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来夏以降に原油崩落で信用危機が強まる展開に

ポイント
・OPECやロシアの協調減産から原油需給の緩和状態が解消したとされているが、実際には各産油湖国は公表されている以上の生産をしており、余剰状態は変わっていない。
・サウジとしては国営石油会社のIPOを実現してしまえば、減産を継続する意味がなくなるだけでなく、シェール業者とのシェア争いから増産に転じることで原油相場は崩落へ。
・そうなるとベネズエラを筆頭に経済・財政状態が脆弱な産油国はデフォルトに陥る危機が高まり、来夏以降は新興国危機が再燃してグローバル規模で信用危機に陥る危険性が高い。



サウジの動きとOPEC合意の表向きの議論

 原油相場は指標となるニューヨーク市場のウェスト・テキサス・インターミディエート(WTI)市況で昨年5月以来、50ドル前後を中心に上値を50ドル台半ば程度、下値を40ドル付近とするレンジ内での推移が続いている。上値では米国のシェール業者が売り予約を入れることで抑えられている一方で、石油輸出国機構(OPEC)が減産で合意して各加盟国の多くがこれを遵守しているとされており、非OPECであるロシアもこれに同調する姿勢を見せていることで下値が支えられている。
 こうしたOPECの姿勢を受けて商品ファンド系の投機筋が買い上げても、ニューヨーク先物市場で期中以降の限月が60ドルに近づくとシェール業者の売り予約から上昇力が停止する状態が続いている。

 OPECは昨年11月30日に減産で合意し、先々週25日にもこれを9カ月延長することで再び合意された。OPECがいくら増産しても米シェール業者を“喜ばせる”だけであるにもかかわらず、サウジアラビアが率先して減産に取り組み、また合意の締結に向けて他の加盟国やロシアに対して積極的に働きかけていたのは、国営石油会社サウジアラムコの新規株式公開(IPO)をにらんでのものであることは改めて指摘するまでもないことだ。
 現在、OPECは各加盟国が生産枠を遵守していることで、昨年11月末に減産が決まる以前と比べて日量120万バレルを、非OPECも同60万バレル減産しているとされている。国際エネルギー機関(IEA)が発行している5月の月報では、直近4月のOPEC全体の産油量は同3,173万2,000バレルで推移しているとされている。
 追加の延長に向けて各産油国が交渉していた際に、減産幅を拡大することも議論されたようだが、それは見送られた。一方で、需要の伸びは米国での省エネ化の推進や中国での経済成長の減速からかなり鈍化しているが、それでもフロー・ベースでの需給緩和状態は解消されつつあるとされている(ただし、仮にそれが正しいとしても、消費国の在庫はかなり高水準の状態にあることは変わらないので、容易に緩和感が払拭される状態にはなりにくいが)。


実際には原油の余剰状態は変わっていない

 以上が“表向き”の議論だが、実情は異なる。
 まずOPEC内部ではイラクが復興資金を得るために大幅な増産を望んでおり、5月25日の総会ではひとまずサウジに説得されて合意に賛同したが、実際には抜け駆け的な増産の“常習犯”とでもいい得る存在であり、これからそれをさらに強める姿勢を見せている。
 またイランも、核開発問題で国際的に制裁を受ける以前の生産枠である日量350万バレルの水準を確保することは当然の権利だと思っているだけに増産志向が強い。特にイランの場合、米国で現在のドナルド・トランプ政権に代わったことで核問題を再燃させることが目に見えているなかで、再び国際的な制裁を科される前に生産枠を確保するための“実績作り”をしようとしているだけになおさらである。
 イランでは採掘施設が老朽化しており、思うように産油量を増やすことができないといわれていたが、実際には欧州から技術者が入り込んでおり、また米国人も欧州側の組織を通じて参入していることで、密かに、次第に産油量を伸ばしているようだ。

