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米税制改革案での二つの重要な焦点

ポイント
・税制改革案を巡り、本来的に議会共和党の勢力は社会保障費や公共インフラ関連の支出を抑制して減税を求める傾向が強いため、オバマケアの代替法案で妥協すれば合意は可能か。
・減税で成長率を高めて税収を伸ばして財源を賄うというのは“夢物語”に過ぎず、基本的には日本の民間資金と日銀が創出する円資金による対米投資に依存するしかない。
・国境税の導入が見送られたのは、ひとまず表面的にロシアと対立して、付加価値税中心の徴税システムに立脚している欧州(EU)との関係悪化を避けようとしていることがある。
・中国に対しても、北朝鮮問題を利用して水面下で通商問題や資本取引の自由化を求めて圧力をかけているなかで、ひとまず“本丸”で直接的に圧力をかけるのを避けたフシがある。



相互の関連し合う一連のイベント

 依然として北朝鮮情勢が緊迫した状態が続いているなかで、先週は23日のフランスの1回目の投票となる大統領選挙をはじめ、26日には米国で税制改革案が公表され、さらに27日には欧州中央銀行(ECB)理事会が開催されるなど、市場で大きな注目要因とされるイベントが相次いだ。
 またあまり関心が高くなかったとはいえ、26~27日には日本銀行(日銀)の金融政策決定会合も行われ、経済・物価情勢の展望(展望リポート)が修正、更新された。また今週は金融政策の変更は予想されておらず、終わった後に声明文が公表されるだけであるとはいえ、2~3日に米連邦公開市場委員会(FOMC)も開催される。
 結論から先にいえば、これらの要因はすべて相互に何らかのつながりがあるものだ。それを解明することで、今後の米国の経済政策の概要がある程度はつかめるはずである。

 まず26日に米ドナルド・トランプ政権が公表した税制改革案では、最も目に付くのが連邦法人税率を現行の35%から15%に大幅に引き下げることだ。これが実現すれば、ロナルド・レーガン政権下の86年に46%から34%に引き下げられて以来のものとなる。
 それ以外にも、個人税制については最高税率を39.6%から35%に引き下げたり、現在では7段階ある税率構造を10%、25%、35%の3段階に簡素化したり、基礎控除を2倍に引き上げて中低所得者層にも減税の恩恵が及ぶようにするといったことも提唱された。
 なお、輸出を免税にして輸入に課税することで輸出の促進を目指す国境税については、その導入が見送られた。

 問題はその財源である。トランプ政権は医療保険制度改革(オバマケア)の代替法案を成立させることで“浮く”資金を当てる以外に、基本的にはその多くを大幅減税により経済成長を高めて3%以上の実質国内総生産(GDP)成長率を達成し、それによる税収の増加に依存することとされている。
 これに対し、本来的に予算の作成や審議で主要な権限を握っている議会共和党では主流派、保守派ともに健全財政を重視する傾向が強いので、今回の政府による改革案は容易に受け入れられず、実現可能性に疑問符がついている。


オバマケアの代替法案の成立で妥協が成立か?

 以上がおおむね、今回の税制改革案の概要と巷間でいわれている今後の見通しである。実際のところ、現時点では既に議会共和党の勢力の8割方から賛成を取り付けたといったことも聞かれるが、筆者にはまだこれから議会との調整がどのように進展するか、見通しが困難なところがある。
 ただここでは、次の二つの点を指摘しておく。

 まず、財政健全化が損なわれることについて議会共和党が主流派、保守派ともに反対しているとされるが、本来的に同党は、それも保守派になればなるほど減税を求める傾向が強い。基本的に保守派は減税を求める代わりに、社会保障費や公共インフラ関連の支出の抑制を主張する傾向が強いものだ。
 これから国防費を大幅に増やしていくのはトランプ政権を支えている軍需産業の意向によるものであり、今後米国経済が、ひいてはそれにより世界経済が成長していくうえで欠かすことができないものだ。いうまでもなく、民主党や共和党を問わず多くの議員に軍需産業や親イスラエル勢力から圧力がかかるはずであり、よほどの“草の根”レベルで支持基盤を確立している議員を除くと、その意向を覆すのは困難だろう。

 だとすれば、議会共和党の協調を取り付けるには、社会保障費の伸びを一段と圧縮することで折り合いをつける以外にないだろう。
 オバマケアの代替法案の成立を巡り、3月下旬に政府と議会共和党との折り合いがつかず、その時点ではひとまずその成立を断念するとされたが、その後も税制改革案の策定とともに水面下でその調整が続いており、間もなく合意が近いところにまで迫っているとされている。おそらく、合意に達することで代替法案が成立することにより、議会共和党側も政府側に譲歩していく流れになっていくのではないか。


