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取引材料を駆使して攻撃する米国と追い詰められる中国

ポイント
・米国と北朝鮮との間で威嚇の応酬が続いているが、アフガンに投下されたMOABは現実的には北朝鮮への攻撃に使うのは難しく、脅しに過ぎない可能性が高い。
・米国は北朝鮮問題の解決に向けて、中国が受け入れられない原油の供給の削減や停止といった措置を強要しているが、それはそこに通商問題を絡めていることが考えられる。



威嚇の欧州を続ける米国と北朝鮮

 一方の北朝鮮問題については、米国と同国との間で“威嚇”の応酬が続いている。
 北朝鮮は最高人民会議で自国の「核強国」としての立場を強調し、近く核実験を強行する姿勢を示している。さらには15日の金日成(キム・イルソン)生誕105年記念式典でも、自国産のミサイルを海外の取材陣が勢ぞろいしている前で披露し、米本土まで届く大陸間弾道ミサイル(ICBM)の開発が近いことがうかがえることを積極的に示すなどして、米国を挑発する姿勢を崩していない。
 これに対し、米国は米中首脳会談が開催されている最中の6日にシリアに59発もの巡航ミサイル「トマホーク」を発射したのをはじめ、朝鮮半島にカール・ビンソンはじめ複数の空母を向かわせている。さらに13日にはアフガニスタンで、通常兵器としては最大規模の破壊力があるとされる大規模爆風爆弾兵器(MOAB)を投下するなどして北朝鮮を脅し、さらには同国に対して強い影響力を行使するように強要している中国に対しても圧力をかけている。


MOABは北朝鮮への攻撃には不向きで単なる“脅し”か

 このMOABというのは、ベトナム戦争の時にジャングルもろとも爆破するのを目的に開発され、01年10月のアフガニスタン戦争や03年3月からのイラク戦争の際に重用された「デイジー・カッター」という超巨大爆弾をさらに巨大化したものだ。
 これら両戦争の際には、この爆弾が投下されたことでタリバン軍やサダム・フセイン政権下のイラク政府軍が壊滅的な打撃を負ってしまい、実質的に米軍が大勝利を収めることができた最大の立役者といって過言ではない。イラク戦争の際には、米軍がさらにより巨大化したMOABを投下する構えを見せたことで生き残ったイラク政府軍の間で厭戦気分が強まり、一気にフセイン政権が崩壊していったものだ。
 ただし、この兵器は核燃料を使わない通常兵器とされているが、本当は爆発させる際に少量の核燃料を使用しているとの疑惑もあり、実際にその破壊力は戦術核を使用するのとそれほど変わらないとの見解も寄せられている。

 ただ、このデイジー・カッターをさらに大型化したMOABについては、あまりに巨大化したことで空母カール・ビンソンでは載せられず、より大型の空母でないと運搬できないものだという。このため、米軍は今回、北朝鮮を脅す目的でMOABを使用したが、実際に同国を本格的に攻撃することになった場合(その可能性はあまりないが)、この超巨大爆弾を使用することは困難だ。
 今回の米軍のMOABの投下を受けて、アフガン当局は当初、IS戦闘員の死者数を36人と発表し、さらにその2日後には90人程度に増えているとしてこれを修正したが、本当にこの爆弾による死者なのか定かではない。


米国の強要に対して有効な手段が打てない中国の苦悩

 いずれにせよ、米ドナルド・トランプ政権は「様々な選択肢がある」と表明しながらも、当面は中国を“けしかけて”外交努力を先行させる姿勢を示しており、少なくとも在日米軍の間では今すぐ戦場に赴くような強い緊迫感は感じられない。トランプ大統領自身も12日に電話協議をしたのを受けて、表向き習近平国家主席を“持ち上げる”姿勢を示しながらも、「米国と貿易をしたいのなら北朝鮮問題を解決するように」と述べて、この問題の解決に向けてしっかり取り組むように背中を押している。
 そのうえで、韓国にはそれほど配慮をせずに、日本の安倍晋三首相に「ボールは中国にある」と説明したという。中国としては米国が北朝鮮と直接対話するように求め、その仲介役を果たすことを提唱しているが、そうした提案に米国が乗るわけがない。

