記事一覧

加計問題を巡る政権と官僚勢力の熾烈な抗争

ポイント
・加計学園を巡る問題は文科省前次官の会見でにわかに注目度が高まったように、この問題の本質は政府権力の強権化を目指す官邸と財務省主計局を中心とする官僚勢力の抗争だ。
・この発言の伏線は前FRBが来日して講演したことにあり、消費税引き上げを目指す官僚勢力と米ネオコン派に支持されている政権側がこれに反対していることも関係している。
・日本は財政破綻しているという迷信がまかり通ってきたのは、米ドルの信用の維持を目的とする米CFR系と天下り先の確保を目指している官僚勢力がこれを流布してきたからだ。
・この問題の本質は民主党政権時代の小沢幹事長(当時)を巡るスキャンダルと似ているが、当時と異なり現在の安倍政権は米国に支持されているようだ。



官邸と官僚勢力による熾烈な抗争

 米国ではドナルド・トランプ政権を揺るがしているロシアゲート問題が注目を集めているが、日本でも安倍晋三首相やその周辺を揺るがしている加計学園の問題で新たな展開があり、注目度が高まってきたので、この問題について少し考察する。
 25日に文武科学省の前川喜平前事務次官が記者会見で、獣医学部の新設を巡り「総理のご意向」と伝えられたとする文書が「確実に存在した」と発言したからだ。米国側では26日にジャレッド・クシュナー上級顧問が連邦捜査局(FBI)の捜査対象になっていることが報じられた。また先日、トランプ大統領によって強引に解任されたジェームズ・コミー前FBI長官が、8日に上院の情報特別委員会の公聴会に呼ばれ、どのような発言をするかによって政局が大きく動く可能性があるが、今回は日本側の問題を採り上げる。

 これまで、菅義偉官房長官はこうした文書が出回っていることについて、「出所がわからない“怪文書”について、いちいちコメントしない」との姿勢を取り続けてきた。文科省側も内部調査ではそうした文書は見つからなかったとしているが、おそらく、それは正式な文書だけを調べたうえでそのような返答をしているのだろう(つまり、少なくとも表面的には嘘はついていないことになる)。
 官邸側や自民党執行部はこうした怪文書を流しているのは、文科省で元幹部に天下り先を組織的に斡旋していた問題が発覚したことで処分された同省内の元幹部によるものと見ていたようだが、今回の前川前次官の会見でこうした観測がはからずも正しいことが明らかになったといえる。

 筆者はこの問題を専門的に追っている記者やジャーナリストではないので詳細は不明だが、大きな枠組みから次のことを指摘しておく。
 実は、今回の前川前次官の“爆弾会見”は最近、ベン・バーナンキ前米連邦準備理事会(FRB)議長が来日して、24日に日本銀行(日銀)の国際会議で演説したことと密接に関係しているものだ。なぜなら結論から先に言えば、今回の政治スキャンダルは文科省が舞台になっているが、それに先立つ森友学園の問題も含めて、その“黒幕”は官僚機構の“最高峰”である財務省の、それもその頂点に立つ主計局の勢力であるようであるからだ。
 いわば、官邸と官僚勢力による熾烈な抗争といえる。


官僚勢力の巻き返しに対し米国側がFRB前議長を送り込む

 バーナンキ前議長は24日の講演で、物価上昇率が2%に上昇し、政策金利もそれに応じて上がれば、日本の政府債務の名目国内総生産(GDP)比率は21%低下する見込みなので、臆せずこれまで通り日銀はその目標値に向けた政策を邁進すべきだとした。ただし、目標値の達成を目指すにあたり、日銀の政策効果を波及させるメカニズムはかなり限界に近づいているため、金融政策だけでなく財政政策との協調を唱えた――すなわち、大型の経済対策を今後も打ち出すように求めたわけだ。
 日銀は必要なら国債の増発に応じてさらなる追加緩和策を打ち出すべきだと述べている。これはいわば、「ヘリコプター・ベン」という自身の名称が冠されている「ヘリコプター・マネー(ヘリマネ)政策」の導入を求めたことにほかならないといえよう。
 そのうえで、目標値が達成されて日銀が出口戦略に動きだす際に、国債の購入を減らしても利回りを管理できる可能性が高いと述べた。これは公的部門が巨額な累積債務を抱えていても、民間部門と合わせた国全体では圧倒的な貯蓄超過大国である日本では、財政破綻問題はそもそも起こり得ないことをしっかり認識していることを物語るものだ。

