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米利上げ観測の後退をもたらしている二つの要因を考察する

ポイント
・一時的にFRBの利上げ観測やバランスシート縮小によるドル高観測を後退させている大きな“力学”が作用している背景には、OPECの総会があったことが考えられる。
・米権力者層はサウジアラビアが国政石油会社のIPOを好条件で実現させるにあたり、新興国通貨危機が再燃して信用不安が強まるのを避ける必要があるからだ。
・それ以上に重要なのが中国への配慮であり、米権力者層の各勢力が習近平国家主席を支援しているなかで、今秋の共産党大会を控えて中国危機の再発を防ぐ目的がある。
・中国は人民元相場の崩落を防ぐために「基準値」の制度改正に踏み切ったが、それによりドル高圧力から人民元売り圧力が強まれば外貨準備が一段と大きく減少する懸念も。



米利上げ観測の後退の一因にOPEC総会

 前回の当欄で述べたが、米連邦準備理事会(FRB)の利上げ観測や、それによるドル高圧力を一時的に後退させようとしている大きな“力学”が作用していると考えらえるが、その背景に何があるのかというと、一つは25日に石油輸出国機構(OPEC)総会が開催されたことがあったのだろう。
 そこでは昨年11月30日に減産が決まって以来、OPECは日量120万バレルを、ロシアを中心とする非OPECも同60万バレルと産油国全体で計同180万バレル減産しているが、これをさらに9カ月延長することを決めた。しかし、原油市場ではこれまで、さらに減産幅も拡大されることをはやして上昇してきたが、総会ではその決定は見送られ、それにより市況は反落しつつある。

 さすがに産油国の多くは財政的、経済的に苦しい状態に置かれているため、さらに産油量を減らすことはできなかったようだ。それ以上に重要なのが、いかに産油国が減産しても、それにより市況が上昇すると米国のシェール業者が増産するのが目に見えており、そうしたことは多くの産油国も認識していたはずなので、さらなる減産に多くの国々が応じなかったのは当然である。
 特に近年、著しく産油量を増大させているイラクや、核開発問題で制裁を受ける以前の生産枠を「当然の権利」だと思っているイランが激しく反対したようであり、この両国は今回、延長されることになった現行の生産枠ですら遵守しない意向を示している。
 そのなかでもとりわけイランは、ドナルド・トランプ政権になってから米国が核開発問題を再燃させ、軍事攻撃の糸口をつかもうとしているのを感じ取っているだけに、それまでにできる限り増産して輸出していくことで既定路線化しようとしている(実際には掘削施設が老朽化しているので思うように増産できないが)のでなおさらである。


経済構造改革への支援でサウジに配慮か

 OPECで率先して減産に取り組んでいるのは最大の産油国にして圧倒的な輸出大国であるサウジアラビアだが、それは同国が経済構造改革を推進していくにあたり、国営石油会社サウジアラムコの新規株式公開(IPO)を好条件で実現し、できる限り多くの資金を調達することにあるのは、今ではごく一般的にいわれていることだ。
 そのためには、原油相場が崩落していくことで多くの産油国が危機的な状況に陥ってしまい、新興国通貨危機が再燃して信用不安が高まり、先進国の株価も打撃を受けるのを避ける必要があるからだ。同国は米ロックフェラー財閥系石油資本と密接な関係にあるだけに、米権力者層がそれに配慮しておかしなことではない。

 しかも、その中核企業である世界最大の石油メジャーであるエクソンモービルは、原油価格が低迷した状態が続いたなかで多くの破綻したシェール企業を併合してきた。それだけに、サウジ主導でOPECが「適度な水準」に減産を続けることで原油価格が必要以上に下がることが回避されれば、この巨大な石油メジャーは高収益を得られる環境が続くだけになおさらである。


