記事一覧

今回のFOMCでの超タカ派的な政策決定の内容

ポイント
・今回の利上げの決定を巡り反対者が1名でたが、この人物は地区連銀で前任者の跡を継いでハト派の姿勢を堅持し続けている総裁であるだけに、特に驚くべきものではない。
・今回のFOMCの政策決定は今後の利上げのペースの方針だけでなく、資産縮小についてもできるだけ早期に開始し、その後のスケジュールも示されてかなりタカ派的になった。
・FOMCでは今後の経済状況の見通しを示すにあたり、唯一、インフレ見通しだけが下方修正されてハト派的なものになった。
・今回の資産縮小措置ではそれを決めやすくするために年間で利上げ1回分を視野に設定したと思われるが、以前、FRBが示した試算値を適用すると強力な引き締め効果になる。



採決では1名の反対者が出る

 今週は今後の市況や経済・金融情勢にも非常に大きな影響をもたらすだけに、やはり米連邦公開市場委員会(FOMC)での政策決定を重点的に採り上げないわけにいかない。
 今回の政策決定の内容は非常にタカ派的なものになったが、もとより市場では今回6月の利上げの決定については完全に織り込んでいたものの、それ以降の利上げやバランスシートの縮小に向けた動きについてはほとんど織り込んでいなかっただけに、米連邦準備理事会(FRB)と市場との大きな認識ギャップがさらに拡大してしまった。
 いうまでもなく、FRBの政策姿勢の背後には世界を実質的に統治、管理している米権力者層の意向や戦略が作用している。そのため、当欄では今週は単に今回のFOMCの政策決定の分析や影響を考察するだけでなく、権力者層の戦略にまで踏み込んで考えてみる。

 まず今回のFOMCでは政策金利であるフェデラルファンド(FF)金利が0.25%引き上げられて1.00~1.25%になったが、これについては既に市場では100%近く織り込まれており、完全に既定路線とでもいうべきものだった。
 利上げの決定を巡り、その採決ではミネアポリス連銀のニール・カシュカリ総裁だけが反対票を投じた。しかし、ラエル・ブレイナード理事やシカゴ連銀のチャールズ・エバンズ総裁といったハト派のFOMC委員が最近ではその姿勢をタカ派寄りに転換させたなかで、同総裁は唯一、前任者のナラヤナ・コチャラコタ前総裁の意志を継いでハト派的な姿勢を堅持していただけに、特に驚くべきものではない。
 ただ、米権力者層からFOMCでの調整役の役割を任じられているジャネット・イエレン議長としては、事前の根回し工作を繰り広げても全会一致の決定を達成できなかったことで満足していないかもしれない。


かなりタカ派的な内容になった今回の政策決定

 今回のFOMCで焦点になっていたのはFOMC委員による今後の利上げの見通しや、会合後に公表される声明文やイエレン議長による会見でバランスシートの縮小に向けた姿勢が示されるか、さらに今後のスケジュールを示すことまで踏み込んだものになるかといったことだった。結論からいえば、インフレ率の動向やその見通しを除いて、その決定内容は市場の大勢的な思惑とは裏腹に極めてタカ派的なものになった。

 まず今後の利上げのペースについては、これまでスタンレー・フィッシャー副議長が主導権を握っている執行部はじめ、多くのFRB理事や地区連銀総裁といったFOMC委員が示してきたように、年内ではあと1回との見通しが示され、なかには2回との見通しを示す見解も見られた。さらに来年についても、今年と同様に3回との見通しを示す委員が圧倒的に多かった。

 それだけではない。バランスシートの縮小問題については、当面は満期償還を迎えた保有資産の再投資を続けるとされたものの、声明文でもイエレン議長の会見でも、改めて今年中にそれを開始する姿勢が示された。しかも、それまではその時期は年末12月になるといわれていたが、イエレン議長は状況によりそれを速める可能性についても言及したことで、9月にそれが決まる可能性も出てきた。
 おそらく、当初は利上げとバランスシートの縮小開始を同時に決めることは避けると思われるので、その場合には年内にあと1回とされる次回の追加利上げの決定は12月に持ち越されるだろう。それでも、“前のめり”ではあってもその時期が9月に早まることに言及されたのには大きな意味がある。

 さらに今回はバランスシートの縮小に向けたスケジュールも公表されたが、それだけでもタカ派的であるといえるにもかかわらず、その内容もかなりそうした色彩が強いものとなった。
 縮小していく資産の規模については、当初は国債を60億ドル、住宅ローン担保証券(MBS)を40億ドルと計100億ドルから開始し、3カ月ごとにその縮小額を拡大していくとしている。そして1年後にはそれぞれ300億ドル、200億ドルの計500億ドルにまで達するとのスケジュールが示された。


