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米雇用統計の発表から見るハト派的な雰囲気を醸成する動き

ポイント
・今回の米雇用統計では、失業率が一段と下がったのは労働参加率が低下したことによるものだが、労働市場がかなりひっ迫した状態にあることは間違いない。
・NFPがかなりハト派的な内容になったが、ADP雇用統計と著しく乖離していることもあり、意図的に低めに出された可能性が高い。
・その背景には、サウジの国営石油会社のIPOや、中国で今秋に5年に一度となる共産党大会を控えて習近平国家主席が専制権力体制の永続化を決めるのを支援することがある。
・今年晩秋以降の調整局面は軽微なものでとどまりそうだが、割高な米国株がさらに買い上げられるなかで、来年中にIPO実現後にはかなり大きな信用不安に見舞われることも。



失業率は低下が続き16年ぶりの低水準に

 以前、当欄でも5月24日に公表された2~3日開催分の米連邦公開市場委員会(FOMC)議事録の内容を検証した際に考察したが、市場はその全体的な内容を評価せず、その中のハト派的な部分だけに焦点が当てられてきた。
 先週の動きを見ても、30日のラエル・ブレイナード理事の発言では全体的にはタカ派的な内容でありながら、市場では「インフレ率の低下が続けば利上げを遅らせたい」と述べたことだけが注目された。
 そして週末2日に発表された雇用統計では、株式市場では失業率の低下が材料視されて買われる一方で、債券市場や外国為替市場では非農業部門の雇用者数が事前予想を下回ったことが材料視されて債券買いやドル売りに作用した。さらに、その直後にフィラデルフィア連銀のロバート・カプラン総裁が「5月の雇用者数は良い数字」だと述べても、市場ではまったく無視された形になった。

 今回の雇用統計については、失業率は4.3%と低下傾向を継続し、前月と同水準である事前予想の4.4%も下回った。この水準は情報技術(IT)バブルに沸いていた01年5月以来、実に16年ぶりの低水準である。
 ただし、今回の低下は労働参加率が62.7%と前回から0.2ポイントも低下し、職探しをする人が減ったことでもたらされたことがうかがえる。もっとも、労働参加率のこの数字は季節的な要因が作用しているといった見方や、正確性に疑問符がつけられており、それほど信頼できるものではない。
 間違いなく言えることは、米連邦準備理事会(FRB)が完全雇用を意味するインフレ非加速的失業率(NAIRU)の水準が4.7%といった見方を示しているなかで、現在の水準はこれを大幅に下回っており、労働市場がかなりひっ迫しつつあることだ。
 それでいてどうして賃金が上がらず、したがって物価も上向いてこないのかというと、以前、当欄で指摘したように、多国籍企業の収益環境が低下して企業側が容易に賃金を上げられなくなっているからである。生産工場が集積している中国沿海部の賃金が高騰していることや、米国でもリーマン・ショックによる巨大な金融危機を経て中間層が没落し、格差の拡大が顕在化したことから家計が「世界の一大需要基地」の役割を担えなくなり、多国籍企業によるグローバル生産体制が機能しなくなっていることによるものだ。


そのまま額面通りに受け取れないNFPの数値

 非農業部門の雇用者数(NFP)の前月比の増加幅は13万8,000人と事前予想の18万2,000人を下回った。また前月分も21万1,000人から17万4,000人に、前々月分も7万9,000人から5万人にそれぞれ下方修正され、債券市場や外為市場ではこれを材料視してかなりハト派的な内容と受け止めた。
 ただ、その前日に発表されたオートマティック・データ・プロセッシング社(ADP)雇用統計では同25万人以上も増えており、本当に雇用者数が表面的な数字ほど伸びていなかったのか、疑問視せざるを得ない。
 そもそも、これまでは先立って発表されるADP雇用統計が好調だと労働省が発表している“正規の”雇用統計は低調となり、ADPが低調だと好調なことが多かっただけに、今回もこれまでの傾向と同じような形になったといえる。大手商業銀行系ヘッジファンド群や大手投資銀行及びその系列のヘッジファンド群には、発表される前にこの数字が漏れ伝わっていることが多いようであり、つねにこうした投機筋が大儲けできるようになっているわけだ。

