記事一覧

FRBは本当は新興国危機の到来を望んでいる

ポイント
・市場がFRBの政策方針を織り込まない本当の理由は、流動性が収縮することで新興国不安が引き起こされやすくなり、また米国にも跳ね返ることを懸念しているからだ。
・しかし、FRBが本当に目指しているのは、新興国危機を引き起こすことで米国優位の状況をもたらすことや、放出する米国債を新興国勢に吸収させるためである。
・これまで米国はドル安にすることで対外債務を帳消しにし、リーマン・ショックの際にも新興国勢に対外債務を負わせてきた経緯があり、今回もそれと同じことを目論んでいる。



市場がFRBの政策方針を織り込まない本当の理由

 どうして市場では米連邦準備理事会(FRB)が順調に想定通りに利上げや、特にバランスシートの縮小に向けた政策を推進していけないと予想しているかというと、インフレ率が目標値に向けて上昇していくメドが立たないといったことはあくまでも“表向き”の理由に過ぎない。それ以上に重要なのが、新興国では既にピークを打っているとはいえ依然としてバブルがかなり積み上がっているなかで、基軸通貨国である米国の中央銀行であるFRBが利上げに加えて資金吸収策に動けば、流動性が収縮することで世界的に信用不安が強まり、新興国危機が引き起こされやすくなるからだ。
 実際、13年5月22日にベン・バーナンキFRB議長(当時)が量的緩和策の縮小に動く方針を示し、6月19日には実際にそのスケジュールを発表したことで新興国通貨不安が高まったものだ。当時、「フラジャイル・ファイブ」と呼ばれた慢性的に財政・経常収支が赤字を抱えている新興諸国が投機筋に狙い撃ちにされ、また「シャドーバンキング(影の銀行)」問題をはじめ、中国不安もたびたび高まったものだ。
 現在では“学習効果”から当時ほど危機的な状況にはならないとの楽観的な見方がある一方で、欧州中央銀行(ECB)が量的緩和策の縮小(テーパリング)に、英中央銀行(イングランド銀行、BOE)も利上げに動くなど、日本銀行(日銀)を除いて先進国・地域ではいずれも金融政策の正常化に向かうことで、当時より大きな衝撃に見舞われておかしくないともいえる状況だ。

 しかも、米国にとってもこれは“対岸の火事”で済ますわけにいかず、自身にも跳ね返って悪影響をもたらす恐れがある。
 かつて、97年7月2日にタイの通貨バーツ相場が切り下げられたのを機に瞬く間に東南アジア一帯に拡大したアジア通貨危機は、同年末にかけて韓国や南米諸国にも波及していき、翌98年8月にはロシア危機を引き起こした。その過程でロングターム・キャピタル・マネジメント(LTCM)が破綻するなど米大手ヘッジファンド群にも経営危機に陥るところが出てしまい、米国にも流動性危機が波及する可能性が出たものだ。
 こうしたことから、FRBはこれから利上げはおろか、いかにスケジュールを示しても機械的にそれを推し進めることはできないと市場では“高を括って”いる。しかしこのごく一般的な認識は、世界覇権国である米国の本質を理解していないものといわざるを得ないものだ。


米国は一段と優位な地位への向上を目指す

 まず、自国に波及せずに危機が新興国だけにとどまるとするなら、米国としてはこれほど望ましいことはない。
 00年代に中国を筆頭に「BRICs(ブリックス)」と呼ばれた新興大国が台頭し、08年にはリーマン・ショックによる巨大な金融危機に見舞われたことで、米国による世界覇権の凋落がまことしやかにささやかれたものだ。これから深刻な新興国危機が襲えば、そうした新興大国に大きな打撃を与えて「米国独り勝ち」の状態を現出することで、米国はかつての覇権国としての圧倒的に優位な地位を取り戻すことが可能に思えてくる。
 実際には米国だけが悪影響を受けないと考えるのはあまりに楽観的ではあるが、それでも新興国が危機に陥るなかで、信用不安の衝撃を軽微に抑えることができれば、既に近年では米国経済だけが景気が底堅く推移し続けているなかで、米国は世界的に比較相対的な観点から一段と優位な地位に立てることになる。


