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バノン前主席戦略官の辞任についての考察――①

ポイント
・北朝鮮と米国との緊張状態は先週初頭にやや遠のいたように見えるが、米国側は攻撃を前提に動いているフシがあり、まだ予断を許さない。
・バノン前戦略官は7日に辞表を提出しているが、それはトランプ大統領が「炎と怒り」発言をして北朝鮮との緊張状態が一気に高まった前日であることに注目する必要がある。
・かつげ、反グローバル的なレーガン大統領が共和党系ネオコン派や軍需産業系に脅されて身動きが取れなくなったが、現在のトランプ大統領もそれと同じ運命をたどりつつある。



いったん軍事衝突は遠のいたがやがて衝突も

 本日から週末にかけて、北朝鮮問題やそれに絡んで米国と中国との間での通商紛争その他の要因について、これまで当欄で述べてきたことに付随して考察していく。
 まず北朝鮮問題については、前週にはドナルド・トランプ大統領が8日に「炎と怒り」発言をし、それに対抗して北朝鮮側がグアム島沖にミサイル4発を撃ち込む計画を公表して以来、双方の“舌戦”がエスカレートして軍事衝突の危険性がかなり高まったように見えた。9月9日に建国記念日を迎える以前にも、先週15日の終戦記念日(北朝鮮では独立記念日)に日本近海にミサイルを撃ち込むのではないかといった噂まで広まった。
 ところが先週になると、14日に北朝鮮側が金正恩(キム・ジョンウン)委員長によるとされる「米国の行動をもう少し見守る」と表明したことで、ひとまず衝突の危険性は遠のいた。実際、これを受けて米国側でも、ハーバート・マクマスター大統領補佐官やマイク・ポンペオ中央情報局(CIA)長官が危機が遠のいたことを示唆する発言をしたものだ。

 とはいえ、その直後の17日には急遽、開催された日米外務・防衛担当閣僚協議(2プラス2)を終えた会見で、これまでトランプ大統領に迎合して強硬姿勢を続けてきたジェームズ・マティス国防長官が「北朝鮮が行動すれば強力な軍事的な結果を招く」と警告した。さらにはこれまで、特に中国に対して穏健的な姿勢を見せてきたレックス・ティラーソン国務長官も「北朝鮮が間違った選択をした場合に備えて軍事的な準備を進めている」と述べて事実上、軍事的な対応をしていることを“直接的”な表現で認めた。
 決して自ら先に手を出すことはないが、相手が何らかの形で攻撃してきたら軍事的に反撃することを「宣言」したといえる――むしろ、実際には相手が攻撃してくることが「予定されている」といった感がしないでもない。


バノン前戦略官が7日に辞表を出したことに意味がある

 そこで注目されるのが、18日にスティーブン・バノン首席戦略官・上級顧問が解任されたことだ。12日に米南部バージニア州で白人至上主義者と反対派の衝突が起こり、その対応をめぐりトランプ大統領も窮地に陥ったのでその日までずれ込んでしまったが、本当は7日に辞表を出していたとされている。
 その7日というのは、トランプ大統領が「炎と怒り」発言をしたことで北朝鮮との緊張状態が一気に高まった前日であることに筆者は注目している。なぜなら、北朝鮮と軍事的な緊張状態を高めるうえで、安全保障問題ではもっぱらイスラム圏への対応ばかりに注力し、通商問題でも露骨に保護主義的な姿勢を貫くバノン前戦略官の姿勢は、トランプ政権で主導権を握っている共和党系新保守主義(ネオコン)派やそれに主導権を与えている米系財閥としては“邪魔”な存在であったからだ。

 バノン前戦略官は新興右翼的な「オルトライト(オルタナ)右翼」としてトランプ大統領の側近であり、保護貿易的で「米国第一主義(アメリカ・ファースト)」を推進する大統領の“黒幕的”な存在とされてきた。しかし、イスラム圏からの入国禁止令が裁判所から違憲判決を受けてその執行を差し止められて以来、その存在感が急速に薄れていった。
 安全保障問題ではマイケル・フリン前大統領補佐官がロシアとの関係から辞任した後、共和党系ネオコン派の意向でその地位に就いた職業軍人系のマクマスター現補佐官との確執が指摘されていた。経済政策面ではゲーリー・コーン国家経済会議(NEC)委員長との確執がささやかれていた。さらに決定的だったのは、親イスラエル的な共和党系ネオコン派との仲介をしていたジャレッド・クシュナー上級顧問から解任を要請されていたことだ。


反グローバル主義者が追放されるのは自然な流れ

 81年にその地位に就任したロナルド・レーガン大統領が、自身は反グローバル的で偏狭な保守的な性格でありながら、後に共和党系ネオコン派や軍需産業系に“脅されて”身動きが取れなくなったものだ。現在のトランプ政権も、大まかには当時のレーガン政権と同じ運命をたどっているといえるだろう。
 一般的には就任した当初から支持率が低かったなかで、ロシアゲート問題で足を引っ張られ、さらにはここにきて人種差別問題への対応から強烈に批判を浴びているなかで、トランプ大統領が政権が瓦解するのを防ぐためにバノン前戦略官を解任せざるを得なかったとの見方が支配的だ。しかし、トランプ政権を操っている米権力者層の性格や意向を考えれば、大統領の側近の反グローバル的な保護主義者が追放されていくのは容易に予想されたことだ。


 明日はさらにバノン更迭について、欧州系財閥と米系財閥との勢力関係や中国の動向もまじえて考察していきます。
 週末の明後日はそれによる通商関係への影響について、最近では通商法301条を適用する動きまで出てきましたが、そうしたことについて考えていきます。
 よろしくお願いします。
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プロフィール

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永山卓矢と申します。
有限会社ナリッジ・クリエイション代表です。
現在、マクロ経済の分野でアナリスト業務を中心に活動しています。
フリーの立場で従来のマクロ経済や金融市場分析に限らず、その背後の政治的な権力闘争に至るまで調査活動を行っています。
これまで、月刊誌『商品・証券・金融先物市場』とその後継の『フューチャーズ・マーケット』や投資日報社などの大部分のインタビュー記事の作成をはじめ、他の情報媒体の市況執筆に携わってきました。
また、『「実物経済」の復活』(副島隆彦著 光文社刊)』はじめ、著名評論家の著作本執筆の実質的な共著や補助などの業務に携わってきました。
どうぞ、よろしくお願いいたします。