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米欧関係のカギを握るロシアの軍事的な脅威

ポイント
・米国は北朝鮮への原油の供給で中国に圧力を強めてもロシアに対して見逃しているように、特にプーチン大統領を中心に同国に対して水面下で関係を維持している。
・欧州系財閥はトランプ大統領の「米国第一」の姿勢を利用して中国に圧力を強めているが、米系財閥もその姿勢を利用してロシアの軍事的な脅威を利用して欧州に圧力をかけている。
・異例の長時間に及んだ米ロ首脳会談ではウクライナ問題が最も重要なテーマだったと思われ、米国はバルト三国も含めて関与の撤退をほのめかしたことが考えられる。
・トランプ大統領は独ハンブルクに向かう前にポーランドに立ち寄ったが、その背後に米巨大石油メジャーによる同国でのシェール開発に向けた戦略があることがうかがわれる。
・欧州はエネルギー安全保障面でロシアや米石油メジャーの圧迫を受けることになり、その打開策としてEVの開発や普及に動き、日本とEPAを結んでその技術力を取り込もうとしている。



米国とロシアは今でも裏側でつながっている

 ところで今回、北朝鮮の大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射を受けて、中国とともに強硬な制裁に反対しているのがロシアである。このロシアも北朝鮮に原油を供給しているが、中国が米国の要求を受け入れてそれを削減したのに伴い、それを増やすことで“穴埋め”をしている。
 ところが米国は中国に対して北朝鮮に圧力を強めるように要求しているものの、ロシアに対してはそれほど強要していない。その背景には、米国とロシアとの間で何らかのつながりがあると見るべきだろう。
 もとよりドナルド・トランプ政権の選挙参謀はロシアとのつながりがあったが、それが暴露されて「ロシアゲート」問題で大統領周辺が追い詰められて以来、バラク・オバマ前政権と同様に表面的には対立しているように見える。しかし、今回の独ハンブルクでの米ロ首脳会談でかなり長時間にわたり話し合いが行われたように、少なくともウラジーミル・プーチン大統領とは裏側でつながりがあると見るべきだ。


米国の関与撤退でロシアの軍事的な脅威を受ける欧州

 米国がどうしてロシアとの関係を水面下で維持しているかというと、次の二つの理由によるものだ。
 一つは中国を相手に「新冷戦」構造を構築していくにあたり、米国としては中国だけでなくロシアも敵に回すと厄介なので、その分断を図るためである。またもう一つが、米国が世界覇権を維持するにあたり欧州の勢力が復活するのを抑え込む必要があるが、そのためにはロシアの軍事的な脅威を利用することが有効であるからだ。
 そこで欧州ロスチャイルド財閥系がトランプ大統領が「アメリカ・ファースト(米国第一主義)」を唱えているのを利用して中国に圧力を強めるうえで利用しているように、米ロックフェラー財閥系も加盟諸国が防衛費をより多く拠出しなければ北大西洋条約機構(NATO)からの脱退をほのめかすことで、大統領のそうした姿勢を利用している。

 米国がそうした姿勢を見せれば、当然のことながら欧州勢はロシアの軍事力やエネルギー安全保障面で脅威に感じざるを得ないからであり、実際にドイツのアンゲラ・メルケル首相が5月28日に「米国に全面的に依存する時代は終わった」と“爆弾発言”をしたものだ。
 そこでドイツは独自に米国の保護主義的な政策から脅威に感じている中国との関係をより緊密化させている。またその一方で、欧州域内での結束をより強化するために、もう一つの中核国であるフランスで高支持率を誇っており、議会でも絶対安定多数を握ることになったエマニュエル・マクロン政権と軍事同盟を強化しようとしている。


米ロ会談ではウクライナ問題が最も重要なテーマか?

 その意味では、今回の米ロ首脳会談ではウクライナ問題が最も重要なテーマだったのだろう。北朝鮮問題で米国がロシアに対して注文をつければ、いうまでもなくシリア問題やウクライナ問題でそれなりに米国側が譲歩するように要求されることになり、こうしたことは取引に長けているトランプ大統領なら容易に理解できるはずだ。
 このうち、シリア問題については安全地帯を設けてそこでは武器の使用を禁じて避難民の保護を図るなど、実効性に疑問符が付くとはいえそれなりに交渉の細目が伝わってきている。ところがウクライナ問題については何らかの突っ込んだ話し合いが行われたはずであるにもかかわらず、双方で特別代表を選任して協議するといったこと以外には細目が伝わってこない。

 おそらく、米国はロシア側にクリミア半島は言うに及ばず、ウクライナ東部の自治権も密かに大幅に認めたのではないか。もしかしたら、米国側はバルト三国から米軍が撤退することまで言及したかもしれない。そうしたことが知れ渡るとそれこそ欧州勢は“驚天動地”に陥ってしまうため、詳細を外部に漏らさず機密事項にしているのも当然である。
 日本の安倍晋三首相がプーチン大統領と「安心して」親密な関係を築けるのも、米国とロシアが裏側でしっかりつながっているからである。


