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バランスシート縮小論議が高まるFOMC議事録

ポイント
・FOMC議事録では多くの委員が年内の利上げの回数が3回を超えるとの見通しを示し、ほとんどの委員がバランスシートの縮小開始を予想していたことが明らかになった。
・バランスシートの縮小は長期金利を上昇させることで引き締め効果があるが、付利金利の引き上げに批判が根強いなかで、利上げの代替手段になることが見込まれる。
・ただ、これまで量的緩和策の正常化に向けて動いた前例がないだけにFRB執行部は慎重にならざるを得ず、当面は利上げ主体で縮小は徐々に推進していくとの姿勢を示している。



タカ派的な内容だったFOMC議事録

 先週は米中首脳会談の行方に注目が集まったが、それ以外にもいろいろな地政学的リスクが起こり、特にシリアに対する米軍の空爆が世界的に大きな衝撃を与えた。そうした外部要因以外にも、米連邦公開市場委員会(FOMC)議事録が公表されたり米雇用統計も発表されるなど、金融市場での本来の大きな注目要因も出ていた。
 そこでそうした大きな外部要因を考察する前に、まず金融市場本来の大きな注目要因について簡単に見ておく。

 まず3月15~16日開催分の議事録については、とりあえずFOMC委員の年内の利上げの回数は3回との見方が主流となっているなかで、過半数とはいわないまでもかなりの委員がそれを超える回数の利上げを予想していることが明らかになった。
 ただそれ以上に重要なのが、ほとんどの委員が年内に米連邦準備理事会(FRB)のバランスシートの縮小を開始するのを支持していることも明確になったことだ。
 またそれ以外にも、半分ほどの委員が利上げの回数の見通しに財政政策が打ち出されるのを織り込んでいないことも明らかになった――つまり、トランプ政権による財政政策の実施が現実味を帯びればそれを引き上げることで、ほとんどの委員の見通しが4回以上で占められることになるということだ。

 この議事録の対象となるFOMCが開催される以前には、市場では利上げの決定はほぼ確実であり、それに加えてFOMC委員による年内の利上げの回数が4回に引き上げられるとの見方が支配的だったが、会合後に示された見通しは3回に据え置かれていた。ドナルド・トランプ政権がまだ財政政策の実施が視野に入っていない段階でそれを引き上げれば、それにより市場が動揺してリスク回避が強まり、新興国不安が高まるような状況になればFRBの責任にされかねないことを嫌ったからだと思われる。
 今回、議事録が公表されて当時の会合の議論の中身が明らかになったことで、そうした観測が正しいことが裏付けられたといえる。


代替的な引き締め手段としてのバランスシートの縮小措置

 ただ、なんといっても市場で“衝撃的”と受け止められたのは、ほとんどのFOMC委員が年内にFRBのバランスシートの縮小に取りかかるように求めていたことだ。以前、市場ではそうしたことはほとんど視野に入っていなかったにもかかわらず、当欄ではバランスシートの縮小に向けた動きが現実味を増していると述べたものだ。
 今では利上げを決めることで政策金利であるフェデラルファンド(FF)金利を高め誘導していくにあたり、銀行がFRBに預けている預金に対する付利金利を引き上げていくことで対処している。しかし、それは国民の税金を使って銀行に“ただ働き”で儲けさせていることにほかならず、特に減税を主張している共和党議員の間で強い批判を浴びているからだ。

 いうまでもなく、FRBが満期償還を迎える国債や住宅ローン担保証券(MBS)の再投資を取りやめ、さらに将来的には売りオペレーションを再開して国債を売却していけば、FF金利が上がらなくても長期金利に上昇圧力がかかる。それ自体が金融引き締め効果になるだけでなく、銀行としても付利金利の引き上げが中止されても、イールドカーブがスティープ(勾配)化することで利ザヤ収入を得ることができる。
 このため、バランスシートの縮小は利上げの代替手段になるものであり、付利金利の引き上げが批判を浴びているなかでは、むしろこの手法の方が引き締め手段に適しているといえなくもない。
 実際、セントルイス連銀のジェームズ・ブラード総裁が利上げに消極的な姿勢を示す一方で、今すぐにバランスシートの縮小に取りかかるべきだと主張しているのはこのためである。


前例のないバランスシートの縮小措置

 とはいえ、これまで量的緩和策によりバランスシートを膨らませてきた中央銀行がその正常化に向けて動いた前例がないだけに、FRBとしてはその縮小に向けて動くにあたり、どのような効果や副作用があるかが不明であり、手探りで対処していかなければならない。それだけに、実際に主導権を握っているスタンレー・フィッシャー副議長はじめFRB執行部は、あくまでも引き締め策には利上げの推進を主体とし、バランスシートの縮小は徐々に行うべきだとする姿勢を見せている。
 いずれにせよ、議会共和党や政府側の圧力も含めて、執行部の姿勢を中心にFOMC委員の議論の行方から目が離せない状況が続きそうだ。

 なお、最近の各地区連銀総裁の発言内容を見る限り、今回、公表されたFOMCの議事録の内容よりややハト派寄りになっている感がしないでもない――つまり、会合が行われた3週間前より、全体的にFOMC委員の姿勢がハト派的にややシフトしているということだ。
 その背景には、明日以降述べるように米権力者層の意向として、当面は急激な引き締めを回避し、市場の安定を優先するように配慮していることが考えられる。


 明日は雇用統計について簡単に考察します。
 明日以降は米中首脳会談と一連の地政学的リスクを絡ませて考察していきます。
 また、今週はいつもより1日多く、15日土曜日まで掲載していくので、よろしくお願いします。
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プロフィール

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永山卓矢と申します。
有限会社ナリッジ・クリエイション代表です。
現在、マクロ経済の分野でアナリスト業務を中心に活動しています。
フリーの立場で従来のマクロ経済や金融市場分析に限らず、その背後の政治的な権力闘争に至るまで調査活動を行っています。
これまで、月刊誌『商品・証券・金融先物市場』とその後継の『フューチャーズ・マーケット』や投資日報社などの大部分のインタビュー記事の作成をはじめ、他の情報媒体の市況執筆に携わってきました。
また、『「実物経済」の復活』(副島隆彦著 光文社刊)』はじめ、著名評論家の著作本執筆の実質的な共著や補助などの業務に携わってきました。
どうぞ、よろしくお願いいたします。