 これまで、安倍政権は大型の経済対策を打ち出すために、また特に消費税引き上げを阻止するために、ジョセフ・スティグリッツ・コロンビア大学教授やポール・クルーグマン・ニューヨーク市立大学大学院センター教授、シムズ理論を唱えているクリストファー・シムズ・プリンストン大学教授といった著名な経済学者を招聘して講演させてきた。また安倍首相にも表敬訪問させて“御託宣”を教示させることで、財務省主計局を中心とする官僚勢力に対抗してきた。
 しかし、最後に招いたシムズ教授が唱えている理論があまりに非現実的なものだったこともあり、最近ではヘリマネ政策に向けた流れが“立ち消え”になってしまった。それとともに、自身が管轄している財務省の官僚群の意向に影響されて、麻生太郎財務相が「消費税を10%に引き上げる環境が整いつつある」と発言するようになっていた。
 こうした状況に危機感を募らせた新保守主義(ネオコン)派主導の米国側が今回、ヘリマネ政策の“御本尊”であるバーナンキ前議長を日本に送り込んだといえる。


財政破綻という“迷信”がまかり通ってきた背景について

 そもそも、どうして日本は財政破綻に陥っており、一刻も早くその再建に向けて踏み出さなければならないといった“迷信”がまかり通って来たかというと、米国側の外交問題評議会(CFR)系の勢力と財務省主計局を中心とする官僚勢力が、そうした“デタラメ”なことを巷間で当然視するように仕向けてきたからだ。
 米CFR系の最大の関心事は基軸通貨米ドルの信用を維持することであり、米国内では財政赤字の削減を主張する傾向が強いのはこのためだ。そうした観点から、日本に対してそのような迷信を流布することで増税を正当化し、それにより日本から米国への資本流出が滞ったり資本還流が進む事態になる際に、円滑に資本移転を行うための資金を“プール”しておこうとしているわけだ。
 また官僚勢力が増税に熱心なのは、自分たちの天下り先である特殊法人を設立するための資金をプールしておくためである。このことについては財務省理財局出身の高橋洋一・嘉悦大学教授が詳しいとされるが、日本には「埋蔵金」が非常に豊富にあるのである。

 ただし、米国ではCFR系はバラク・オバマ前政権の大部分の期間にわたり主導権を握ったが、同政権末期から現在ではネオコン派がこれに代わっている。この系列は経済成長を実現し、それにより税収を増やすことで財政事情の悪化を防ぐことを主眼とする傾向がある。しかも、特に現在のトランプ政権を構成している共和党の勢力は減税を望み、増税には嫌悪感を示す傾向が強い。
 日本は米国の忠実な「属国」であり、その意向を無視することができないなかで、これまでは財務省主計局の勢力は表立ってその米ネオコン派から支持されている安倍政権に抵抗できなかった。しかし、米国と同様に日本でも中央銀行や官僚勢力を政府権力に統合させようとする風潮が高まっているなかで、個々の官僚として最も切実な問題が退職後の自分たちの基盤の保証なのであり、そこを侵害されると激しく抵抗せざるを得なかったのである。
 消費税引き上げを念願としているのは財務省主計局に限ったことではなく、官僚勢力全般にいえることなのであり、今回の加計学園を巡る問題で天下り斡旋問題で辞任させられた人たちが激しく抵抗しているのもこのためだ。


小沢問題と共通部分がある今回の加計問題

 今回の文科省を巡る騒動で前川前次官の爆弾会見が起こったのに先駆けて、16日に財務官僚が自民党税制調査会長を歴任した野田毅元建設相や、村上誠一郎元財務副大臣といった安倍首相と一線を画している同省寄りの政治家を押し立てて、「反アベノミクス研究会」を立ち上げた。今後、加計問題の行方次第で安倍政権が動揺していくと存在感が高まっていくかもしれない。

 いわば、今回の官邸と官僚勢力の抗争は、民主党(現民進党)政権下での小沢一郎幹事長(当時、現自由党共同代表)を巡るスキャンダルと非常によく似ているといえる。
 ただ大きく異なるのは、当時の小沢幹事長はCFR系主導の米国をも敵に回したが、現在の安倍首相にはネオコン派主導の米国が背後でしっかり支持していることだ。当時の小沢幹事長が陥れられて民主党を離党せざるを得なくなり、同党による政権自体も呆気なく崩壊したのに対し、現在の安倍政権については、少なくとも現段階では大きな動揺が見られないのはこのためである。


 今週はこれで終わりです。
 来週はこれまでと同様に週明け5日(月)から掲載していくので、よろしくお願いします。
スポンサーサイト

コメント

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

17894176

Author:17894176
永山卓矢と申します。
有限会社ナリッジ・クリエイション代表です。
現在、マクロ経済の分野でアナリスト業務を中心に活動しています。
フリーの立場で従来のマクロ経済や金融市場分析に限らず、その背後の政治的な権力闘争に至るまで調査活動を行っています。
これまで、月刊誌『商品・証券・金融先物市場』とその後継の『フューチャーズ・マーケット』や投資日報社などの大部分のインタビュー記事の作成をはじめ、他の情報媒体の市況執筆に携わってきました。
また、『「実物経済」の復活』(副島隆彦著 光文社刊)』はじめ、著名評論家の著作本執筆の実質的な共著や補助などの業務に携わってきました。
どうぞ、よろしくお願いいたします。