米大統領のポーランド訪問の本当の意味するもの

 今回の主要20ヵ国・地域(G20)首脳会議(サミット)に出席するにあたり、トランプ大統領はロシア軍の大きな脅威にさらされているポーランドに立ち寄って兵器の売却契約を取り交わし、米軍とポーランド軍との演習を見学したあたり、反ロシア的な姿勢を見せたのかと言えば、それほど単純な話ではない。
 そもそも、兵器の売却は自国の軍需産業の意向を受けたものであり、売却先がどこであっても自国の産業が利益を上げればそれで良いのである。むしろ注目すべきなのは、トランプ大統領がポーランドに立ち寄ることは、米ロックフェラー財閥の中核である世界最大の石油メジャーのエクソンモービル前最高経営責任者(CEO)であるレックス・ティラーソン国務長官が熱心に推奨していたことだ。
 ポーランドは欧州でもかなり良質なシェール(頁岩)層が堆積されており、世界で最も堆積されている中国では地形が掘削しにくいのと異なり掘削しやすいため、米シェール業者が北米地域以外で掘削活動を活発化させるには“垂涎の的”とでもいい得るところである。その中でもエクソンは、米国では原油価格の低迷が続き多くのシェール業者が淘汰されてきたなかで、“勝ち組中の勝ち組”といわれているものだ。


欧州側が自動車EV開発や普及のために日本勢の取り込みに動く

 欧州勢もこうした米系財閥の戦略はうすうす感じ始めているようだ。フランスが2040年までにガソリンやディーゼル車の販売を停止して電気自動車(EV)に一本化する姿勢を示したのは、米系財閥やロシアによるエネルギー安全保障面での不利な状態から脱しようという意図があるわけだ。
 ただし、その開発に向けてドイツの技術力に頼るだけでは心もとなく、是非とも日本の自動車及び部品業界を取り込みたいところだ。そこで米国側が日本との間で自由貿易協定(FTA)を結ぶことを表明しながら、実際には米国が自動車関税を撤廃するとかえって対日貿易赤字が増えることからなかなか協議の開始にこぎ着けられないのを尻目に、急転直下で経済連携協定(EPA)の締結が決まったのである。
 そこでは日本側がワインやチーズといった農産品の関税を撤廃・削減するのと引き換えに、欧州連合(EU)側も自動車は7年かけて、また現地生産に不可欠な部品については19年に協定が発行してすぐに撤廃することに応じた。いかにもEU側が譲歩したことで合意にこぎ着けたものであり、実際に日本の経済産業省や財界も大いに歓迎しているが、欧州側もこうした戦略のうえで動いたのである。

 欧州側は日本勢の技術の一定部分を米国から切り離して取り込んだうえでEU域内でEVの生産を定着させ、そのうえで欧州だけでなく、ドイツと提携関係を結ぶことになった中国の巨大な市場で売り込もうとしている。さらにそれだけでなく、「一帯一路」構想に乗ってユーラシア大陸に高速道路網を張り巡らすことで、さらなる巨大な需要も見込む壮大な計画を練っているようだ。
 米国の戦略に対抗して欧州勢もこうした戦略を推進しようとしているのであり、それにより今度は米国勢がどのように出るのか、興味は尽きない。また欧州勢としてはそれによりエネルギー安全保障面での対策にはなっても、ロシアの軍事的な脅威については未解決であり、中東方面での安全保障問題とも絡んでこれからどのような戦略に出るのかも注目されるところだ。


 今週はこれで終わりになります。
 来週もこれまでと同様に週明け17日月曜日から掲載していきます。
 なにかありましたら、書き込んでいただければと思います。
 また、筆者から直接お話をお聞きしたいのであれば、喫茶店等での開催による小規模な講演会その他、お引き受けいたしますので、よろしくお願いします。
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プロフィール

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永山卓矢と申します。
有限会社ナリッジ・クリエイション代表です。
現在、マクロ経済の分野でアナリスト業務を中心に活動しています。
フリーの立場で従来のマクロ経済や金融市場分析に限らず、その背後の政治的な権力闘争に至るまで調査活動を行っています。
これまで、月刊誌『商品・証券・金融先物市場』とその後継の『フューチャーズ・マーケット』や投資日報社などの大部分のインタビュー記事の作成をはじめ、他の情報媒体の市況執筆に携わってきました。
また、『「実物経済」の復活』(副島隆彦著 光文社刊)』はじめ、著名評論家の著作本執筆の実質的な共著や補助などの業務に携わってきました。
どうぞ、よろしくお願いいたします。