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英国の総選挙の結果から見える米国及び世界情勢の変遷

ポイント
・英国の総選挙で見込みとは反対に政権与党が敗北したのは油断による「自滅」によるものだろうが、そこにはナショナリズムが後退している潮流のなかで行われたことも重要だ。
・米権力者層はロシアと対立する路線に戻ったようだが、そこには米系財閥がエネルギー分野を押さえているなかで、その気になればロシア経済を崩壊させられる自信、確信”がある。



保守党の大敗は自滅か?

 次に英国の総選挙については、テリーザ・メイ首相が欧州連合(EU)からの離脱に向けて、足元の基盤をより磐石なものにしようとする意図で行われたものだ。いうまでもなく、与党・保守党の議席数が過半数をわずかに超える状態からそれなりに伸ばし、安定多数を得られることが見込まれたからこそ、強硬路線に打って出たのだが、結果は見事にそれに反するものになってしまった。
 保守党の議席数は12議席減らして318議席になった一方、野党・労働党は41議席も増やして261議席に伸ばした。保守党は過半数を割ったが、北アイルランドの保守政党である民主統一党(DUP)と、おそらく連立ではなく閣外協力の形で現政権が存続するメドが立ったことで、メイ首相は続投を表明した。

 今回、メイ首相の思惑に反して保守党が敗れたのは、専門家が指摘している通り、在宅介護の負担率を引き上げるなど高齢者に負担の増加を求めたからだ。もとより若年層がEUからの離脱に反対していたのに対し、高齢者はそれに賛成する向きが多かったが、そうした支持層の怒りを買うことを政権公約(マニフェスト)で提唱したことで、保守党政権は「自滅」したといった評価が聞かれる。
 そこには当初、“楽勝ムード”が漂っていたなかで、ある程度は油断した面もあったかもしれない。ただ保守政党の本来の支持基盤である保守勢力は、増税反対・減税推進や行き過ぎた社会保障制度の是正を求める傾向が強い。そこで選挙結果をあまりに楽観視していたなかで、安易に保守党の本来の主張を前面に出してしまったのだろう。


ナショナリズム的な勢力が後退している時に行われた総選挙

 ただ、そこには親イスラエル右派主導でロシアと提携し、各地の極右勢力を支援してナショナリズムを高揚させ、分裂に拍車をかけて混沌とした状況を醸成していた勢力が、ここにきて後退している時期に英国で総選挙が行われたことを考える必要がある。
 米国ではドナルド・トランプ政権が「ロシアゲート」問題で批判を浴びており、4月23日と5月7日に行われたフランスの大統領選挙でも親EU的なエマニュエル・マクロン現大統領が当選している。そうした潮流が今回の英国での総選挙で影響を及ぼしていておかしくない。

 その背景には、米権力者層の路線が変わってきたことがある。権力者層は軍需主導で経済成長を牽引していくにあたり、極東では中国を相手に「新冷戦」構造を構築する一方で、中東ではイランへの攻撃をはじめ「熱戦」を繰り広げようとしている。
 そこで権力者層は極東で中国と提携したり、中東でもシリアのバッシャール・アサド政権だけでなくイランも支援することがないように、親イスラエル右派勢力に共和党系新保守主義(ネオコン)派が協力する形でロシアを味方に引き入れようとするシナリオが、昨年の大統領選挙戦中には優勢だった。ところが、トランプ政権が発足してからすぐにロシアゲート問題で動揺しているように、親ロシア的な姿勢が痛烈な批判を浴びるようになっている。

 トランプ政権は欧州ロスチャイルド財閥系が米ロックフェラー財閥系と提携したことで成立した経緯がある。欧州系財閥としては提携するにあたり、その条件として英国をEUから切り離すことに同意したようだが、大陸のユーロ圏も分裂に拍車をかけてしまえば自分たちの本来の基盤が失われてしまうため、それは絶対に受け入れられないことだ。
 そこで米系財閥としては欧州の分裂の回避に同意する代わりに、それに“にらみ”を利かせるためにロシアを敵対したままその勢力を温存させることにしたのだろう。


ロシアは米系財閥の“掌の上に乗っている”

 その背景には、米系財閥としては「その気になれば」容易にロシア経済を崩壊させられるという“自信”“確信”があることがある。ロシアは外貨収入の大部分を原油や天然ガスといったエネルギーの輸出に依存しており、原油価格が著しく下がれば経済状態が低迷してしまい、財政事情も悪化せざるを得ない。そうしたエネルギー分野こそ世界的に米系財閥が巨大な影響力を行使しているだけに、ロシアはその“掌(てのひら)の上に乗っている”状態にあるといって過言ではないからだ。

 かつて、金本位制に立脚した英国のポンド基軸通貨体制を強化するために、またロシア帝国の南下政策による欧州やその植民地に対する圧力を除去するために、欧州系財閥はウラジーミル・レーニンやレフ・トロツキーを支援し、ロシア革命を引き起こしてロマノフ王朝が持っていた巨大な金塊を奪い取ったものだ。ところが、やがて石油の利権を握った米系財閥がヨシフ・スターリンを操り、レーニンやトロツキーを殺害させてクレムリンの支配権を奪い取ることができたのはこうした事情によるものだ。
 つい最近でも、80年代後半には米国が製造業で凋落して日本や西ドイツに抜かれたなかで、「平和の配当」を得るために東西冷戦を終わらせるにあたり、米外交問題評議会(CFR)系を率いていたズビグニュー・ブレジンスキー元大統領補佐官主導でサウジアラビアにスウィング・プロデューサーの役割を放棄させて増産させ、原油価格を一桁台に暴落させたことでソ連経済を壊滅状態にさせたものだ。
 前回の当欄で指摘したように来夏以降、当時と同様にサウジに増産させることで原油相場が崩落していけば、ロシア経済は致命的な打撃を受けかねず、そうしたことを織り込んだうえで米権力者層は戦略を立てているのだろう。


 明日はカタールに対する断交、週末の明後日はイランのテロ事件について考察します。
 よろしくお願いします。
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プロフィール

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永山卓矢と申します。
有限会社ナリッジ・クリエイション代表です。
現在、マクロ経済の分野でアナリスト業務を中心に活動しています。
フリーの立場で従来のマクロ経済や金融市場分析に限らず、その背後の政治的な権力闘争に至るまで調査活動を行っています。
これまで、月刊誌『商品・証券・金融先物市場』とその後継の『フューチャーズ・マーケット』や投資日報社などの大部分のインタビュー記事の作成をはじめ、他の情報媒体の市況執筆に携わってきました。
また、『「実物経済」の復活』(副島隆彦著 光文社刊)』はじめ、著名評論家の著作本執筆の実質的な共著や補助などの業務に携わってきました。
どうぞ、よろしくお願いいたします。