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米国やサウジはロシアやイランに対処する必要がなくなる

ポイント
・これまでは米国やサウジアラビアがロシアへの攻撃やイランの増産の牽制、さらには米シェール業者にも打撃を与えようとしたことがOPECの減産合意を阻んでいた。
・ここにきて米シェール業者の整理淘汰の進展やイランの産油量の頭打ち、さらには米上層部でロシアとの提携を模索する動きが出てきたことで上記の要因が剥落した。
・ドイツ銀行の問題がこの局面で出てきたのは、株価崩落を目論むトランプ候補を支持している勢力による作為的なものである可能性が高い。



OPECで合意を阻んだ二つの理由
 そもそも、原油相場や産油国、石油業界の問題を考えるうえで大事なことは、米国の世界覇権の最大の基盤とでもいうべきエクソンモービルを中心とする米石油メジャーと、石油輸出国機構(OPEC)の盟主にして世界でも群を抜く原油輸出大国であるサウジアラビアは実質的に一体化していることだ。
 これまで原油相場が低迷していたのは、需給面では中国で需要がかなり鈍化した一方で米国でシェールオイルの生産量が大幅に伸びたなかで、サウジが減産や生産量の上限枠の設定に反対したことから、OPECの総会で物別れの状態が続いたからだ。

 その背景には、一つにはそれまでバラク・オバマ米政権で外交問題評議会(CFR)系に代わって主導権を握った民主党系新保守主義(ネオコン)派が、ロシアを経済的、財政的に追い詰めてウラジーミル・プーチン政権を打倒しようと図ったことだ。次期ヒラリー・クリントン政権(この系列が主導権を握り続ければの話だが)で中国を相手に「新冷戦」構造に持ち込もうとしているなかで、同国と提携すると厄介なので先にロシアを潰そうとしたわけだ。
 それに加え、特にネオコン派とは異なり、イスラエルと距離を置く傾向が強いCFR系がイランと核開発問題で妥協してしまったため、サウジがよけいに態度を硬化させてしまった。実際、サウジはOPECの総会では、イランが制裁を受ける前に生産枠として割り当てられていた日量400万バレル以上の産油量を確保することは「当然の権利」だと主張して譲らなかったなかで、生産枠の上限の設定には応じないといった姿勢を一貫して採り続けたものだ。

 もう一つは近年、米国ではシェールオイルの生産量が飛躍的に伸びてきたなかで、その主役は独立系の石油会社で占められており、米石油メジャーが出遅れていたことだ。そうしたところに、一昨年夏季まで原油相場が100ドル前後の高水準での推移続いたことで、多くの石油会社が“雨後のタケノコ”のように出てきたなかで、米石油メジャーがサウジと連携して原油相場を崩落させたことで、採掘コスト面や財務面で脆弱なシェール企業が多く淘汰されていった。
 市況を崩落させる過程で、米連邦準備理事会(FRB)が量的緩和策の縮小や終了、さらには利上げを推進していく姿勢を見せていたのを理由に、シティ・グループを中心とする米大手銀行が商品ファンド向け信用供与を絞ったものだ。それにより、借り換えに窮したファンド群が原油先物市場で投げ売りせざるを得なくなり、それが次々に狼狽売りを誘って市況の崩落に拍車をかけたのである。
 この世界最大の金融資本のシティは、世界最大の石油資本であるエクソンと“オーナー”が同一人物である同じ系列であることも指摘する必要がある。


これまで合意を阻んでいた要因が剥落

 原油相場が一昨年秋に大暴落してそれ以降、昨年春から夏にかけての60ドル前後の水準を上限とする低水準での推移が続いたことで、今春には財務基盤の脆弱なシェール業者が社債の借り換えに苦しんで信用不安が強まるといった副作用も見られたが、石油業界ではかなり整理淘汰が進んだ。それによりシェール業者の間では競争力が強いところだけが生き残り、全体的に採掘コストが大幅に低下している。
 また大手石油会社の間でも、最近の原油相場の低迷から業績が落ち込んで赤字決算が続出したなかで、唯一、エクソンだけは大幅に減益を余儀なくされながらも黒字決算を維持して“独り勝ち”状態が鮮明になっている。それにより、エクソン自身もしっかりした技術を有していながら財務基盤が脆弱だったシェール業者を次々に吸収しており、今ではかなり採掘コストが低い油田を多く持っているシェール部門を傘下に収めている。