 また、非OPECのロシアでは一度油井を止めてしまうと、寒冷の気候から採掘施設が凍り付いてしまい、再稼働させるには1年以上もの期間を要するため、実際には協調減産の取り決めに応じていない。幾分かでも減産しているとされているのは、老朽化してもはやそれほど生産能力がなく、生産活動を停止しようとしていた油田での生産停止を計上することで誤魔化しているに過ぎない。
 さらにいえば、天然ガスを生産するにあたり、それに伴って産出される天然ガス液(NGL)から抽出される原油については、OPECが取り決めた生産枠に含まれておらず、実際にはそれがかなりの規模に達しているようだ。
 このように、OPECや非OPECのロシアの実際の産油量は、表向き報告されているものよりかなり上回っている。以前からOPECの産油量は公表されているものとは別に“裏ペーパー”があると言われている通りである。すなわち、消費国の在庫は極めて高水準の状態にあるなかで、フローでの原油需給の緩和状態は解消されつつあるとされているが、実際には余剰状態は変わっていないのである。


来夏以降、「8」の年特有のクラッシュが再現か?

 もっとも、サウジとしては自ら率先して減産に取り組んでいる目的が国営石油会社のIPOを成功裏に実現させることにあるため、“インチキ”をしてでも原油相場が下支えられていれば構わないのである。その意味では、それが実現するまでは、こうしたことが顕在化して原油相場が崩落するのは回避されるだろう。それまではサウジも、また同国と連携する米ロックフェラー系石油資本も、さらに市場で実際に市況を動かしている投機筋を擁する金融資本も、その意向を受けて原油相場が大きく下がるのを避けようとすると思われるからだ。
 しかし、サウジとしては実際にIPOを実現してしまえば減産を継続する意味がなくなるだけでなく、米シェール業者にシェアを奪われるのを防ぐためにも、むしろ増産する誘惑に駆られておかしくない。これはまさに、80年代にサウジがスウィング・プロデューサーの役割を放棄して増産に向かったことで、原油相場が一桁台に暴落した状況を想起させるものだ。おそらく、いずれ原油相場が大きく下がることで経済・財政状態が厳しいいくつかの産油国が債務不履行(デフォルト)に陥るなど、多くの産油国や石油業者がさらに苦しい状況になり、本格的に市況の回復に向けて抜本的に構造改革に取り組むまでは、長期的に原油相場が底入れすることはないのだろう。
 例年、西暦の一桁台が「7」か、特に「8」のつく年には必ずといってよいほど金融市場がクラッシュに襲われて株価が暴落する傾向があるが、今回も来年夏以降、原油相場の崩落を契機にそうしたことが起こっておかしくない。

 おそらく、そのなかでもベネズエラは最もデフォルトに陥る危険性が高く、それ以外にも財政事情や経済構造が脆弱ないくつかの産油国がそれに追随する可能性がある。産油国に限らず、多くの新興国では資金流出に見舞われて信用収縮から苦しい状況に陥ることになるだろう。
 かつて「BRICS(ブリックス)」と呼ばれた新興大国のなかでも、インドは輸入依存度が高いだけに貿易赤字が縮小してむしろ助かるところもあるだろうが、中東の産油国と同様に原油や天然ガスの輸出に外貨の獲得や財政収入の多くを依存しているロシアは極めて深刻な状態にならざるを得ず、一次産品への輸出依存度が高いブラジルや南アフリカがこれに続くだろう。
 しかし、その経済規模や世界経済、グローバル市場への影響の度合いから非常に大きな影響を及ぼさずにおかないのが中国である。


 週末となる明日は今回の続きとして、中国への波及や簡単な石油業界の動向について考察します。
 また、今週はさらに1日延長して、その続きとして米国がパリ協定を離脱した意味合いについても簡単に述べることにします。
 よろしくお願いします。
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プロフィール

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永山卓矢と申します。
有限会社ナリッジ・クリエイション代表です。
現在、マクロ経済の分野でアナリスト業務を中心に活動しています。
フリーの立場で従来のマクロ経済や金融市場分析に限らず、その背後の政治的な権力闘争に至るまで調査活動を行っています。
これまで、月刊誌『商品・証券・金融先物市場』とその後継の『フューチャーズ・マーケット』や投資日報社などの大部分のインタビュー記事の作成をはじめ、他の情報媒体の市況執筆に携わってきました。
また、『「実物経済」の復活』(副島隆彦著 光文社刊)』はじめ、著名評論家の著作本執筆の実質的な共著や補助などの業務に携わってきました。
どうぞ、よろしくお願いいたします。