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ECBの出口戦略に向けた指針について考察する

ポイント
・ECBでは執行部が南欧諸国出身のハト派で占められているが、ドイツが健全財政政策を続けているなかで、物理的に大規模な資産買い入れを続けられなくなって出口戦略に移行。
・米トランプ政権は対米貿易黒字国として中国に次いでドイツを標的にする姿勢を示しており、ECBに出口戦略を求める点でドイツと奇妙に利害が一致している。
・黒田総裁が米ワシントンで量的緩和策の継続を示唆する講演を行ったように、同じ対米貿易黒字国の中央銀行でも日銀だけはそうした和策が批判されていない。
・出口戦略に向けた指針は次回6月の理事会で示される見通しであり、今回の理事会でそれが打ち出されるとの期待が市場で高まったのは“前のめり”に過ぎたといえよう。



物理的に出口戦略に動かざるを得なくなったECB

 次に27日に開催された欧州中央銀行(ECB)理事会について考察する。
 ECBは昨年12月8日に開催された理事会で、それまで翌年(今年)3月末まで続けるとしていた量的緩和策を年末まで延長することを決定した。また、国債等の資産買い入れの規模を毎月800億ユーロから、4月以降は同600億ユーロに減額することにした。
 ただし、信用不安が強まるなどその時々の状況に応じて資産買い入れの規模を増額したり、翌年末が近づく時点で状況が好転していないようであればさらにその延長も決めることができるなど、柔軟な対応ができるような措置も打ち出していた。

 ただし、こうした政策が決まった当時は、モンテ・デイ・パスキ・ディ・シエナ(モンテ・パスキ)に公的資金の投入が決まったように、イタリアで銀行不安が高まっていた時期に相当する。柔軟に資産買い入れ規模を増額できる措置も決めていたとはいえ、そうした状況にある時期にどうして出口戦略が打ち出されたのかというと、ユーロ圏で最大の経済規模を誇るドイツ政府が頑なに健全財政政策の維持にこだわっているなかで、買い入れる国債が枯渇しつつあったからだ。
 以前には人民元相場の売り圧力にさらされていた中国の人民銀行が、元買い介入をするために外貨準備を取り崩すにあたり、米国への配慮から米国債ではなくユーロ建て資産を優先的に売却していたことから、ECBは買い入れる資産を手当てすることができていた。しかし、人民銀行はもはやユーロ建て資産を売り尽くしたようであり、最近では米国債を売らざるを得なくなっていることが知られている。
 それにより、ECBとしてはいよいよ現行の量的緩和策を続けられなくなり、“物理的”な面から仕方なくその規模を縮小していかざるを得なくなったのである。


米国とドイツ連銀の利害が奇妙に一致する形に

 むろん、出口戦略を決定するにあたり、表面的には最もタカ派的であるドイツ連銀(ブンデスバンク)がそれを決めるように強硬に要求し、それを健全財政の維持にこだわっているドイツ政府が後押ししていた。これに対し、イタリア出身のマリオ・ドラギ総裁をはじめECB執行部が財政事情や銀行の財務内容、経済状態が脆弱な南欧諸国の出身者で占められているだけに、表向き出口戦略に言及しながら本音では量的緩和策の維持に向けて模索していた。
 ドラギ総裁がその立場上、出口戦略に向けた表面的なことしか表明できなかったなかで、ポルトガル出身のヴィトル・コンスタンシオ副総裁や、特にフランス出身のブノワ・クーレ専務理事が盛んにハト派的な発言をしていたものだ。

 ところが、理事会でECBが出口戦略を決定したその直前の11月8日に米大統領選挙が行われた翌9日から勢いよくドル高や株高が進んだことで、公的資金の投入も決まったこともあって年明け以降、イタリアの銀行不安が薄らいでいった。ユーロ圏の景況感も回復していき、インフレ率も次第に上向いてデフレ懸念が後退したことも重なり、タカ派に有利な状況になっていった。