 ADP雇用統計が多くの幅広いサンプル件数から数字を算出しているのに対し、労働省が発表している雇用統計のNFPは12日の週を含む週間失業保険申請件数のデータをサンプリングとして抽出して算出している。今回のその当該週の件数は23万2,000件とかなり少なかったため、そのまま算出すればNFPはかなり高水準の数値になったはずだ。ところが実際には事前予想を大幅に下回り、前月分や前々月分も下方修正される弱気な内容になったあたり、恣意的、裁量的に低めの数値が発表された可能性を考えないわけにいかない。
 その背景には以前、当欄で指摘したように、一つには米ロックフェラー財閥直系の米系石油資本と密接な関係にあるサウジアラビアの国営石油会社サウジアラムコの新規株式公開(IPO)を、できる限り好条件で実現できるように支援しようとしていることがあるだろう。
 またもう一つは、欧州ロスチャイルド財閥系が「一帯一路」構想に相乗りしてユーラシア大陸に巨大な経済圏の構築を目指しており、また米ロックフェラー財閥系も軍需産業を後押しして中国を相手に「新冷戦」構造の構築に向かうにあたり、今秋の共産党大会の開催に向けて習近平国家主席が専制権力体制の永続化を達成することを支援しようとしていることがあるはずだ。


晩秋から年末に調整局面も円安や株高傾向は来春にかけて継続へ

 ただし、NFPが事前予想を大幅に下回り、平均時給も前年同月比2.5%と前月と同じ伸びにとどまり、事前予想の2.6%を下回ったとはいえ、労働市場が完全雇用をほぼ達成している状況を考えると決してハト派的と言えるわけではない。来週のFOMCで利上げが決まるのはまず間違いない情勢のなかで、9月の利上げが遠のいたといった見解も聞かれるが、それはFRB執行部やその背後の権力者層の意向を度外視したものといわざるを得ず、少なくともFRBの金融政策にはほとんど影響を及ぼすものではない。
 今回のNFPの増加幅が市場ではハト派的と受け止めようとも、過去3カ月間の平均値は12万人超の水準を維持している。以前、ジャネット・イエレン米連邦準備理事会(FRB)議長は失業率が上昇していかない水準として7万5,000~12万5,000人といった水準を挙げていたが、今回の平均値はそのレンジの上限付近に達する。しかも、3月のNFPは天候その他の特殊要因から5万人とかなりの低水準にとどまっただけに、これからその平均値は上向いていく公算が高い。
 いわば、政策当局を含む米金融市場関係者は、FRBが執行部が描いているシナリオ通りに利上げやバランスシートの縮小を推進していける環境を維持しながら、作為的にそうしたことが市場で意識されずにリスク選好が根強い状態が続くように配慮しようとしているといえる。

 ではこうした状態がいつまで続くかというと、まずは今秋の共産党大会の開催までが考えられる。しかし、サウジの国営石油会社のIPOが実現するのが現時点では18年中と見込まれていることから、共産党大会が終わる晩秋から年末にかけて調整局面が到来しても、リスク選好による株高や円安傾向は来春から初夏頃にかけて続く可能性がある。おそらく、その頃には米軍によるイランへの攻撃がある程度は現実味を帯びているのではないか。
 米国株は現時点でもかなり割高な状態にあるなかで、来年にかけてさらにその傾向が強まると思われるだけに、信用不安が強まるとかなり大きなクラッシュが引き起こされる恐れがある。おそらく、市場関連ではそのカギは原油相場が握っていると思われるので、明日以降、今回は原油市場を取り巻くサウジや石油輸出国機構(OPEC)の動向その他の要因を概観し考察することにする。


 明日、明後日はサウジの動向や原油相場の行方を基に、今年から特に来年の国際金融市場への影響も含めて考察していきます。
 よろしくお願いします。
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プロフィール

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永山卓矢と申します。
有限会社ナリッジ・クリエイション代表です。
現在、マクロ経済の分野でアナリスト業務を中心に活動しています。
フリーの立場で従来のマクロ経済や金融市場分析に限らず、その背後の政治的な権力闘争に至るまで調査活動を行っています。
これまで、月刊誌『商品・証券・金融先物市場』とその後継の『フューチャーズ・マーケット』や投資日報社などの大部分のインタビュー記事の作成をはじめ、他の情報媒体の市況執筆に携わってきました。
また、『「実物経済」の復活』(副島隆彦著 光文社刊)』はじめ、著名評論家の著作本執筆の実質的な共著や補助などの業務に携わってきました。
どうぞ、よろしくお願いいたします。