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FOMC議事録の見方と現FRB執行部の意向

ポイント
・今回のFOMC議事録でもタカ派とハト派ともに見解の不一致が見受けられ、改めて議論がまとまりにくい状況にあることが示された。
・現在では中国の習近平国家主席に配慮していることからハト派的な見解に市場の関心が向いたが、声明文よりハト派色が強かったことがそうした傾向をさらに強めた。
・しかし、声明文の内容は実際に金融政策で主導権を握っているFRB執行部の意向が強く反映されるため、実際には議事録よりそれがタカ派的であることに注目すべきだ。
・議事録でのいくつかのタカ派的な論調からは、利上げが遅れることで株価はじめ資産価格が一段と高騰していくことに懸念を示していたものだ。



議事録では議論がまとまりにくい状況を示唆

 先週16日に公表された7月25~26日開催分の米連邦公開市場委員会(FOMC)議事録では、大半の委員が次回の会合で米連邦準備理事会(FRB)のバランスシートの縮小開始の決定を支持していた。一部の委員に至ってはその時期を発表する用意をしていたとされ、改めて次回9月19~20日のFOMCでそれが決まることが決定的になったといって過言ではない。
 一方で追加利上げの可否を占うインフレ率の見通しについては、大半の委員が今後数年でそれが加速するとの見通しを示しており、事実上、「緩やかな」追加利上げを推進していくことを肯定する見解が支配的だった。とはいえ、それでも多くの委員はインフレ率の上昇ピッチが予想より長期化していることは率直に認めていたようだ。

 こうした見解や姿勢をFOMC委員の中の中心的、大勢的なものとして、それよりハト派的なものとしては、一部の委員はインフレ率が目標値である2%に上昇する兆候が見られるまで追加利上げを見送るべきであると主張していた。なかには、インフレリスクは下向きであるとの判断を示す向きも見受けられた。
 これに対し、タカ派的な見解としては本当にインフレ期待が十分に抑制されているか疑念を示す向きが見受けられた。また一部の委員は株価の上昇が緩和効果をもたらしており、これまでの利上げの効果が減殺されているとの懸念を示していた。さらに、利上げを過剰に遅らせることでオーバーシュートにつながると警告を発する向きも見られた。
 改めて指摘するまでもなく、最近のFOMC委員の傾向としてはタカ派とハト派の間で見解の不一致が鮮明化していて議論がまとまりにくい状況が続いているが、それが今回でも裏付けられたと言えるだろう。


ハト派的な見解に市場が反応

 今回の議事録が公表されると、市場ではハト派的な部分だけに注目が集まってドル安に振れた。
 当欄で何度も指摘しているように、展開の主導権を握る市場関係者は米権力者層の意向を受けて、中国で習近平国家主席が終身的な専制権力体制を確立するのを支援するために、今秋に5年に一度の幹部人事が決まる共産党大会が開催される頃まではハト派的な雰囲気が強まるように配慮している。
 ただそれだけでなく、3週間前に開催されたFOMCの会合が終わった後に公表された声明文の内容に比べると、今回の議事録ではハト派的な委員もしっかり自身の主張を繰り広げていたので、それを市場関係者がハト派的と受け止めたことはあっただろう。


FRB執行部の姿勢は経済実勢よりタカ派的

 市場では往々にして議事録が公表されると、3週間前に公表されている声明文の内容と比べてハト派的かタカ派的であるかに関心が集まり、また市況もその方向に振れる傾向があるが、筆者の見解はその反対の評価を下すことが多い。
 というのは、議事録ではFOMCの会合での議論がほぼすべて記述されており、金融政策を推進していくうえで主導権を握っていない委員の見解までそこには含まれている。これに対し、声明文の内容はFRBの議長や副議長をはじめ、実際に政策決定を行うにあたり主導権を握っている執行部の意向が反映されているため、会合での委員全体の見解に比べて執行部の姿勢がタカ派、ハト派どちらに寄っているかを判断する目安になるからだ。実際に金融政策を決めるにあたり、ニューヨーク連銀を除く各地区連銀総裁は輪番制であり、執行部に比べて少数の投票権しか与えられていないことを考慮する必要がある。
 これを足元の状況に当てはめるなら、スタンレー・フィッシャー副議長が主導権を握っている執行部の政策姿勢は、実際の経済実勢に比べてタカ派的であるということだ。だからこそ、6月13~14日のFOMCでは超タカ派的な政策決定がなされたのである。


本当は資産価格の動向を注視しているFRB執行部

 これまで当欄で指摘してきたが、FRB執行部はインフレ率よりも住宅や株価といった資産価格の動向により大きな関心を抱いている。
 FRBの大株主は大手金融機関で占められており、またフィッシャー副議長を送り込んでいるグループ・オブ・サーティ(G30)でも、米ロックフェラー財閥の中核としてエクソンモービルと並ぶ世界最大の金融資本であるシティ・グループの意向が強い。こうした大手金融機関としては、資産価格が高騰してバブル化するとバランスシートが“不健全”に膨らんでしまい、それが崩壊すると莫大な不良債権を抱えることになるため、それを嫌っているのである。
 これは今回の議事録でも、タカ派的な委員から株高が利上げ効果を減殺していることに懸念を示す向きがいたことからもうかがわれる。おそらく、利上げ見送りを繰り返すことでオーバーシュートに陥ることを懸念している向きも、資産価格のバブル化を懸念しているのだろう。

 注目されるのは、今回の議事録ではインフレ率の指標としてコア個人消費支出(PCE)にこだわることなく、消費者物価指数(CPI)のような他の物価指標や、さらには資産価格の推移を示す指標も金融政策の判断材料に加えるべきだと主張する向きが見られたことだ。
 これまで、FRB執行部は追加利上げの推進を正当化するためにインフレ率は長期的に2%に上昇していくと主張していたが、本音ではそのように思っていないと思われる。それは以前の当欄で述べたように、ニューヨーク連銀のウィリアム・ダドリー総裁の発言からもうかがわれることだ。こうした議論を提起する向きがいること自体、執行部はなんとしても利上げを推進していこうとしていることを示唆しているといえるだろう。


 明日から3日間はバノン米首席戦略官の辞任の背景や、それと関連付けて北朝鮮問題や、米国が中国に対して通商法301条を適用して調査することを決定したことについて考えていきます。
 まず明日はバノン戦略官の辞任劇について直接的に考察します。
 よろしくお願いします。
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プロフィール

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永山卓矢と申します。
有限会社ナリッジ・クリエイション代表です。
現在、マクロ経済の分野でアナリスト業務を中心に活動しています。
フリーの立場で従来のマクロ経済や金融市場分析に限らず、その背後の政治的な権力闘争に至るまで調査活動を行っています。
これまで、月刊誌『商品・証券・金融先物市場』とその後継の『フューチャーズ・マーケット』や投資日報社などの大部分のインタビュー記事の作成をはじめ、他の情報媒体の市況執筆に携わってきました。
また、『「実物経済」の復活』(副島隆彦著 光文社刊)』はじめ、著名評論家の著作本執筆の実質的な共著や補助などの業務に携わってきました。
どうぞ、よろしくお願いいたします。