 さらに重要なのが、米国でドナルド・トランプ新政権が貿易赤字の縮小を目指してドル高を牽制する姿勢を示したことだ。それも、中国や韓国のように直接的に外国為替市場に介入している国々だけでなく、ドル高をもたらしている対米輸出国・地域の量的緩和を含む超金融緩和策を推進している中央銀行まで非難した。トランプ政権は米国に貿易赤字をもたらしている国として、中国に次いでドイツをその標的にする姿勢を示したことから、ECBとしては執行部の意向とは裏腹に出口戦略に動かざるを得ない状況に追い込まれたといえるだろう。
 いわば、米国はドイツ政府の健全財政政策を批判していたはずだが、ECBの金融政策については過剰な量的緩和策の縮小を支持する点でドイツ連銀の姿勢と共通することになったわけだ。バラク・オバマ前政権とは異なり、トランプ現政権になって米独間で奇妙に利害が一致しているところが興味深いところだ。


日銀の量的緩和策は問題視されていない

 そうしたあたり、同じ代表的な対米貿易黒字国でありながら、前回の当欄で指摘したように日本銀行(日銀)の量的緩和策が米国から批判されないのも留意すべきである。4月20~21日に米ワシントンで主要20ヵ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議が開催されたが、それに先立つ直前に現地で日銀の黒田東彦総裁が講演で「物価上昇率が明確に上方にシフトするところにまでいっていない」としたうえで、「現行の緩和的な政策を続けて早めの物価上昇を目指す」と述べている。
 米国の“本拠地”であるワシントンでこうした発言ができるのは、それが米国で主導権を握っている勢力やその背後に控えている権力者層からそうした政策の実施が求められているか、容認されているからだと見るべきだろう。先週26~27日に行われた金融政策決定会合で、現行の量的緩和策の継続の決定とともに展望リポートが修正されたのも、この発言に基づいて行われたのはいうまでもないことだ。
 黒田総裁は世界中の主要国の中央銀行の金融政策を実質的に統轄しており、米ロックフェラー財閥が主導権を握っているグループ・オブ・サーティ(G30)の意向通りに動いていることを、改めて認識すべきだろう。


次回の理事会で出口戦略の指針が打ち出されることも

 先週27日に行われたECB理事会では、23日のフランスの大統領選挙で親欧州連合(EU)的な候補者が次期大統領に就任する可能性がかなり高くなったこともあり、事前には出口戦略に向けて何らかの指針が打ち出されるとの見方が根強かったが、理事会後の会見でドラギ総裁はそうしたことは議論されなかったことを明らかにした。もっとも、以前からそうしたことは次回6月2日に開催される理事会で議論することが表明されていたので、今回の理事会での決定は特に驚くべきものではなく、市場の認識が“前のめり”に傾き過ぎていたといえるだろう。
 ただ、量的緩和策自体は年末まで続けるとしても、市中銀行がECBに預ける預金の付利金利のマイナス幅(現在ではマイナス0.4%)を縮小するのと合わせ、来年からは資産買い入れ額を次第に縮小させていく(テーパリング)姿勢を打ち出すことは当然のことながら考えられるシナリオといえるだろう。


 今週の最後となる明日はもう一度、今回の北朝鮮問題の本質を時系列的に簡単に解説します。
 よろしくお願いします。
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プロフィール

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永山卓矢と申します。
有限会社ナリッジ・クリエイション代表です。
現在、マクロ経済の分野でアナリスト業務を中心に活動しています。
フリーの立場で従来のマクロ経済や金融市場分析に限らず、その背後の政治的な権力闘争に至るまで調査活動を行っています。
これまで、月刊誌『商品・証券・金融先物市場』とその後継の『フューチャーズ・マーケット』や投資日報社などの大部分のインタビュー記事の作成をはじめ、他の情報媒体の市況執筆に携わってきました。
また、『「実物経済」の復活』(副島隆彦著 光文社刊)』はじめ、著名評論家の著作本執筆の実質的な共著や補助などの業務に携わってきました。
どうぞ、よろしくお願いいたします。