税制改革の成功を担保するのは日本の資金

 ただし、いうまでもなく経済成長を高めることで税収を増やし、それにより財政赤字の増大を回避するというシナリオは“夢物語”でしかない。かつて、80年代のレーガン政権下で財政収支と経常収支の「双子の赤字」が膨れ上がったが、それと同じような軌跡をたどることが目に見えている。
 結局のところ、そうした赤字をファイナンスするのは世界でも群を抜く貯蓄残高を誇る日本の民間資金と、そうした信用に裏付けられて“キチガイ”じみた“バズーカ砲”並みの量的緩和策を維持している日銀が創出する円資金にほかならない。

 実際、2月10日に日米首脳会談に臨むにあたり、安倍晋三首相を迎え入れるトランプ大統領が“ハグ”をして19秒間も握手をし、一緒に大統領専用機でフロリダ州マール・ア・ラーゴの別荘に向かってそこに宿泊を許され、さらに一緒にゴルフをプレーするなど、“至れり尽くせり”のもてなしを受けた本当の意味がそこにある。
 またそれと同様に、トランプ大統領や通商関係の閣僚がドル高を牽制するにあたり、自国通貨安をもたらしている過剰な金融緩和策にも非難の矛先を向けても、不思議と日銀だけはそれに言及されないのもこうしたことによるものだ。


欧州との関係悪化をもたらす国境税の導入をひとまず見送る

 もう一つ指摘すべきなのは、今回の税制改革案には輸入抑制と輸出促進を意図した国境税が盛り込まれなかったが、この件についてはもとよりトランプ政権側ではなく、ポール・ライアン下院議長を中心とする議会共和党の主流派が提唱していたものだ。これに対し、トランプ大統領はもとより、米国に巨額の貿易赤字をもたらしている相手国に高関税を課すことを大統領選挙戦中から提唱していたが、この案についてはあまりに保護主義的で実現性に乏しく、後に議会側の提案に歩み寄りつつあると言われていたものだ。
 ところが、それでも今回、改革案にこの件を導入することが見送られたのは、輸入品価格の上昇を嫌う米国内の輸入企業や共和党保守派が反対しているからだとされているが、米国外の要因にも目を向ける必要がある。

 そこでまず指摘できるのが、欧州との関係である。以前、当欄では、米国は付加価値税主体による欧州中心の徴税システムに立脚した通商体制に対し、これを米国主導の体制に抜本的に変革することを目的に国境税の導入を検討していることを指摘した。
 ところが、欧州ではほぼすべての国が付加価値税中心の徴税システムになっているなかで、なんの働きかけもなしに一方的に米国が“独りよがり”でこうした制度の改正を打ち出せば、国際的に大きな混乱を引き起こすとともに猛反発を受けるのが避けられないため、非現実的であったのはいうまでもないことだ。

 また、トランプ政権で主導権を握っている親イスラエル右派や共和党系新保守主義(ネオコン)派、さらにその背後に控えている軍需産業系は、極東では中国を相手に「新冷戦」構造を構築していく一方で、中東では「熱戦」を引き起こそうとしている。そうしたなかで、ひとまずロシアと表面的に敵対していく一方で、23日のフランスの大統領選挙の結果にも見られるように、欧州とは欧州連合(EU)解体に突き進む極右勢力とは距離を置いてひとまず良好な関係を維持しようとしている。
 そうした状況では、今回の税制改革案では強引に国境税を導入することで、“あからさま”に欧州と敵対する政策を打ち出すのは得策ではないといえる。


中国に対しても直接的に通商面で圧力をかけるのを避ける

 さらにいえば、国境税の導入は対米輸出国から見れば保護主義的な措置が打ち出されるのと同じことだ。
 米国の貿易赤字の4割ほども占めている中国に対しては今、表向き“自作自演”で北朝鮮問題を煽りながら、水面下での通商交渉で市場開放や資本取引の自由化に向けて大幅に譲歩するように圧力をかけている。北朝鮮問題を利用することで圧力をかけているなかで、例えば中国を為替操作国に認定するのを見送ったように、“本丸”である通商面で直接的に圧力をかけることはひとまず避けようとしておかしくないだろう。


 明日は先週、開催されたECB理事会の結果について考察します。
 週末の明後日はもう一度、北朝鮮問題を振り返ることにします。
 よろしくお願いします
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プロフィール

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永山卓矢と申します。
有限会社ナリッジ・クリエイション代表です。
現在、マクロ経済の分野でアナリスト業務を中心に活動しています。
フリーの立場で従来のマクロ経済や金融市場分析に限らず、その背後の政治的な権力闘争に至るまで調査活動を行っています。
これまで、月刊誌『商品・証券・金融先物市場』とその後継の『フューチャーズ・マーケット』や投資日報社などの大部分のインタビュー記事の作成をはじめ、他の情報媒体の市況執筆に携わってきました。
また、『「実物経済」の復活』(副島隆彦著 光文社刊)』はじめ、著名評論家の著作本執筆の実質的な共著や補助などの業務に携わってきました。
どうぞ、よろしくお願いいたします。