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国債買い入れ発動に見る日銀の金融政策の本質

ポイント
・日銀は長期金利を誘導目標水準に収めるにあたり、買い入れに動く姿勢を市場が織り込むことで達成されるのが望ましいが、今回は実際に買い入れに動かざるを得なかった。
・海外から長期金利の上昇圧力がかかり続けているなかでは誘導目標を引き上げることが必要だが、実際には財界の意向や米国の戦略に沿ったG30の指示からそれは困難である。
・日銀はCPIでの2%に到達することを目標としているが、実際にはそれは不可能であり、実質的に半永久的に現行の政策を続けることを宣言しているといって過言ではない。
・それにより、企業の内部留保や日銀が創造する新規資金が米金融市場に流入し続けて米ドル基軸通貨体制や、ひいては米国の世界覇権を支え続けることになる。



日銀が長期金利の上昇圧力を抑えるために国債の買い入れに動く

 先週は米国が独立記念日で休場だった4日に北朝鮮がミサイルを発射し、これを同国が大陸間弾道ミサイル(ICBM)と正式に発表して米国側も後に追認するといった大きな出来事が起こった。また6日には日本と欧州連合(EU)との間で経済連携協定(EPA)の締結で大枠合意に達したことが正式に発表された。さらに週末7~8日には独ハンブルクで主要20ヵ国・地域(G20)首脳会議(サミット)が開催されたが、それを挟んで各国・地域の首脳が一堂に集まったのを利用して活発に個別に会談が繰り広げられた。
 かなり重要なことがいろいろ起こったが、まずは市場に直接関係のある日本銀行(日銀)の国債買い入れや米雇用統計といった週末7日の日米の要因について簡単に見ておく。

 まず日銀の国債購入は長期金利(10年債利回りベース)で0.110%を指し値として、残存期間が5年超10年以下の国債を公開市場操作(オペレーション)形式で5,000億円買い入れるというものだった。日銀は16年9月の金融政策決定会合でそれまでの政策の総括的な検証をしたうえで、長期金利を0%程度で誘導する新たな政策手法を導入している。その後の長期金利の動きを踏まえて日銀が市場関係者に通知したことで、0%を中心におおむね上下0.1%の範囲内に収束させることが事実上の既定路線となっていた。
 今回、欧州中央銀行(ECB)や米連邦準備理事会(FRB)の金融政策姿勢を受けて欧米の長期金利が上昇しており、その余波を受けて日本の長期金利も上昇して0.1%を超える勢いを示していたことで、日銀が上昇圧力を抑えるために買い入れに動いたものだ。

 ただし、日銀が新たな政策を打ち出したのは、その軸足を「量」から「金利」に移すことがあった。その背景には、一つにはいかに日本は世界でも群を抜く貯蓄超過国であるとはいえ、日銀としてはこれ以上、大量に国債を購入したくないとの思惑があった。また物理的にも、政府・財務省がそれなりに財政再建に向けて取り組んでいるなかで、さらに大型の景気対策を打ち出して新規国債を増発しない限り、それまでのペースで国債を買い入れることができないという問題もあった。
 このため、日銀としては長期金利を目標水準に誘導していくにあたり、実際に国債を購入するのではなく、指し値を提示して買い入れる意向を示すことで、市場がそれを織り込むことで達成されるのが望ましいはずである。しかし、今回は通常の定例入札とは別に臨時での買い入れを行わざるを得なかった。


長期金利の誘導目標引き上げが必要だが現実的には困難

 問題なのは、足元の長期金利の上昇圧力が海外からの余波によるものであり、今後もそうした圧力を受け続ける公算が高いことだ。日銀がさらに通常のペースを上回る規模での国債の買い入れを避けるには、長期金利の誘導目標水準を引き上げるか、引き上げないまでも許容範囲を拡大させなければならなくなる。
 しかし、日銀では“生え抜き”出身の速水優総裁時代に、その対抗馬として総裁の意向にことごとく反対して緩和路線の継続を主張した中原伸之審議委員(当時)が隠然たる力を持って以来、国内では輸出依存度が高い財界の、また対外的には米ロックフェラー財閥の意向を強く受けるようになっている。特に中原元審議委員は安倍晋三首相の重要な経済ブレーンなので、よけいにそうした傾向が強くなっている。

