爆発事故の関与を疑われて身動きが取れないでいる――すなわち、この爆発事故は米国やイスラエルの工作員による仕業である可能性が高いということだ。


イスラエル寄りの和平案にスンニ派の多くの国々が歓迎の意向

 1月に米政府が打ち出した「繁栄のための和平計画」では、これまで占領した領土は既成事実としてその領有を容認し、また東エルサレムのイスラエルの領有まで認めたうえでパレスチナ国家の建設に向かうことが謳われた。極めてイスラエル寄りの提案内容になったのは、トランプ政権が聖書絶対主義を掲げてイスラエル防衛を至上命題としているキリスト教福音派に配慮する必要があり、マイク・ポンペオ国務長官も自身が福音派で最大の勢力を誇っているバプティスト派の信者なので当然の動きである。
 ただ注目されるのは、サウジアラビアやエジプトといったスンニ派の穏健な中東の国々の多くがこれを歓迎していることだ。エジプトのガマル・ナセル大統領(当時)が汎アラブ主義を掲げて中東で資源ナショナリズムが昂揚していた時代には考えられなかった現象が起きているといえる。


パレスチナが米国主導の和平案に反対している本当の理由

 その背景には、自国の国家を持たないパレスチナは国連からの援助金で自治組織の運営が賄われており、世界に拡散している難民への支援もそれによって賄われているが、その国連には主に湾岸産油国からの寄付金で賄われているなかで、国家が樹立されれば産油国としては寄付する必要がなくなることがある。
 パレスチナ側でもPLOの反主流派であるハマスは純粋にイスラム原理主義的な観点から反対しているが、主流派のファタハも反対しているのは援助がなくなるからにほかならない。米国はじめ先進国や国際機関が長年にわたり新興国に援助を続けていると、独裁者なら特にその傾向が強いが、支援金の多くが有力な指導者の“懐”に不正に流入するものであり、実際にヤセル・アラファト前PLO議長も米国内に巨額な資産を隠し持っていたことが明らかになったものだ(そのために暗殺されたとの憶測もある)。
 米政府が提示したこの計画ではそうしたことも見据えて、イスラエルを中心に周辺のスンニ派諸国とともに経済成長促進策が挿入されており、それによりパレスチナに100万人もの雇用を生み出すとしている。ところが当のパレスチナの住民にしてみれば、自分たちが自国の国家建設とともに付加価値を生み出す経済活動を繰り広げることで自生していくことに自信が持てないのである。ましてや、ファタハの有力者は自分たちが密かに手にできる裏金が入ってこなくなるので大反対なのである。


 週末の明日もこの続きを掲載します。
 明日はUAEとの関わりを端緒として、将来的に米国から独立していく日本が中東に関与していくことについて考えてみたいと思います。
 よろしくお願いします。
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プロフィール

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永山卓矢と申します。
有限会社ナリッジ・クリエイション代表です。
現在、マクロ経済の分野でアナリスト業務を中心に活動しています。
フリーの立場で従来のマクロ経済や金融市場分析に限らず、その背後の政治的な権力闘争に至るまで調査活動を行っています。
これまで、月刊誌『商品・証券・金融先物市場』とその後継の『フューチャーズ・マーケット』や投資日報社などの大部分のインタビュー記事の作成をはじめ、他の情報媒体の市況執筆に携わってきました。
また、『「実物経済」の復活』(副島隆彦著 光文社刊)』はじめ、著名評論家の著作本執筆の実質的な共著や補助などの業務に携わってきました。
どうぞ、よろしくお願いいたします。