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銀行への制裁をちらつかせて中国に圧力を強める米国

ポイント
・北朝鮮がICBMを発射したが、その兆候は昏睡状態に陥っている米国人大学生の帰国など以前から見られたものであり、米国が中国に圧力を強める路線に回帰したことを物語る。
・その背景には、米国は人民元の市場化や資本取引の自由化に向けて北朝鮮問題で軍事的緊張を煽っていたが、その緊張が和らいだことで中国側がそれを拒絶する姿勢に出たことがあるようだ。
・米国が中国に圧力を強めるにあたり、丹東銀行以外に他の銀行にも米金融システムからの遮断をちらつかせて圧力を強めており、その最大の焦点が四大銀行の一角の中国銀行だ。
・ただ、米系財閥は習国家主席を取り込んでおり、米軍需産業系も中国と「新冷戦」体制を構築することを望んでいるため、主席の権力基盤が動揺することは望んでいない。



ICBM発射以前にその兆候が見られた

 次に米国の独立記念日である先週4日に北朝鮮がミサイルを発射したことについて考察する。
 その発射直後、北朝鮮側は大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射実験に成功したと華々しく発表したが、実際にこの発射は通常よりも高く撃ち上げるロフテッド軌道によるものであり、通常の飛行高度で発射していれば、少なくともアラスカ州には届くものだ。米国も発射直後には中距離弾道ミサイルとの認識を示したが、すぐにICBMだと認めざるを得なかった。
 これまで、米国は北朝鮮問題については核実験の実施とICBMの発射を“レッドゾーン”として、軍事攻撃のオプションをちらつかせていたのだから当然である――ただし、認めざるを得なかったとしても、それにより攻撃をするわけではないが。

 どうしてこの時期に北朝鮮がICBMの発射実験に踏み切ったのかというと、以前から米国側やドナルド・トランプ大統領自身の言動にその兆候が見られたものだ。
 例えば以前、当欄で述べたが、6月21日に米ワシントンで米中外交・安全保障対話の開催を控えた13日に北朝鮮に拘束されて昏睡状態に陥っていた米国人の大学生を帰国させている。その大学生は19日に死亡したが、この時期に帰国させれば米国内で反感が強まってしまい、戦略対話で中国側に制裁を強化するように要求されるのが容易に予想できたにもかかわらず、普通に考えれば北朝鮮側がこうした動きに出ることはあり得ないことだ(北朝鮮で主導権を握っている朝鮮人民軍が親イスラエル右派や共和党系新保守主義(ネオコン)派に操られていることを考えれば得心がいくものだが)。

 その後、29日にはスティーブン・ムニューシン財務長官が「北朝鮮に対する不正な資金調達を停止させる」と述べたうえで、それに深く関与したとされる遼寧省の丹東銀行を米金融システムから遮断することを発表した。当事国だけでなく、その当事国に“本腰を入れて”制裁に取り組まない国に対しても制裁を科す「セカンダリー・サンクション(二次的制裁)」の原則を適用したものだ。今後、この銀行はドル資金での取引が禁じられるので国際金融取引から締め出されることになり、対外債務を負っていれば破綻のリスクが現実味を帯びることになる。
 そして北朝鮮がICBMを発射した翌5日には、これまで習近平国家主席を“おだて殺し”にしていたトランプ大統領が、ツイッターで中国を本格的に批判する姿勢に転じた。北朝鮮が米国に操られており、この問題が本質的に米国による“ヤラセ”である以上、今回のICBMの発射も米国側による中国に対する圧力の強化の一環として行われたものだ。


相手の懐に飛び込んで交渉せざるを得なくなる

 米国は北朝鮮問題を利用して軍事攻撃をちらつかせることで中国に圧力をかけ、水面下での交渉で通商問題や人民元相場の完全市場化の推進、資本取引の自由化に向けて動くように圧力を強めてきた。
 以前、欧州ロスチャイルド財閥が習主席が提唱している「一帯一路」構想に相乗りしてユーラシア大陸に巨大な経済圏を構築することで米ロックフェラー財閥の世界覇権に対抗しようとした。しかし、中国が天文学的な債務を抱えていることが明らかになったことでそれを諦めることになった。
 そこで、欧州系財閥はひとまず米系財閥と“同床異夢”的な関係から提携してトランプ政権の成立に動いた。トランプ大統領が保護主義的な性格が強く、それでいて金融資本に対して巨額な債務を負っていて身動きが取れない状態だったため、大統領に据えて中国に圧力を強めるのに好都合だったからだ。それにより中国の国有銀行や代表的な国有企業を次々に買収して中国そのものを“乗っ取った”うえで、ユーラシア大陸の巨大な経済圏の構築に向けて動く戦略に動きだしたわけだ。

 中国としては対米輸出に高率な関税を課されれば経済に致命的な打撃を負いかねず、また地政学的に北朝鮮の現体制を絶対に崩壊させるわけにいかないなかで、なんとしても米中首脳会談の開催を実現させなければならなかった。4月6~7日に米フロリダ州のトランプ大統領の別荘で首脳会談が開催されたが、習主席としては、米国側から受け入れ難い要求をされるのが容易に予想できたにもかかわらず、“相手の懐”に飛び込んで会談に臨まざるを得なかったのはこのためだ。

