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総じてタカ派的な内容になった米雇用統計

ポイント
・労働参加率が上昇し職探しをした人が増えたなかで失業率が低下しており、ひっ迫状態にある労働市場がこれからさらに引き締まっていく可能性も。
・非農業部門の雇用者数も増加幅が事前予想を上回り2カ月連続で20万人台に達しており、内訳では製造業が増えているなど足元で生産活動が活発化している可能性も。
・平均時給は比較的良好な内容にはなったがインフレ圧力が強まるともいえない。ただ、FRBは本当は資産価格の動向により注目しており、利上げ姿勢を後退させるものではない。



職探しをする人が増えたなかで失業率が一段と低下

 先週は米国ではアンソニー・スカラムッチ広報部長が解任されたことで改めてドナルド・トランプ政権に対する動揺ぶりが意識されたことや、ロシア制裁法案に大統領が署名して成立し、これにロシア側が反発する姿勢を見せた。また最近、北朝鮮問題や通商問題で関係が悪化している中国に対し、トランプ政権が通商法301条の発動を検討していることが報じられたが、その中国では現在、北戴河会議が開催されており、今秋の5年に1度となる幹部人事が決定される共産党大会の開催を控えて大いに注目されるところだ。
 ただ本日は、金融市場に直接的に影響を与える要因として週末4日に7月の米雇用統計が発表されたので、その指標を簡単に検証する。

 今回の雇用統計では失業率が4.3%と前月や事前予想を下回り、5月以来の低水準となった。しかも、これまでは失業率が低下する際には労働参加率も下がることが多かったが、今回はそれが62.9%と前月から0.1ポイント上昇していることが注目される。職探しをする人が増えたなかで失業率が低下しているあたり、労働需給がかなりひっ迫していることをうかがわせるものだ。
 しかも、米連邦準備理事会(FRB)は最近、いわゆる自然失業率とされる「インフレ非加速的失業率(NAIRU)」の試算値を4.6%に引き下げたが、今回の失業率の水準はこれをも下回っている。労働参加率も合わせて考えるとさらに低下していく兆しをうかがわせているあたり、ひっ迫傾向が一段と強まっていくことになりそうだ。


NFPが予想を上回り製造業が増加

 非農業部門の雇用者数(NFP)の前月比の増加幅も20万9,000人と事前予想の18万人を上回り、前月分も22万2,000人から23万1,000人に上方修正されるなど強気な内容になった。これで2ヵ月連続で20万人を上回り、過去1年間で見ても15万人を優に超えているなど、ジャネット・イエレンFRB議長が失業率が低下していかない水準として10万人程度を提唱していることを考えると極めて良好な状態にあるといえる。
 しかも、民間部門の雇用者数も20万5,000人と事前予想の18万人を上回り、前月分も18万7,000人から19万4,000人に上方修正された。さらにその内訳を見ても、賃金水準が高くトランプ政権も重視している製造業が1万6,000人増えており、雇用の“質”も良くなっている可能性がある。

 製造業の雇用が増えたということは、生産活動に直結する分野なので、7月中の経済活動が活発になっていたことがうかがわれる。最近、米景気指標は良好なものとそうでないものが交互に出ているが、やや活発になってきた兆しが見て取れなくもない。
 この流れが当面、続けば、もとよりこの期間はテクニカル的な問題から高めの数値が出る傾向があるだけに、7-9月期の実質国内総生産(GDP)成長率は3%台に達する可能性すら出てくるだろう。
 いうまでもなく、それはFRBが12月に追加利上げを決めるのを後押しすることになる。


賃金やインフレ指標より資産価格の動向がより重要

 市場が注目しているもう一つの項目の平均時給は26.36ドルと前月比0.09ドル、0.3%増加し、前年同月比では2.5%伸びて事前予想をやや上回り、前々月の水準に復帰した。決してインフレ圧力をもたらすほどの水準ではないが、前月の発表の際には伸びが低下していただけに、緩やかな伸びが続いていることが確認できたことは評価できるだろう。
 この水準をタカ派的と見るか、ハト派的と見るかは難しいところがある。ハト派からはインフレ圧力をもたらすほどのものではないとの見解が聞かれる一方で、タカ派からは労働市場が“超ひっ迫”状態にあるなかで、いずれ賃金の伸びも高まっていくとの見通しを示している。
 筆者の見解は以前、当欄でたびたび指摘しているように、足元のディスインフレ傾向はコスト面では中国沿海部の人件費が高騰したことや、需要面でもリーマン・ショックによる巨大な金融危機を受けて家計の格差の拡大が顕在化し、中間層の没落から家計の購買力が減退したことで多国籍企業の収益力が低下したのを背景に、企業側が人件費の抑制に動いていることによるものだ。極めて構造的な問題であるため、足元の労働市場を考えると賃金水準がある程度は増えておかしくないとはいえ、それほど大きく増加することも考えにくい。

 とはいえ、それではFRBは2%のインフレ目標値に到達するメドが立たないのでそれほど利上げができないのかといえばそうではない。FRBは金融政策を運営していくうえで、表向きコア個人消費支出(PCE)デフレーターを対象に2%のインフレ目標値を設定しているが、本当は資産価格の動向に注目しているからだ。
 足元ではダウが連日、史上最高値を更新しているなど、追加利上げ観測の後退から米長期金利が停滞しているとともに株価や住宅価格が高騰しており、むしろFRB執行部は本音では追加利上げに対する意欲を強めているはずだ。中国では足元では北載河会議が開催されているようだが、今秋の共産党大会で習近平国家主席が専制権力体制を確立してそれを永続化するメドが立てば、FRB執行部は一転してタカ派的な姿勢を前面に押し出してくるだろう。


 明日から週末までは、北朝鮮問題や通商問題で米国が中国に対して再び圧力を強めており、また中国では北載河会議が開催されているなかで、中南海を巡る権力闘争が米欧二大財閥の代理戦争のような性格を帯びていることを考えていきます。
 よろしくお願いします。
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プロフィール

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永山卓矢と申します。
有限会社ナリッジ・クリエイション代表です。
現在、マクロ経済の分野でアナリスト業務を中心に活動しています。
フリーの立場で従来のマクロ経済や金融市場分析に限らず、その背後の政治的な権力闘争に至るまで調査活動を行っています。
これまで、月刊誌『商品・証券・金融先物市場』とその後継の『フューチャーズ・マーケット』や投資日報社などの大部分のインタビュー記事の作成をはじめ、他の情報媒体の市況執筆に携わってきました。
また、『「実物経済」の復活』(副島隆彦著 光文社刊)』はじめ、著名評論家の著作本執筆の実質的な共著や補助などの業務に携わってきました。
どうぞ、よろしくお願いいたします。