FRBによる保有米国債の受け皿の確保が必要に

 より技術的な問題を考えると次のようになる。
 FRBが08年11月以降、3回にわたる強力な量的緩和策を推進して国債や住宅ローン担保証券(MBS)を大量に買い取ってきたのは、景気の落ち込みへの対処というよりは、リーマン・ショックによる巨大な金融危機に見舞われたことで経営危機に陥った銀行を救援するためのものだった。それゆえ、FRBがこれまで推進してきた量的緩和策は、正式には「信用緩和策」とされているものだ。
 こうした政策が推進されたことで多くの銀行が危機を脱して財務基盤を強化することができたが、それは銀行からFRBに資産を“付け替えた”に過ぎないものであり、それによりFRBの総資産は危機前の9,000億ドルほどだったのが現在では4兆5,000億ドル程度にまで膨張してしまった。これからFRBがバランスシートを縮小していくことで、今度はそのFRB自身が財務基盤を強化していく順番が回ってきた段階を現在では迎えているところにあるといえる。

 FRBはバランスシートを圧縮していくにあたり、まだしばらくは保有国債を市場で売ることで公開市場操作(オペレーション)を再開するのではなく、MBSとともに満期償還を迎えた資産を再投資しないことで対処していく方針を示している。
 それでも長期金利には相応の上昇圧力がかかることになるが、それは一面的には利ザヤが拡大していくことで銀行の収益基盤を強化することになり、実際に最近、株式市場ではハイテク株が軟弱な動きになっている一方で銀行株がこうしたことが好感されて買われている。FRB執行部や多くの連邦公開市場委員会(FOMC)委員が描いているシナリオ通りに利上げを推進していけなくなれば、よけいにイールドカーブがスティープ(急勾配)化して銀行にとっては好環境が訪れることになる。
 問題は長期金利の上昇が新興国を中心に信用不安を引き起こす場合だが、実はFRBにとっては、ある意味ではこうした状態になる方が望ましいのである。なぜなら、そうした状態になれば安全資産として米国債が集中的に買われることで(外国為替市場ではリスク回避局面になれば円相場が最も上昇するように、それ以上に世界でも群を抜く債権大国である日本の国債が買われるが)、FRBとしては労せずして放出していく国債を吸収させることができるからだ。


新興国に対外債務を負わせ帳消しに

 いうまでもなく、リスク回避が進んで米国に資金還流が進む状況になれば、最も米国債を買うことになるのは新興国勢である。
 ただし、リスク回避局面はあくまでも一時的な現象に過ぎず、往々にしてそうした局面で買いついた向きは“高値づかみ”になりやすく、いずれ投げさせられる(損切りでの売り)ことになるものだ。それにより新興国勢が損失を負うことになることでそれだけ対米債権を失うことになり、米国側から見れば“都合良く”対外債務を“帳消し”にできることになる。

 米国は1971年8月15日に金との結び付きが断たれて以降、米ドル紙幣や米国債を無尽蔵に発行していくことで流動性を供給し、世界経済成長に貢献してきた。それにより膨らんでいった対外債務を、ドル相場を切り下げていくことで帳消しにしてきた。
 00年代に入り「BRICs」に代表される新興国が台頭すると、そうした新興国勢に米国への輸出で得たドル資金を米国債や米国株に投資させてきたのであり、実際にリーマン・ショック以前の07年10月9日にダウが当時の史上最高値である1万4,198ドルまで買い上げられた原動力が、こうした新興国勢による買い圧力だった。
 そうして買われた米国株はリーマン・ショックによる暴落で、また米国債もFRBによる強力な量的緩和策によるドル安で投げさせられ、それにより米国は対外債務を帳消しにすることに成功している。
 それと同じことが、これからFRBがバランスシートを縮小していくことで引き起こされるわけである。


 明日は本日、掲載したものの続きとして、どうして米国(FRB)がこうした作為的に流動性を収縮させる政策を推進することができるか、その本質について述べます。
 週末の明後日もその続きとして、米国が世界覇権を維持していくにあたり、今回のFRBの政策姿勢と関連付けてその本質を考察します。
 よろしくお願いします。
スポンサーサイト

コメント

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

17894176

Author:17894176
永山卓矢と申します。
有限会社ナリッジ・クリエイション代表です。
現在、マクロ経済の分野でアナリスト業務を中心に活動しています。
フリーの立場で従来のマクロ経済や金融市場分析に限らず、その背後の政治的な権力闘争に至るまで調査活動を行っています。
これまで、月刊誌『商品・証券・金融先物市場』とその後継の『フューチャーズ・マーケット』や投資日報社などの大部分のインタビュー記事の作成をはじめ、他の情報媒体の市況執筆に携わってきました。
また、『「実物経済」の復活』(副島隆彦著 光文社刊)』はじめ、著名評論家の著作本執筆の実質的な共著や補助などの業務に携わってきました。
どうぞ、よろしくお願いいたします。