唯一、物価見通しだけがハト派的に

 その一方で、FOMC委員による今後の経済状況の見通しについては、17年の実質国内総生産(GDP)成長率が3月時点の2.1%から2.2%に引き上げられた。また失業率も、直近の5月の雇用統計では4.3%にまで低下してきたのを踏まえて、3月時点では17年から19年にかけて押し並べて4.5%とされていたのを、それぞれ4.3%、4.2%、4.2%に引き下げられた。
 その一方で、インフレ率については足元の指標の動向を踏まえて、17年の個人消費支出(PCE)指数を1.9%から1.6%に、コアPCE指数も1.9%から1.7%に下方修正された。
 会合後のイエレン議長の会見でも「コアインフレは小幅に低下した」「賃金の伸びは依然として低い」「インフレが上向いた証拠はない」と述べた。これまで、FRB執行部の意向を容易に織り込んでこなかったなかで、市場が必要以上にそうしたことに影響されないようにするために、「数回のインフレ指標に過剰反応しないことが重要」として“クギを刺す”ことも発言せざるを得なかった。


来年には四半期ごとに利上げ2回分の引き締め効果に

 インフレに関する認識はともかく、今回の政策決定は全体的には極めてタカ派的な内容であるのは間違いない。
 バランスシートの縮小策については、開始から1年後には毎月500億ドルのペースで資産を圧縮していく方針が示され、年間で6,000億ドルとなる。おそらく、FRB執行部はカンザスシティ連銀が6,450億ドルの資産縮小で0.25%分の引き締め効果があると試算していたので、この試算を適用したのだろう。資産圧縮分で年間で利上げ1回分の引き締め効果になるので、来年も利上げを3回決めるとすれば計4回分になるからだ。

 ただし、FRBはベン・バーナンキ前議長時代の量的緩和策第3弾(QE3)が実施される以前には、1,500億~2,000億ドルもの資産規模の変動で政策金利を0.25%変更するのと同じ効果があるとの試算をまとめたことがある。この見解を今回、“機械的”に適用すれば、資産縮小の開始から1年後には3カ月間で0.25%の引き締めをするのと同じ効果がもたらされることになり、四半期ごとに利上げも同時並行的に進めていけば、実に「2回分」に相当する0.5%もの引き締め効果がもたらされることになる。

 当時はまだFRBの資産規模が現在ほど大きくなかったので、現在では資産縮小分の引き締め効果は当時に比べると小さくなっている可能性はある。ただ、カンザスシティ連銀の試算は多分に“生粋”のタカ派であるエスター・ジョージ総裁の意向を受けて、試算縮小措置を打ち出すにあたり、それを決めやすくするために引き締め効果を小さめに見積もった可能性を考えないわけにいかない。

 FRBの資産規模は、リーマン・ショックによる巨大な金融危機以前には9,000億ドルほどだったのが、その後の3回に及ぶ強力な量的緩和策を推進したことで4兆5,000億ドル程度にまで膨らませてきた。これからその規模を縮小させていくにあたり、セントルイス連銀のジェームズ・ブラード総裁は2兆ドルほどにまで削減できると主張した一方で、ジェローム・パウエル理事は2兆5,000億~3兆ドル程度にとどめる可能性を指摘した。
 今回のFOMCの決定を受けて、16日付の日本経済新聞ではパウエル理事の発言を採り上げて、長期金利が反転上昇する圧力はごくわずかにとどまるとの見通しを示しているが、見当違いも甚だしいと言わざるを得ない。
 仮にその上限の3兆ドルまででとどまるとしても1兆5,000億ドルもの資産を削減することになるが、かつてのFRBが示した試算値の上限の2,000億ドルを適用しても0.25%分の引き締め効果があることを考えると、縮小が完了するまでに利上げ7~8回分に相当する2%かそれに近い水準もの引き締め効果をもたらすことになる。ましてや、ブラード総裁の見解が採用されると3%を超えるほどの引き締め効果がもたらされることになる。


 明日は今回のタカ派的な政策決定が行われる背景となる政治的な環境やFRBが利上げ、バランスシートの縮小を急ぐ背景について考えます。
 明後日は今回の政策決定が行われるにあたり、大手金融資本とFRBとの関係を考察します。そのうえで、週末には米権力者層の思惑やその戦略について、歴史的な潮流もまじえて迫ってみたいと思います。
 よろしくお願いします。
スポンサーサイト

コメント

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

17894176

Author:17894176
永山卓矢と申します。
有限会社ナリッジ・クリエイション代表です。
現在、マクロ経済の分野でアナリスト業務を中心に活動しています。
フリーの立場で従来のマクロ経済や金融市場分析に限らず、その背後の政治的な権力闘争に至るまで調査活動を行っています。
これまで、月刊誌『商品・証券・金融先物市場』とその後継の『フューチャーズ・マーケット』や投資日報社などの大部分のインタビュー記事の作成をはじめ、他の情報媒体の市況執筆に携わってきました。
また、『「実物経済」の復活』(副島隆彦著 光文社刊)』はじめ、著名評論家の著作本執筆の実質的な共著や補助などの業務に携わってきました。
どうぞ、よろしくお願いいたします。