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中国の最高権力者の取り込みを図る米欧財閥の抗争

ポイント
・90年代以降、米欧財閥が積極的に中国に進出したが、特にゴールドマンは江沢民に取り入って特別の関係を構築し、00年代に入ってからも胡錦濤を取り込んだ。
・現在の習近平政権が成立して以降、この系列は李克強を押し立てて改革路線を推進させようとしたが、米系財閥とつながった習近平がこれを抑え込んで主導権を握った。
・劣勢になった欧州系財閥は天文学的な債務を抱えていることで中国との提携もいったん諦めて米系財閥と提携し、トランプ政権を樹立して北朝鮮問題も利用して中国に市場開放や資本取引の自由化を要求している。
・米系財閥は軍需産業主導で中国を相手に「新冷戦」構造を構築しようとしているので欧州系財閥とは同床異夢の関係にあり、一部の勢力は習近平を取り込んでいるためにあまりに中国に圧力をかけることを望んでいない。



江沢民、胡錦濤に取り入ったゴールドマン

 中国が高度成長を開始して外資が積極的に参入する契機となったのは、いうまでもなく毛沢東が没して10年に及ぶ「文化大革命」による大混乱が収束し、鄧小平が最高実力者になって後の1978年に改革開放政策が始まってからだ。80年から順次、深圳や珠海はじめ沿海部の都市が経済特別区に指定されてからだ。ただ米ロックフェラー財閥や欧州ロスチャイルド財閥が積極的に中国に進出していったのは、中国経済が89年6月4日の天安門事件による大きな停滞から脱し、91年1~2月に鄧小平が「南巡講和」をしたのを機に高度成長が復活してからのことだ。
 90年代の江沢民政権期には東西冷戦が終わり情報技術(IT)革命が進行したなかで、米国の大企業は中国の安価な人件費を利用して沿海部に生産工場を建設し、グローバル生産体制を構築していく流れに乗ったものだ。当時、特に中国に積極的に進出していったのが、米国の投資銀行でありながら欧州系財閥ともつながりのあるゴールドマン・サックスだった。鄧小平の後押しもあって江主席が曽慶紅国家副主席(いずれも当時)の謀略的な暗躍により政敵を次々に排除して権力基盤を固めていくにつれて、主席の一族を中心に「上海閥」の勢力に深く取り入ったものだ。
 実際、江沢民元主席の子息や孫がゴールドマンに籍を置いていたほどであり、またそれを“お膳立て”したのが米系財閥の直系の投資銀行(ハゲタカ)のブラックストーン・グループだった。

 さらに00年代に入ってからも、ゴールドマンはヘンリー・ポールソン元最高経営責任者(CEO、元米財務長官)が精華大学の学閥に取り入ることで、同大学出身の胡錦濤主席(当時)と良好な関係を構築することに成功してきた。
 江沢民元主席の勢力が当時、米国で共和党系新保守主義(ネオコン)派が主導権を握っていたジョージ・W・ブッシュ政権から嫌われ、作為的に「重症急性呼吸器症候群(SARS=サーズ)」を引き起こすウイルスを撒かれて打撃を負わされたにもかかわらず、胡主席が完全にこの勢力を打倒することができなかったのはゴールドマン系の意向によるところが大きかったようだ。


主導権はゴールドマンから米系財閥へ

 12年11月の共産党大会と翌13年3月の全国人民代表大会(全人代)で現在の習近平政権が成立した当初は、ゴールドマンを中心とする欧米の金融資本は李克強首相を押し立てて自由化、市場経済化路線を推進させようとした。それは李首相の出身母体の共産主義青年団(共青団)系が民主的な政治体制や市場経済化路線に最も理解を示していたからだけではなく、ゴールドマンが首相の先輩の胡錦濤前主席を取り込んでいたことと密接な関係がある。
 当時、米欧では李首相の改革路線は日本の安倍晋三政権の経済政策「アベノミクス」にちなんで「リコノミクス」と呼ばれたが、これを命名したのがゴールドマンの“子会社”のような存在である英バークレイズ・キャピタルだったのはこのためだ。

 ところがその後間もなく、習近平主席が権力を強めて李克強首相を圧倒するようになった。本来なら国務院総理(首相)を頂点とする国務院の管轄であるはずの経済政策の主導権も、習主席の傘下の中央財経領導小組が握るようになった。その習主席を取り込んでいるのが米系財閥直系のブラックストーン・グループのスティーブン・シュワルツマンCEOだ。その習主席が王岐山中央規律検査委員会書記とともに反腐敗運動を繰り広げて政敵を排除して権力基盤を強化していった。
 それとともに、中国国内で事業展開している米系金融機関では、米系財閥直系にして世界最大の金融資本であるシティ・グループがゴールドマンに代わり主導権を握るようになった。また、同財閥直系にして世界最大の石油資本であるエクソンモービルも中国でかなり進出するようになったことが重要である。


