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リスク回避は一時的でじきにリスク選好でドル高、株高へ

ポイント
・米軍需産業系は極東で中国を相手に「新冷戦体制」に持ち込むにあたり、今秋の共産党大会で習近平国家主席が専制権力体制を確立するのが望ましいため信用不安を望んでいない。
・OPECで減産の延長に前向きな姿勢を示しているように、サウジアラビアも好条件で国営石油会社のIPOを実現するにあたり、信用不安が強まるのを望んでいない。
・FRB執行部は6、9月に利上げを、12月にバランスシートの縮小開始に動くのを内定しているが、市場では十分に織り込んでおらず、いずれ米長期金利の急上昇でドル高へ。
・ユーロ高が勢いよく進んでいる背景には次回6月の理事会でECBが量的緩和策の縮小に動くとの観測が出ていることがあるが、やや“前のめり”に過ぎている。



このままリスク回避で株価が崩落する公算は低い

 ダウは米国の企業収益があまり良好とはいえない状況のなか、ドナルド・トランプ政権への政策期待から高騰してきただけに、先週17日に政局不安から政策遂行能力に疑問符がつくようになって急落したのはやむを得ないといえよう。
 テクニカル的に見ても、ダウで決算内容の低調から上値を抑えられてしまい、なかなか2万1,000ドル台乗せに定着できなかっただけに、今回の政治不安からひとまず手仕舞い売りが一気に出ておかしくなかったといえる。

 ただし、トランプ政権の政策遂行能力に対する不安感は今後もくすぶり続けるだろうが、このままリスク回避が強まる状況が続き、信用不安から株価が崩落していく公算は低い。
 これまで当欄で何度も指摘しているように、米権力者層は主に軍需産業系の意向が優先され、親イスラエル右派や共和党系新保守主義(ネオコン)派主導でアジア極東では中国を相手に「新冷戦」体制に、中東では主にイランを標的に「熱戦」を繰り広げようとしている。そうした状況では、中国で対外膨張的で国内的にも強圧的に反対勢力を抑え込む傾向が強い習近平国家主席が専制権力体制を確立し、それが永続化することが望ましい。
 またこの習国家主席に対しては、中国で活躍している“ハゲタカ”のブラックストーン・グループのスティーブン・シュワルツマン最高経営責任者(CEO)を介して米ロックフェラー財閥系が押さえていることも指摘できる。
 そうした状況では、今秋には最高指導部人事が決まる共産党大会の開催を控えているなかで、信用危機を強めて中国危機を引き起こすことは得策ではない。


サウジも信用不安を望んでいない

 もう一つ指摘すると、外交問題評議会(CFR)系主導のバラク・オバマ前政権がイスラエルやサウジアラビアと距離を置いたのに対し、トランプ現政権はこれら両国との関係を再強化しようとしている。
 これは現大統領が弾劾もしくは辞任せざるを得なくなり、リチャード・チェイニー元副大統領の系譜を引いているマイク・ペンス副大統領が大統領に昇格しても変わるものではない。むしろ共和党系ネオコン派が前面に出ることで、よけいにそうした路線が強まりやすくなるだろう。

 今、サウジではムハンマド副皇太子主導で経済構造改革を推進しようとしているが、そこで大きなカギを握るのが、国営石油会社サウジアラムコの新規株式公開(IPO)をいかに好条件で実現するかにかかっているといって過言ではない。
 純粋に原油の生産による収益環境という観点では米シェール業者が“漁夫の利”を得るだけであるにもかかわらず、非OPECのロシアとともに石油輸出国機構(OPEC)の減産の延長に前向きな姿勢を示しているのも、原油相場を安定させることで信用不安が引き起こされるのを阻止するためである。
 そうした状況では、サウジと密接なつながりのある共和党系ネオコン派や石油資本系が強大な影響力を行使しているトランプ政権が、信用不安が強まるのを望んでいないのはいうまでもないことだ。


じきにドル高へ、ユーロ高は目先行き過ぎか

 だとすれば、市場ではじきにドル高や株高傾向に回帰していく可能性が高いといえる。
 連邦準備理事会(FRB)執行部は年内では6、9月に利上げを決めた後、12月に満期償還を迎える債券の再投資の停止を決定することでバランスシートの縮小開始に踏み出すことを“内定”しているとされる。
 しかし、市場では次回6月13~14日の連邦公開市場委員会(FOMC)での利上げについてはほぼ織り込んでいるが、それ以降の政策対応については十分に織り込んでいない。実際、債券先物市場では投機筋がかなり買い越しているが、これはあまりにFRBの政策方針を無視しているものであるといわざるを得ない。
 いずれ投機筋が投げを強いられてしまい、米長期金利が急上昇していくとともにドル高が急速に進む状況が訪れておかしくない。

 なお、外為市場ではユーロ圏での政情不安の後退や景況感の改善、欧州中央銀行(ECB)が量的緩和策の縮小に動くといった観測からユーロ高が勢いよく進んでいるが、目先的には行き過ぎの感が否めない。前回の4月27日に理事会が開催される直前にも見られた現象だが、市場では次回6月2日の理事会でECBが量的緩和策の縮小を決めるといった観測まで出ている。
 しかし、マリオ・ドラギ総裁はじめ執行部がしきりにそうした見方の払拭に努めていたように、次回の理事会ではせいぜい、今後の出口に向けた指針を示すにあたり、従来の指針(フォワード・ガイダンス)を変更するか議論する程度に過ぎない。
 ユーロ売りポジションの踏みが一気に出ている面はあるが、やや市場が“前のめり”に過ぎているといえるだろう。


 明日、明後日はトランプ大統領の立場を危うくしているロシアゲート問題について、週末にはその背後での米国内の各勢力や米欧二大財閥の思惑について考察します。
 よろしくお願いします。
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プロフィール

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永山卓矢と申します。
有限会社ナリッジ・クリエイション代表です。
現在、マクロ経済の分野でアナリスト業務を中心に活動しています。
フリーの立場で従来のマクロ経済や金融市場分析に限らず、その背後の政治的な権力闘争に至るまで調査活動を行っています。
これまで、月刊誌『商品・証券・金融先物市場』とその後継の『フューチャーズ・マーケット』や投資日報社などの大部分のインタビュー記事の作成をはじめ、他の情報媒体の市況執筆に携わってきました。
また、『「実物経済」の復活』(副島隆彦著 光文社刊)』はじめ、著名評論家の著作本執筆の実質的な共著や補助などの業務に携わってきました。
どうぞ、よろしくお願いいたします。