 それだけではない。例えばサウジはこれまで、イランが産油量を伸ばすことに反対して強引にそれを抑え込もうとしてきたことが、少なくとも表面的にはOPECでの合意を阻む最も大きな要因になっていた。ところが、そのイランでは産油量が最近3カ月では日量360万バレルで頭打ちになっており、以前から制裁を受ける以前に割り当てられていた同400万バレル以上に伸ばすことを主張していながら、実際にはそれが実現できそうもなくなってきている。イランでは長期にわたり核開発問題で国際連合(国連)から、また米国や欧州からはそれ以外にも独自に制裁を受けていたことで外国資本が参入できない状態が続いたため、採掘施設が老朽化して思うように産油量を伸ばせなくなっている。
 こうした状況では、財政状態が悪化しているサウジとしても、イランの増産姿勢を牽制してOPECでの合意に応じない姿勢を採り続けるより、姿勢を軟化させてそれに応じた方が得策といえる。

 さらにいえば、米国の上層部でも事情が変わってきたことも指摘できる。
 民主党系ネオコン派がロシアを潰そうとしたものの、原油価格の崩落だけでなくウクライナ問題での経済制裁も重なって同国の経済事情が著しく悪化したにもかかわらず、プーチン政権が倒れなかったことから、この系列の威信が低下してしまった。これに対し、中東での駐留米軍の再増派に反対しているCFR系が、大統領選挙をめぐり、リバタリアン亜流が支持していることで反グローバル的な「アメリカ・ファースト(米国第一主義)」を唱えている共和党のドナルド・トランプ候補を支持するようになった。
 それに加え、イスラエルの保守系政党で長期政権を維持しているリクードの最大の献金者として有名なユダヤ人の「不動産王」がトランプ候補の支持に回ったことで、リチャード・チェイニー前副大統領をはじめ共和党系ネオコン派の多くもそれに追随している。それにより、以前には大統領選挙では民主党のクリントン前国務長官が有利だと見られていたのが、支持率ではおおむねリードしているとはいえトランプ候補とそれほど大差のない状況になっているのは周知のことである。
 このトランプ候補を支持している勢力は、民主党系ネオコン派とは異なって中東の治安をロシアに依存する姿勢を見せている。今回、OPECでサウジが姿勢を軟化させたことで合意できた背景には、ロシアを経済的に苦しめる必要がなくなってきたこともあるのだろう。


ドイツ銀行の問題も作為的なものか?

 これまで当欄で述べてきたことだが、FRB執行部やそれと提携している米金融資本≒ウォール街の勢力の多くは大統領選挙でクリントン前国務長官を支持している。この勢力は、FRB執行部が年内に1回は――すなわち12月13~14日に開催される連邦公開市場委員会(FOMC)では利上げを決める姿勢を見せているものの、当面はその姿勢を後退させることで株高傾向を持続させ、クリントン前長官の当選を後押ししようとしている。
 これに対し、トランプ候補を支持している勢力は作為的に信用不安を引き起こし、株価を崩落させようとしている。その意味で、最近のドイツ銀行の問題はこうした勢力によって作為的に引き起こされている感がしないでもない。
 もとよりドイツ銀行の資産内容がかなり劣悪な状態にあったのは確かだが、最近のこの問題の高まりは、先月16日に米司法省が米国内での過去の住宅ローン担保証券(MBS)の不正販売をめぐり、140億ドルという“常軌を逸した”法外な和解金を要求したことで、ドイツ銀行の財務内容が資本不足の状態に陥るとの懸念が高まったことにある。いうまでもなく、総選挙を控えて世論の反発を恐れてアンゲラ・メルケル政権が容易に救済に動けないことを“計算ずく”のうえで行われているわけだ。
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プロフィール

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永山卓矢と申します。
有限会社ナリッジ・クリエイション代表です。
現在、マクロ経済の分野でアナリスト業務を中心に活動しています。
フリーの立場で従来のマクロ経済や金融市場分析に限らず、その背後の政治的な権力闘争に至るまで調査活動を行っています。
これまで、月刊誌『商品・証券・金融先物市場』とその後継の『フューチャーズ・マーケット』や投資日報社などの大部分のインタビュー記事の作成をはじめ、他の情報媒体の市況執筆に携わってきました。
また、『「実物経済」の復活』(副島隆彦著 光文社刊)』はじめ、著名評論家の著作本執筆の実質的な共著や補助などの業務に携わってきました。
どうぞ、よろしくお願いいたします。