劣勢になった欧州系財閥の戦略と目論見

 一方で、欧州系財閥は中南海でのゴールドマンの影響力が弱体化したのを受けて、習近平主席が唱えている「一帯一路」構想に相乗りし、中国の豊富な外貨準備による信用を利用してインフラ建設を推進し、ユーラシア大陸に巨大な経済圏の構築に向かった。そうすることで、将来的には世界覇権が米国から中国に移ることが見込まれているなかで、長期的な視点で米系財閥より優位な地位に立とうとしているわけである。
 そこで人民元を国際通貨に育てるために国際通貨基金(IMF)の特別引き出し権(SDR)の構成通貨に加えようとした。また英国のデビッド・キャメロン政権(当時)に先陣を切って動かせることで、欧州諸国を中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)に資本参加させていった。

 ところが、中国は米連邦準備理事会(FRB)が金融政策の正常化に向かい始めると、「鬼城(ゴーストタウン)」に象徴される地方政府による野放図なインフラ投資計画が脚光を浴び、理財商品や信託商品といったシャドーバンキング(影の銀行)の問題が高まるなどたびたび信用不安に見舞われるようになった。国有企業も多くの民間企業もこれまで長年にわたり海外資金を調達し、“偽装輸出”を駆使して“粉飾決算”を繰り広げるなどしたこともうすうす知られるようになってきたことで、次第に天文学的な債務を抱えている実態が明らかになってきた。
 そこで欧州系財閥はいったん中国との提携を諦めて米系財閥と提携し、ドナルド・トランプ政権の成立に動いた。FRBの政策姿勢を利用して米国への資金還流を促進させることで人民元相場を崩落させながら、トランプ大統領の保護主義的な姿勢を利用することで中国に対して通商問題で圧力をかけ、国際会計基準の導入や資本取引の自由化を受け入れさせようとしている。それにより国有銀行や代表的な国有企業を次々に買収していくことで中国そのものを“乗っ取って”いき、そのうえでユーラシア経済圏の構築に向かおうということだ。

 北朝鮮問題を煽っているのも、その本質は水面下での通商・市場開放問題を巡る交渉で米国が中国に圧力を加えることを目的とした性格が強い。そもそも、北朝鮮で主導権を握っているのは親イスラエル的な米国の新保守主義(ネオコン)派であり、北朝鮮による度重なるミサイル発射や米国による軍事的な圧力は多分に“ヤラセ”とでもいうべきものだ。中国としては絶対に北朝鮮の体制を崩壊させるわけにいかないなかで、欧州系財閥に後押しされているトランプ政権は石油の供給の抜本的な停止といった踏み込んだ措置の実行を強く迫ることで、水面下での交渉で譲歩をさせようとしているわけだ。


同床異夢の関係にある米欧二大財閥

 これに対し、米系財閥は中国に対し、軍需産業系主導で同国を相手に「新冷戦」構造を構築することで、巨大な軍需を創出することで世界経済成長を牽引していこうとしている。習近平主席を取り込んで強権的な統治体制を強化させようとしているのも、中国を「悪の帝国」に仕立てることでそうした巨大な対立軸を構築していくのに好都合であるからだ。
 かつて、米系財閥は欧州財閥系のウラジーミル・レーニンやレフ・トロツキーを排してヨシフ・スターリンを後押しし、ソ連で“恐怖政治”を推進させることで「旧冷戦」体制を構築していったのと同じようなものだ。
 いわば、米系財閥と欧州系財閥はともにトランプ大統領の擁立に動いたが、その本質は“同床異夢”の状態にあるわけである。

 4月6~7日の米中首脳会談以降、トランプ大統領は習近平主席を“おだて殺し”にすることで具体的な行動に踏み切るように促してきたが、中国側が譲歩しないので最近では再び圧力を強めている。6月29日には北朝鮮による不正な取引に関わったとして丹東銀行を米金融システムから遮断する制裁措置を発動したが、これを他の銀行にも拡大させると“脅して”いるところだ。米金融システムから遮断されるとドル資金が調達できなくなり、代わりに政府が外貨準備を取り崩して供給しないと破綻せざるを得なくなるからだ。
 ただ、米系財閥の一部は最高権力者である習主席を取り込んでいる以上、あまりに中国に圧力をかけることを望んでいない。ここにきて、中国側が態度を硬化させて米国からの要求をすべてはねつけているのは、そうした米系財閥の系列の意向によるものと考えられる。


 週末の明日もこの続きとして、新冷戦体制に移行させていくうえで米系財閥が目指す世界秩序について考察します。
 よろしくお願いします。
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プロフィール

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永山卓矢と申します。
有限会社ナリッジ・クリエイション代表です。
現在、マクロ経済の分野でアナリスト業務を中心に活動しています。
フリーの立場で従来のマクロ経済や金融市場分析に限らず、その背後の政治的な権力闘争に至るまで調査活動を行っています。
これまで、月刊誌『商品・証券・金融先物市場』とその後継の『フューチャーズ・マーケット』や投資日報社などの大部分のインタビュー記事の作成をはじめ、他の情報媒体の市況執筆に携わってきました。
また、『「実物経済」の復活』(副島隆彦著 光文社刊)』はじめ、著名評論家の著作本執筆の実質的な共著や補助などの業務に携わってきました。
どうぞ、よろしくお願いいたします。