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採決にあたり奇策を講じたFRB執行部

ポイント
・FOMCでは超タカ派的な政策を決めるにあたり、ハト派寄りの中間派の反対を封じるために6,450億ドルで0.25%の引き締め効果があるとするリポートを議論のたたき台にした。
・9月にバランスシートの縮小開始、12月に追加利上げの決定と以前の想定から順番を入れ替えるようだが、その背後には中国での共産党大会の開催があるものと思われる。



ハト派的なリポートをたたき台に

 13~14日に開催された米連邦公開市場委員会(FOMC)についてはこれまで、当欄で徹底的に採り上げたが、会合での状況について少し補足説明しておく。
 今回、0.25%の利上げの決定に加えて、声明文で今後のバランスシートの縮小に向けたスケジュールを示すにあたり、採決ではミネアポリス連銀のニール・カシュカリ総裁だけが反対票を投じた。
 ただ、スタンレー・フィッシャー副議長が主導権を握っている米連邦準備理事会(FRB)執行部が強引に推し進めようとしている利上げやバランスシートの縮小策については、いかに“調整役”を担っているジャネット・イエレン議長が必死に“根回し工作”を繰り広げようにも、反対していたハト派のFOMC委員はもっと多かったはずだ。実際、カシュカリ総裁が自身以外に反対票を投じる者が誰もいなかったとして驚いていたものだ。
 そこで執行部は採決でより多くの賛成票を得るために、また投票権のない地区連銀総裁の間でも会合での議論で反対する雰囲気が強まらないように、執行部は事前にある“奇策”を講じたようだ。

 以前、当欄で述べたように、FRBは2,000億ドルものバランスシートの圧縮で利上げ1回分に相当する0.25%もの引き締め効果があるとの試算を示している。この試算は量的緩和第3弾(QE3)が開始される以前の前任のベン・バーナンキ議長時代に最初にまとめられたものだが、最近でもイエレン議長に近く、FRBでは3番目の地位にあるニューヨーク連銀のウィリアム・ダドリー総裁が非公式に言及している。
 ところが執行部は今回のFOMCの開催を控えて、カンザスシティ連銀のエコノミストに6,450億ドルものバランスシートの圧縮で0.25%の利上げ分に相当する引き締め効果があるという、上記のFRBの見解よりはややハト派的なリポートを作成させ、それを今回の政策決定を行うにあたり、議論の“たたき台”にしたという。


奏功した執行部の奇策

 経済理論(モデル)による予想というものは、その前提となる変数を組み替えることで、試算結果がどのようにでも変わってしまうものだ。
 2,000億ドルのバランスシートの圧縮で0.25%分の利下げ効果があるとするなら、毎月500億ドルものペースで圧縮していけば3カ月で1,500億ドルに達するので、来年も今年と同じペースで3回利上げを決めるなら事実上、毎四半期に0.5%もの引き締め効果がもたらされることになる。
 ところが、毎月500億ドルのペースであれば年間で6,000億ドルのペースとなり、カンザスシティ連銀のリポートで示された試算数値を適用すればほぼ利上げ1回分になる。すなわち、バランスシートの縮小とは別に利上げを3回決めるとすれば、実質的に年間で引き締め効果は4回分になる。
 こうした試算結果を議論のたたき台にしたうえで、水面下でイエレン議長を中心に大手金融資本が政治的な圧力もかけることで、ハト派寄りの中間派も執行部の路線を追認させることに成功した。それにより、採決では反対票が1人しか出なかったのである。


年内の利上げとバランスシート縮小を入れ替える

 ただFOMCが終わってから再び活発にFOMC委員が発言するようになったが、そこでは前記のダドリー総裁や、直接的に金融政策に言及しなかったとはいえフィッシャー副議長、ボストン連銀のエリック・ローゼングレン、クリーブランド連銀のロレッタ・メスター両総裁が今後の利上げやバランスシートの縮小開始を肯定したのを除くと、ややハト派的な発言が目に付いた。反対票を投じたカシュカリ総裁を除くと、ダラス連銀のロバート・カプラン、シカゴ連銀のチャールズ・エバンズ、フィラデルフィア連銀のパトリック・ハーカー、セントルイス連銀のジェームズ・ブラード各総裁が「インフレの兆候が見られるまでは利上げを待つべき」といったことを述べていた。
 ただし、これらの各総裁はその一方でバランスシートの縮小は次の利上げの前に開始しておくべきといったことも主張しており、これは14日にFOMCの会合が終わった後の会見で、イエレン議長が早期に開始を決定する可能性に言及していたことと符合するものだ――すなわち、これまではプライマリーディーラーの間では6、9月に利上げを、12月にバランスシートの縮小開始を決めるといったことがいわれていたが、9月に開始を、12月に利上げを決めることでその順番を入れ替えるというものだ。

 おそらく、その背景には今秋に中国で共産党大会の開催を控えているなかで、その頃には金融市場が動揺する事態を避けようとしている思惑があるものと思われる。
 市場では9月の利上げはまだほとんど織り込んでいないのに対し、12月になると半分近い水準にまで織り込まれているので、9月に利上げを強行すると市場が動揺する恐れがあるからだ。それよりは先にバランスシートの縮小開始を決めておいた方が、当初は圧縮のペースが毎月100億ドルの規模に過ぎないため、利上げを決めるよりはまだ市場が受ける衝撃は軽微なもので済むという思惑があっておかしくない。
 先週、フィッシャー副議長やローゼングレン総裁が全体的にはタカ派的な発言をしておきながら、あえて金融政策に直接言及しなかったのはこのためだろう。


 明日以降の週末2日間は、中国が人民元の管理強化をはじめ資本取引の自由化を拒否する姿勢に変わるなど、最近の対米強硬姿勢について考察します。
 よろしくお願いします。
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プロフィール

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永山卓矢と申します。
有限会社ナリッジ・クリエイション代表です。
現在、マクロ経済の分野でアナリスト業務を中心に活動しています。
フリーの立場で従来のマクロ経済や金融市場分析に限らず、その背後の政治的な権力闘争に至るまで調査活動を行っています。
これまで、月刊誌『商品・証券・金融先物市場』とその後継の『フューチャーズ・マーケット』や投資日報社などの大部分のインタビュー記事の作成をはじめ、他の情報媒体の市況執筆に携わってきました。
また、『「実物経済」の復活』(副島隆彦著 光文社刊)』はじめ、著名評論家の著作本執筆の実質的な共著や補助などの業務に携わってきました。
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