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人民元を強力に管理する方針に転じた中国政府

ポイント
・リスク選好が強まっていたことで世界的に株高になってきたなかで、市場規模が小さい新興国株は先進国株以上に高騰していたが、中国株は管理色が強く鈍い動きが続いていた。
・最近では中国の当局はFRBの超タカ派的な金融政策もあって一段と資本流出を警戒して管理色を強めており、人民元相場の値動きも人民銀行の裁量が増している。
・中国の当局が人民元崩落を阻止する目的には国家の威信や人民元に対する信用の低下の阻止が挙げられるが、最大の理由は国有企業を中心に簿外で莫大な債務を抱えているなかで、その実質負担の膨張を抑えるためだ。



唯一、当局の管理が強まっている中国株が鈍い動き

 米連邦準備理事会(FRB)が“超タカ派的”な金融政策を決めれば米国への資金還流が進むことで、新興国の間では資金流出から危機的な状況に陥るリスクが高まるはずだ。しかし、足元では先進国以上に、新興国の株価が市場規模が小さいだけにより大きく高騰している。米権力者層の意向を受けて政策当局や大手金融資本が積極的に株価を押し上げていることで、リスク選好が強まっていることによるものであることは改めて指摘するまでもない。
 とはいえ、いうまでもなくそうした状態が長続きしないのは、新興国の政策当局者も十分に理解しているはずだ。13~14日の米連邦公開市場委員会(FOMC)での政策決定を受けて、さぞかし新興国の当局者は“戦々恐々”としているはずである。米国は国際通貨基金(IMF)に厳格な条件を要請しなくても迅速に融資できるような制度を構築するように働きかけることで、ひとまずその不安の払拭に努めているところだ。

 多くの新興国の株価が高騰しているなかで、唯一、停滞しているのが中国株である。先進国では日本株の出遅れ感が目立つが、中国株の昨年末からの上昇率はその日本株をも大きく下回っている。
 もとより中国株は政策当局が厳格に管理を強めていたため、人民銀行が景気押し上げや資金需給のひっ迫への対処から金融緩和策を推進していた当時でも、供給された資金の多くは沿海部の大都市の不動産市場に向かって株式市場にはあまり流入していなかった。最近では人民銀行がこれらの地域での不動産バブルの抑制を目指して金融引き締め策に転じたことや、今秋の共産党大会の開催を控えて混乱の“種”を未然に防ぐためにさらに市場管理が厳しくなっていることから、よけいに資金が流入しにくくなっている。


値動きを抑え込んで管理色を強める人民元相場

 ただ、中国政府が市場管理を強めているより端的な事例が、人民元相場の値動きを厳格に管理するようになったことだ。
 もとより人民銀行は人民元相場の日々の値動きを、自身が毎日設定している「基準値」の上下2%の範囲内でしか認めていなかった。それでも15年8月にIMFの要請に応じて切り下げに動いたなかで、人民銀行は前日の終値を参考にそれを決めることにすることで、より市場実勢を反映したものにすることを謳っていた。
 それがここにきて、その設定については厳格な値動きに押しとどめ、しかも人民銀行の裁量の余地を飛躍的に大きくするように制度変更している。以前から人民元相場が大きく下げていたなかで、中国政府は大幅な切り下げはしないことを再三にわたり表明していたが、今回、それを制度的にも強力な措置を導入して対処することにしたものだ。


人民元相場の崩落を阻止する真因とは?

 ここにきて強力な措置を導入することになったのは、いうまでもなく今秋に共産党大会の開催を控えているなかで、資本流出が加速することで大きな混乱を引き起こす“芽”を摘み取ろうとしているものだ。さらに、FRBの超タカ派的な政策がそれに拍車をかけたのは間違いない。
 ただし、以前には強力に元買い介入を続けるにあたり、人民銀行を管轄している国務院を率いている李克強首相が輸出押し上げを狙った切り下げはしないことをその名目にしていた。ただそれ以上に大きな理由としては、専門家の間では自国通貨の価値は国家の威信と“比例”するところがあるのでその低下を防ぐためであることや、「一帯一路」構想を推進するにあたり、人民元の国際的な信用を高める必要があるといったことが指摘できる。
 そして最大の理由は、中国では国有企業を中心に潜在的に莫大な対外債務を抱えており、人民元相場が下がることでその返済負担が著しく高まるのを防ぐためである。このことはこれまで当欄で何回か述べてきたが、中国経済の本質を理解するうえで非常に重要なことなので、何度指摘してもし過ぎることはないはずだ。

 中国経済は本当の意味で市場経済が機能していなかったことから「収益」や「採算」、「コスト」という概念が希薄である。利益を出すために技術革新や創造性を駆使することで消費者に受け入れられるものを供給したり、コストを圧縮するといった観念に非常に乏しいことが知られている。
 特に共産党の幹部で占められている国有企業の経営者の体質は“親方日の丸”とでもいうべきものなので、そうした傾向が顕著である。多くの国有企業は高度成長時代にあっても本当は慢性的に赤字体質だったようだが、それを海外で資金調達をして「偽装輸出」により国内に流入させ、それによって受け取った資金を売り上げに回すことで黒字決算を取り繕ってきた。
 すなわち、かつて李首相が遼寧省党委員会書記だった時代に指摘したように、中国の景気指標は国内総生産(GDP)統計を筆頭に正確性が著しく低いことで知られているが、外需寄与度が実態より大きくかさ上げされていたのは明らかであり、実際に中国のGDPの規模はまだ日本を抜いていないといった指摘が出ているほどだ。今では中国経済に対して楽観的な論評を展開していた評論家はめっきり少なくなったが、こうした楽観論者はその本質すら見抜けなかった“木偶の坊”だったことがはっきりしつつある。


 週末となる明日はこの続きとして、米国との関係を織り交ぜて考察します。
 よろしくお願いします。
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プロフィール

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永山卓矢と申します。
有限会社ナリッジ・クリエイション代表です。
現在、マクロ経済の分野でアナリスト業務を中心に活動しています。
フリーの立場で従来のマクロ経済や金融市場分析に限らず、その背後の政治的な権力闘争に至るまで調査活動を行っています。
これまで、月刊誌『商品・証券・金融先物市場』とその後継の『フューチャーズ・マーケット』や投資日報社などの大部分のインタビュー記事の作成をはじめ、他の情報媒体の市況執筆に携わってきました。
また、『「実物経済」の復活』(副島隆彦著 光文社刊)』はじめ、著名評論家の著作本執筆の実質的な共著や補助などの業務に携わってきました。
どうぞ、よろしくお願いいたします。