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米追加利上げ観測の後退をもたらしたFOMC声明文の内容

ポイント
・FOMCでの声明文でバランスシートの開始について「比較的早い時期に開始」とされたことで、次回9月にそれが決まることが決定的になった。
・ただ、インフレに関する文言については「2%を下回る水準で推移している」「インフレの動向を注意深く見守る」とされたので、12月の追加利上げ観測の後退に拍車がかかった。
・追加利上げ観測が後退しているのは今秋の中国での共産党大会で習近平国家主席が専制権力体制の永続化を実現することを支援するためだ。
・今秋に市場が動揺することがないように当初のシナリオを入れ替えて9月にバランスシートの縮小開始を決めることにし、それほど影響がないことを盛んに吹聴している。
・米国の経済指標は7-9月期に実態より高めに出る傾向があり、FRB執行部は実際に3%台の成長が出ることを見込んで12月に追加利上げを決めるつもりでいるようだ。



バランスシートの9月縮小開始は決定的に

 先週25~26日に開催された米連邦公開市場委員会(FOMC)での声明文では、米国経済の現状について「雇用は堅調に推移しており、失業率も低下している」「個人消費や設備投資は拡大している」としたうえで、「経済状態は緩やかな利上げを正当化する」とされた。そのうえで「バランスシートの縮小は比較的早い時期に開始」するのが望ましいとされた。
 この開始の時期を巡り、前回6月13~14日に開催されたFOMCでは年内にそれを決めることが実質的に「宣言」されていたが、年内のいつになるかはFOMC委員の間で見解が分かれていた。今回の声明文ではそれが「比較的早い時期」とされたことで事実上、次回9月19~20日に開催されるFOMCでそれを決めることが決定的になったといって過言ではない。


インフレに関する文言の変化で追加利上げ観測の後退に拍車

 問題はインフレに関する評価である。
 今回の声明文では、現在の状況について「インフレは総合、コアともに鈍化しており、2%を下回る水準で推移している」とされたが、これまでは「2%に近づいた」とされていたので、この表現の変更は当局が認識を下方修正したと受け止められることになった。しかも、「インフレの動向を注意深く見守る」との一文も加えられたことがそうした認識をさらに強めることになり、12月に追加利上げを決めるとの観測がさらに後退することになってしまった。
 前回のFOMCで超タカ派的な政策決定が行われたことでドル高圧力が強まった後、今月12日のジャネット・イエレン米連邦準備理事会(FRB)議長の議会証言を機に追加利上げ観測が後退していったが、今回の声明文の内容はそれをさらに強める結果になったといえる。


追加利上げ観測の後退は中国で共産党大会を控えているため

 ただこれまで当欄で指摘してきたように、米ロックフェラー財閥が非常に大きな影響力を行使しているグループ・オブ・サーティ(G30)の最高幹部の一員であるスタンレー・フィッシャー副議長が主導権を握っているFRB執行部は、バランスシートを粛々と縮小していくだけでなく、本当は「緩やか」ながらも追加利上げを推進していこうとしている。
 それは「米国一人勝ち」状態を現出するために、また新興国勢にドル建て資産を“高値づかみ”させたうえでそれを売り崩すことで米国の対外債務を縮小させるために、そして米国経済を景気後退(リセッション)に陥らせることで戦争を引き起こす“名分”を得るためであり、いずれも米国が世界覇権を維持していくうえで不可欠のものである。
 ただ現在は、中国で今秋に5年に一度となる幹部人事が決まる共産党大会の開催を控えて、習近平国家主席を支援するために信用不安を引き起こさず、株高傾向が続くように配慮していることから、追加利上げ観測が後退するように仕向けているに過ぎない。ドナルド・トランプ政権を構成している米系財閥も欧州ロスチャイルド財閥も、そして中国との間で「新冷戦」体制を構築しようとしている軍需産業系も、習主席が専制権力体制の永続化を決めることを望んでいるからだ。
 所期の目的が達成されれば、利上げを決めやすい環境になっていくだろう。


利上げとバランスシート縮小開始の順番を入れ替える

 2カ月ほど前までは、FRB関係者と頻繁に接触しているプライマリーディーラーの間では6、9月に利上げを、12月にバランスシートの縮小を決めるとの見方が当然視されていたあたり、執行部もそうした路線を主要なシナリオとして描いていたのだろう。
 ところが、やがて9月に縮小開始を決めて追加利上げを12月に後ズレさせることでその順番を入れ替えることにしたのは、今秋に中国で共産党大会の開催を控えているなかで、市場が9月の利上げをほとんど織り込んでいないこともあり、市場が動揺することを避けようとしているからだ。バランスシートの縮小開始を決めた当初は、そのペースが国債と住宅ローン担保証券(MBS)を合わせて毎月100億ドルに過ぎないため、それほど動揺を受ける恐れがないからだ。
 さらにそのうえで地区連銀総裁はじめFOMC関係者に、利上げに比べるとバランスシートの縮小は市場にはそれほど影響を及ぼさないことを吹聴させているわけだ。トランプ政権に多くの閣僚を送り込んでいるなど大きな影響力を行使しているゴールドマン・サックスの調査部が、バランスシートの縮小を推進しても長期金利の上昇圧力はごくわずかなものにとどまるとするリポートを出しているのもこのためだ。


7-9月期に3%台の成長を見込んで利上げに動くシナリオか?

 今回、追加利上げ観測がさらに後退することになったのは、週末28日に発表された4-6月期のGDP統計(速報値)で、実質成長率が事前予想を下回っただけでなく、インフレ指標である個人消費支出(PCE)物価指数が総合で0.3%、コアで0.9%と著しく鈍化したことも指摘できる。
 この数字自体が信憑性が疑わしいと言わざるを得ないが、FRB執行部は12月に追加利上げを決めるにあたり、7-9月期の成長率が3%台に乗せることを見込んでいるようだ。米国経済はリーマン・ショックに襲われたことでGDP統計はじめ景気指標が08年10-12月期、09年1-3月期と大きく落ち込み、その反動で4-6月期、7-9月期とかなり伸びた経緯がある。それによる不規則なデータがインプットされたことで、季節習性をかけると1-3月期が実態より低めに、7-9月期が高めに出る傾向が指摘されているだけに、そうした執行部の思惑通りの展開になっておかしくない。
 いうまでもなく、PCE物価指数もそれに応じて伸びが高まっていき、12月の利上げの決定を正当化しやすくなっていくと筆者は予想している。


 明日は米国でロシア制裁法案が成立しましたが、それについての米国での様々な勢力の思惑について考察します。
 明後日は北朝鮮によるICBMの発射を巡り、中国との関係で考えますが、今回はその中国で北載河会議の開催を控えていることもあり、ごく簡単に触れるだけにします。
 週末の翌日は稲田防衛相(当時)の辞任を巡り、官邸や米国の思惑、関係について考察します。
 よろしくお願いします。
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プロフィール

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永山卓矢と申します。
有限会社ナリッジ・クリエイション代表です。
現在、マクロ経済の分野でアナリスト業務を中心に活動しています。
フリーの立場で従来のマクロ経済や金融市場分析に限らず、その背後の政治的な権力闘争に至るまで調査活動を行っています。
これまで、月刊誌『商品・証券・金融先物市場』とその後継の『フューチャーズ・マーケット』や投資日報社などの大部分のインタビュー記事の作成をはじめ、他の情報媒体の市況執筆に携わってきました。
また、『「実物経済」の復活』(副島隆彦著 光文社刊)』はじめ、著名評論家の著作本執筆の実質的な共著や補助などの業務に携わってきました。
どうぞ、よろしくお願いいたします。