 国内の財界の勢力が日銀に求めているのは、いうまでもなく円高を阻止することだ。日銀の金融政策は国内のデフレ圧力への対処がその“建前”になっているが、実質的には為替操作を目的としているのはいうまでもないことだ。
 さらに主要国・地域の中央銀行の金融政策を実質的に統轄しているとされるグループ・オブ・サーティ(G30)では、欧州ロスチャイルド財閥系の影響力を退けて前記の米系財閥が主導権を握っている。以前、当欄で述べてきたように、米政策当局やその背後の権力者層は日銀にこれまでのように超強力な量的緩和策を継続させることで、「資金供給基地」としての“安全弁”を確保したうえで、FRBに利上げや特にバランスシートの縮小をさせていこうとしている。そうすることで新興国危機を再燃させながら、米金融市場への影響を軽微なものにとどめることで「米国独り勝ち」状態を現出させようとしている。G30の意向を受けてその地位に就任している黒田東彦総裁が、現行の金融政策の抜本的な見直しや廃止に動くことはまず考えられない。


日銀の現行の政策は半永久的に続けざるを得ないもの

 そもそも、日銀は消費者物価指数(CPI)を対象とするインフレ率が2%に安定的に達することを目標として現行の「量的・質的緩和策」を推進しているが、その目標値が達成されることはあり得ず、したがってこの政策は“半永久的”に続けざるを得ないものだ。
 財界を構成している大企業群がなかなか給与を上げないなかで、家計を構成している多くの人たちは課税に加え、少子高齢化の進展から年金や社会保障の支払いが増えており、一向に可処分所得が増えない。原油価格その他の外的要因から物価押し上げ圧力が強まっても、家計の購買力が萎縮しているなかで企業は販売価格を引き下げて対処しようとするので、リフレ圧力が強まらないだけでなくかえって企業収益を圧迫しかねない。

 結局、企業が蓄えている内部留保や日銀が創造している資金は銀行を介して米金融市場に流れ続けることになり、米ドル基軸通貨体制や、ひいては米国の世界覇権を支え続けることになる。
 米外交問題評議会(CFR)系が財務官僚の勢力を後押しして消費税引き上げを目指したのに対し、現在のドナルド・トランプ政権を支えている共和党系新保守主義(ネオコン)派につらなる経済面での勢力がそれに否定的なのは、日銀を供給源として日本側から円滑に資金が流入するシステムを構築したことがその一因であるといえよう。


 明日は先週の金融市場での注目要因のうち、もう一つの米雇用統計について押さえておきます。
 週末2日間は北朝鮮のICBM発射や独G20サミットでの多国間外交で見られた国際情勢の動向について考察していきます。
 よろしくお願いします。
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プロフィール

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永山卓矢と申します。
有限会社ナリッジ・クリエイション代表です。
現在、マクロ経済の分野でアナリスト業務を中心に活動しています。
フリーの立場で従来のマクロ経済や金融市場分析に限らず、その背後の政治的な権力闘争に至るまで調査活動を行っています。
これまで、月刊誌『商品・証券・金融先物市場』とその後継の『フューチャーズ・マーケット』や投資日報社などの大部分のインタビュー記事の作成をはじめ、他の情報媒体の市況執筆に携わってきました。
また、『「実物経済」の復活』(副島隆彦著 光文社刊)』はじめ、著名評論家の著作本執筆の実質的な共著や補助などの業務に携わってきました。
どうぞ、よろしくお願いいたします。