 それにより、中国としては米国の要求に応じて既に北朝鮮の重要な外貨獲得手段である石炭の輸入を年末まで停止しているが、それ以上の目立った措置を打ち出すことができないでいる。
 トランプ大統領は具体的に既存の国連が打ち出した制裁決議の厳格な履行や北朝鮮の出稼ぎ労働者を同国に追い返すことに加え、特に石油の供給の制限や停止を強要したという。これはまさに“究極の兵糧攻め”とでもいい得る措置であり、レックス・ティラーソン米国務長官が「体制の崩壊は意図していない」と表明しているが、本当にそれが実行されると軍事力が行使できなくなるだけでなく、まさにその危険性を高めるものにほかならない。
 中国としては絶対に北朝鮮の現体制を崩壊させることはできないのであり、米国の要求はとても受け入れられるものではない。それは、体制の崩壊により韓国主導で朝鮮半島が統一されると核兵器を保有する親米国が隣国に誕生することや、中朝国境に在韓米軍が駐留するようになるからだけではない。
 兵糧攻めにより多くの難民が中国領内に押し寄せることが予想されるが、遼寧省では鉄鋼その他の過剰生産能力を抱えている構造不況業種を多く擁しており、潜在的にかなりの失業者を抱えているだけに社会不安が高まりかねない。さらには首都北京までそれほど距離がないだけに、沿海部の大都市の治安が乱れて、共産党による統治体制すらも危機的な状況に陥りかねないからだ。


保護主義的な姿勢から北朝鮮問題に切り替えて中国を追い詰める

 そもそもこれまで当欄で述べてきたように、北朝鮮で金正日(キム・ジョンイル)前政権から「先軍政治」により軍が主導権を握っているが、その軍部を操っているのは親イスラエル勢力や米国の新保守主義(ネオコン)派であり、トランプ政権で主導権を握っている勢力と同じものだ――すなわち、この北朝鮮問題は“自作自演”なのである。
 トランプ大統領自身がどこまで理解しているのか定かではないが、少なくとも米政策当局やその背後で操っている権力者層は中国に対し、できるわけがない“無理難題”を押し付けて追い詰めているが、それは北朝鮮問題を利用して通商問題に絡めることで、市場開放に向けて大幅に譲歩させることを意図していると考えられる。

 もとより、トランプ大統領は大統領選挙戦中から中国に対して45%の高関税をかけることを提唱していたが、それは表向き支持基盤である白人の中下層階級に訴えかけるためではあったが、その背後でこうした権力者層の意向が働いていたわけだ。
 もっとも、トランプ大統領は正式にその地位に就任するとそうした“見え見え”の保護主義的な姿勢を後退させ、14日に財務省から公表された為替報告書でも中国を為替操作国に認定することを避けた。確かに中国は人民元相場を完全に管理しているが、最近ではもっぱら売り圧力を吸収して買い支えるために介入しており、対米輸出を促進するのを意図して安値誘導をしているわけではないので、それにより為替操作をしていると批判するには無理があるからだ。
 そこで保護主義的な姿勢で中国に圧力をかけるのを諦め(もっとも、税制改革案が制定されれば、輸入に20%に引き下げる法人税が適用されるので実質的にその分の関税をかけるのと同じことだが)、北朝鮮問題を利用する手段に方針転換したといえるだろう。


 明日、明後日もこの問題を考察します。
 明日は中国との関係について、米トランプ政権を構成している各勢力の利害関係を中心に考察することで問題の本質に迫ります。
 よろしくお願いします。
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プロフィール

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永山卓矢と申します。
有限会社ナリッジ・クリエイション代表です。
現在、マクロ経済の分野でアナリスト業務を中心に活動しています。
フリーの立場で従来のマクロ経済や金融市場分析に限らず、その背後の政治的な権力闘争に至るまで調査活動を行っています。
これまで、月刊誌『商品・証券・金融先物市場』とその後継の『フューチャーズ・マーケット』や投資日報社などの大部分のインタビュー記事の作成をはじめ、他の情報媒体の市況執筆に携わってきました。
また、『「実物経済」の復活』(副島隆彦著 光文社刊)』はじめ、著名評論家の著作本執筆の実質的な共著や補助などの業務に携わってきました。
どうぞ、よろしくお願いいたします。