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FOMC議事録がハト派的に解釈された背景を探る

ポイント
・FOMC議事録が公表されるとFRBの利上げ観測が後退したが、実際にはそこではハト派的な文言はあまり見受けられず、市場が誤って解釈しているといえる。
・展開の主導権を握っている米系投機筋の動きや地区連銀総裁の発言内容の推移を見る限り、一時的に利上げ観測を後退させようとしている力学が働いていると考えざるを得ない。



議事録の内容より市場の見方はハト派的

 先週、市場に大きな影響をもたらしたのが24日に公表された2~3日開催分の米連邦公開市場委員会(FOMC)の議事録であり、この公表を機に連邦準備理事会(FRB)の追加緩和観測が後退してドル高の勢いが削がれてしまい、また株価が一段高になっている。
 金利先物市場から算出している利上げの確率の推移を見ると、次回6月13~14日に開催されるFOMCではそれが一時90%を超えていたのが、17日にロシアゲート問題で株価が急落した直後には70%を切る水準に低下したが、現在では80%を超える水準にまで戻してきている。問題はそれ以降の利上げ見通しであり、9月の時点では30%程度に過ぎず、12月の段階になると以前には50%を超えていたのが、今回の議事録の公表を受けて40%台に低下している。ましてや、FRBのバランスシート縮小についてはまったく織り込まれていないといって過言ではない。

 その議事録の内容はどうだったのかというと、実際にはそこにはハト派的な文言はあまり見受けられなかった。ほとんどの委員がすぐに引き締めが適切になると判断しているとされており、外部要因の評価についても労働市場の改善傾向が継続しており、世界経済の影響によるリスクは後退しているとして、この点については前回の会合時点から小幅に判断をタカ派寄りに修正している。
 強いていえば、追加利上げの前に足元の弱い経済指標が一過性に過ぎないと追加的な確証を得ることが賢明と判断しているとされたが、その一方で、指標の弱さはやがて一過性によるものだったと判断できると予想しているとされている。
 さらに、当局者はバランスシート縮小の詳細を速やかに公表し、今年中にもその開始に着手することに合意したことも明記されていた。ただし、その縮小については緩やかに抑制しながら推進し、段階的に3カ月ごとにその規模を引き上げていくことも議論されたようだが、年内に確実に開始する姿勢を示しているのは間違いない。

 スタンレー・フィッシャー副議長が主導権を握っているFRB執行部は、年内では6、9月に利上げを決めた後、12月にバランスシート縮小に踏み出すことを既に“内定”しているとされている。
 実際、議事録が公表された翌25日には、FRB関係者と頻繁に接触しているプライマリーディーラーの見通しが発表されているが、そこでも6、9月に利上げの決定を想定し、10-12月期にバランスシートの縮小開始を決めると予想されている。それに比べると、市場の見方はかなりハト派的であると言わざるを得ない。


市場が誤ってハト派的に解釈している

 では議事録のどの部分がハト派的と解釈されたのかというと、一つは2%のインフレ率の目標値への達成が遅くなるといった指摘をする委員がいたことだ。実際、労働市場がほぼ完全雇用といい得る水準に到達したにもかかわらず、賃金がなかなか上がらず、物価指標もFRBが金融政策判断の指標としているコア個人消費支出(PCE)デフレーターだけでなく、コア消費者物価指数(CPI)も足元では鈍化している。
 こうした状況から多くの市場関係者はFRBは容易に利上げやバランスシートの縮小に動けないと見ているようだが、それはグループ・オブ・サーティ(G30)の意向を受けたFRB執行部の路線とは根本的に異なるものだ。

 市場が今回公表された議事録をハト派的と受け止めたもう一つの要因が、以前には執行部はジャネット・イエレン議長の会見が予定されているFOMCで利上げを――すなわち、年4回のペースでそれを決めるとしていたのが、最近ではそれが3回(残り2回)に後退しているので、足元の状況を見てさらにその後退が進んでいくというものだ。
 とはいえ、執行部が12月に利上げの決定を回避しようとしているのは、その代わりにバランスシートの縮小開始を決めるからだ。縮小に取りかかり、それを推進していけばFRBが国債の買い入れを減らすことで長期金利に上昇圧力がかかり、政策金利であるフェデラルファンド(FF)金利の引き上げと同様に引き締め効果をもたらすので、利上げと縮小を同時に決めるのを回避しようと配慮していることによるものだ。
 すなわち、市場のこうした見方はFRB執行部の政策意図を誤って解釈しているのは明らかである。


一時的に利上げ観測を後退させる大きな力学が作用している

 だとすれば、いずれかの時点で債券先物市場では投機筋が“狼狽的”な投げ売りを強いられてしまい、米長期金利が一気に上昇するとともに、外国為替市場でもドル高圧力が急速に強まることが容易に予想できることになる。ただここで留意すべきなのは、大手投資銀行やその系列のヘッジファンド群、大手商業銀行系ヘッジファンド群といった展開の主導権を握っている米系投機筋が、議事録が公表されるまでは外為市場でドルを買い進め、公表されるとともに途転売りしていることだ。
 FOMC関係者で発言している顔ぶれの推移を見ても、以前にはボストン連銀のエリック・ローゼングレン総裁はじめタカ派的な地区連銀総裁が活発に発言を繰り広げることで、FRB執行部の意向を市場に織り込ませようとしていたものだ。ところが最近、発言しているFOMC委員といえば、ハト派の代表格とされるシカゴ連銀のチャールズ・エバンズ総裁をはじめ、ミネアポリス連銀のニール・カシュカリ総裁もハト派寄りだ。
 また、セントルイス連銀のジェームズ・ブラード総裁は今すぐバランスシートの縮小開始に踏み出し、それを積極的に推し進めていくと主張しているのに対して利上げの推進には消極的だが、市場では後者のことばかりが材料視されてドル安の一因とされたものだ。タカ派ではサンフランシスコ連銀のジョン・ウィリアムズ総裁が年内に3回の利上げを肯定し、「米国経済は過熱している」と発言したが、メディアがそれほど採り上げず、市場でもほとんど無視されたものだ。

 つまり、FRB執行部自体は6、9月に利上げを、12月にバランスシートの縮小開始を決めるという基本的な姿勢は崩していないながらも、米権力者層の意向を受けて一時的に利上げ観測を、またそれによりドル高圧力を減退させるという大きな“力学”が作用していると考えざるを得ない状況がもたらされているといえる。


 明日は本日、掲載した続きとして、米利上げ観測の後退をもたらしている要因について考察します。
 週末の明後日は加計学園を巡る問題の背後事情として、大きな枠組みから考えていきます。
 よろしくお願いします。
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プロフィール

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永山卓矢と申します。
有限会社ナリッジ・クリエイション代表です。
現在、マクロ経済の分野でアナリスト業務を中心に活動しています。
フリーの立場で従来のマクロ経済や金融市場分析に限らず、その背後の政治的な権力闘争に至るまで調査活動を行っています。
これまで、月刊誌『商品・証券・金融先物市場』とその後継の『フューチャーズ・マーケット』や投資日報社などの大部分のインタビュー記事の作成をはじめ、他の情報媒体の市況執筆に携わってきました。
また、『「実物経済」の復活』(副島隆彦著 光文社刊)』はじめ、著名評論家の著作本執筆の実質的な共著や補助などの業務に携わってきました。
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