 ただその際に、中国側が会談を求めざるを得なくなる最大の決め手になったのが、米国務省が北朝鮮と取引がある多くの国有銀行を「制裁リスト」に載せ、米金融システムから排除する姿勢を見せて牽制したことだったという。それをされると中国の対象銀行は国際金融取引面でドル取引やドル資金を調達できなくなってしまい、代わりに政府が供給しなければ資金繰りが麻痺して破綻せざるを得なくなるからだ。いうまでもなく、政府が支援すれば外貨準備を取り崩すことになり、異なる観点から中国政府としては都合の悪い状況になる。
 米国にしてみれば、まさに基軸通貨国としての強さそのものにほかならない。


他の銀行にも制裁を波及させると脅す米国

 いずれにせよ、この会談を契機としてトランプ大統領が習主席を“おだて殺し”に転じたように、水面下での交渉では中国側に激しく迫りながら、表面的には北朝鮮問題で原油の供給の停止に踏み切るように催促する姿勢を見せた。
 しかし、米軍の航空母艦がイランを封鎖するために日本海を離れてペルシャ湾に向かうと、中国側は米軍による脅威が取り除かれたのを背景に、人民元相場の値動きを人民銀行が厳格に管理することや、鉄鋼産業を中心とする国有企業の整理・再編や国有銀行の不良債権処理の停止、資本取引の自由化の停止に動いた。これに対し、米国側は欧州系財閥主導で前述のように最も北朝鮮との取引が多い丹東銀行を米金融システムから遮断する措置に出たところだ。

 今回の措置については米国側は事前に中国側に通達していたようであり、中国側にもそれほど大きな動揺が見られない。しかし、米国側は軍事的な圧力は限定的なものにならざるを得なくなる代わりに、この制裁を他の中国の銀行にも適用していくとして脅しているところだ。
 その最大の焦点が、四大銀行の一角である中国銀行を制裁に加えるかどうかである。それが実現すると日本のメガバンクに相当する銀行が破綻するリスクが高まるだけに、中国経済や現体制が激しく動揺する危機を迎えざるを得ず、いうまでもなく世界経済や金融情勢も大きな衝撃を受けざるを得ない。このために実現可能性が小さいのは確かだが、米国側としては大きな“人質”を握っていることは確かである。


米系財閥は習主席の権力基盤の弱体化をもたらす改革の推進に消極的

 ただし、問題はそれほど単純ではない。4月の米中首脳会談で「100日計画」の策定で合意され、実際に5月14日には早くもその合意内容が公表されるほど米中両大国間で順調に物事が運んでいたにもかかわらず、その後急速に中国側が強硬な姿勢を見せるようになったのはなぜかというと、米系財閥の意向が働いているフシがあるからだ。
 トランプ政権は欧州系財閥と米系財閥が提携した産物という見方もできるが、このうち中国に対してこれらの問題で強硬に要求しているのは欧州系財閥である。これに対し、米系財閥はその直系であるブラックストーン・グループのスティーブン・シュワルツマン最高経営責任者(CEO)が習主席を取り込んでいるだけに、稚拙に早急にこうした改革に取り組むことで中国経済が大きな打撃を受けてしまい、社会的な混乱が強まって主席自身の権力基盤が弱体化する状況になることは望んでいない。
 また米権力者層は軍需産業系を押し立てて、極東では中国を相手に「新冷戦」体制を構築しようとしているなかで、強権的な性格が強い習主席が専制権力体制を構築し、それを永続化させることを望んでいる。こうした勢力からしてみると、中国にさらなる進出を目指すとしても、少なくとも今秋に開催される共産党大会を終えるまでは中国側に過剰な要求をすべきではないと考えていておかしくない。
 だとすれば最近、中国側がさらなる構造改革の推進に消極的になり、米国側の要求に対して拒絶する姿勢に転じたのは、米国のもう一方の勢力の意向による可能性を考えるべきだろう。


 週末の明日は独G20ハンブルク・サミットで見られた、ロシアを介した米国と、中国と提携したドイツを中心とする欧州との国家・地域間闘争やその戦略について考察します。
 よろしくお願いします。
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プロフィール

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永山卓矢と申します。
有限会社ナリッジ・クリエイション代表です。
現在、マクロ経済の分野でアナリスト業務を中心に活動しています。
フリーの立場で従来のマクロ経済や金融市場分析に限らず、その背後の政治的な権力闘争に至るまで調査活動を行っています。
これまで、月刊誌『商品・証券・金融先物市場』とその後継の『フューチャーズ・マーケット』や投資日報社などの大部分のインタビュー記事の作成をはじめ、他の情報媒体の市況執筆に携わってきました。
また、『「実物経済」の復活』(副島隆彦著 光文社刊)』はじめ、著名評論家の著作本執筆の実質的な共著や補助などの業務に携わってきました。
どうぞ、よろしくお願いいたします。