米利上げ観測の後退のより重要な要素が中国への配慮

 それ以上に重要なのが中国への配慮である。
 これまで当欄で述べてきたように、米権力者層は5年に一度となる指導部の人事が決まる今秋の共産党大会を控えて、習近平国家主席が専制権力体制を確立し、それを永続化することを望んでいる。
 それはトランプ政権を構成している各勢力のうち、欧州ロスチャイルド財閥系は習国家主席が提唱している「一帯一路」構想に乗っていった方が、アジア極東と欧州をつなぐユーラシア大陸経済圏の構築を目指すうえで有利であるからだ。また米ロックフェラー財閥系や軍需産業系も極東で「新冷戦」構造を構築していくにあたり、胡錦濤前国家主席や李克強首相の出身母体である共産主義青年団(共青団)系が勢力を強めるよりは、反対勢力を強圧的に抑え込む傾向が強い習国家主席が専制権力体制を握るのが望ましいのである。
 かつて旧冷戦時代に、米ロックフェラー財閥系の“隠れ共産主義者”たちが、その相手国であるソ連のヨシフ・スターリン、レオニード・ブレジネフ両書記長を操って軍拡競争を繰り広げたのと同じことだ。

 以前、麻生太郎副首相兼財務相が記者団に述べたように、FRBが年内に3回も利上げをしてバランスシートの縮小開始にも踏み出せば、信用不安が強まり資本流出が加速して中国危機が再燃しやすくなるのはいうまでもないことであり、実際にそれを狙っている投機筋もいることだろう。
 23日にムーディーズ・インベスターズ・サービスが中国の国債を1段階引き下げることを発表したあたり、投機筋がそれを利用して「中国売り」を仕掛けようとしていた可能性がある。この米大手格付け会社は、米ロックフェラー財閥直系であるS&Pグローバル・レーティング(旧スタンダード・アンド・プアーズ)とは異なり、比較的一般的な投機筋の意向が反映される傾向があるからだ。


基準値の切り下げ回避では抜本的な問題の解決にならない

 26日に人民銀行が人民元の「基準値」の算出方法を見直し、それまでは前日の終値を参考に決めていたのを、今後は前日に元相場が大きく動いてもあまり動かさない方向に変更することを発表した。FRBの利上げが市場に影響してドル高圧力が強まるまでに、中国側に危機が再燃しないように抜本的な制度改正を求めていたフシがうかがえる。

 ただし、今回の制度改正により危機の再燃が完全に封じられるのかといえば、そうではない。ドル高圧力が強まっても基準値を下げないのであれば、人民銀行はそれだけ強力に元買い介入を繰り広げなければならなくなり、外貨準備が取り崩されて減少傾向に拍車がかかることにならざるを得ないからだ。
 むろん、今秋に共産党大会が開催されるまでは展開の主導権を握っている米系投機筋は中国売りを仕掛けたり、それ以前に信用不安を引き起こすことはしないと思われるが、それでも中国側がどのような対策を打ち出してくるかが注目されるところだ(もっとも、欧州ロスチャイルド財閥系を中心に米系金融資本としては、中国の外貨準備が大きく減ればそれだけ将来的に国有銀行や有力な国有企業を買収しやすくなるので、その意味では好ましい状況がもたらされることになるが)。


 週末の明日は加計学園を巡る問題について、官邸と官僚勢力との対立の構図から考察したいと思います。
 よろしくお願いします。
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プロフィール

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永山卓矢と申します。
有限会社ナリッジ・クリエイション代表です。
現在、マクロ経済の分野でアナリスト業務を中心に活動しています。
フリーの立場で従来のマクロ経済や金融市場分析に限らず、その背後の政治的な権力闘争に至るまで調査活動を行っています。
これまで、月刊誌『商品・証券・金融先物市場』とその後継の『フューチャーズ・マーケット』や投資日報社などの大部分のインタビュー記事の作成をはじめ、他の情報媒体の市況執筆に携わってきました。
また、『「実物経済」の復活』(副島隆彦著 光文社刊)』はじめ、著名評論家の著作本執筆の実質的な共著や補助などの業務に携わってきました。
どうぞ、よろしくお願いいたします。