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金融政策に対する本音が透けて見える欧米中央銀行総裁の姿勢

ポイント
・今回の米ジャクソンホールの講演では金融規制がテーマではあったが、金融政策についても断片的に触れていた。
・そこでは、ECBは年明けからテーパリングに動く公算が高まっているが、ドラギ総裁は現行の量的緩和策をこのまま続けたい意向がにじみ出ていた。
・イエレンFRB議長は追加利上げに向けた姿勢がにじみ出ており、FRBは9月のFOMCで既定方針通りバランスシートの縮小開始を決めるとタカ派的な姿勢を前面に打ち出すことになりそうだ。
・債務上限引き上げ問題が難航して米国債のデフォルトが現実味を帯びるとリスク回避が強まるだろうが、外為市場では米長期金利の上昇からドル高になると思われる。



ドラギECB総裁はテーパリングに消極的

 25日には24日から3日間の日程で米ワイオミング州ジャクソンホールで開催されているカンザスシティ連銀主催の年次シンポジウムでマリオ・ドラギ欧州中央銀行(ECB)総裁とジャネット・イエレン米連邦準備理事会(FRB)議長が講演したが、その内容が主に金融規制に関することが多かったのは既に事前に言われていたことだ。特に金融政策が扱われることはなかったが、それでも断片的に言及されていた。
 そこでは、まずドラギ総裁は「(ユーロ圏での)インフレ率はまだ目標に到達しておらず、強力な金融緩和策は依然として必要」だとしたうえで、「労働市場の“弛(たる)み”と生産性の鈍さを考慮すると辛抱強く対処することが必要」だとして、暗に量的緩和策をこのまま続けることを望むような姿勢がうかがわれたものだ。

 ドラギ総裁は米ジャクソンホールでの講演に臨む2日前にも同じ発言をしており、ECBがテーパリングに動くことに難色を示していたものだ。この発言を受けて、すかさずドイツ連銀(ブンデスバンク)のイエンス・バイトマン総裁が量的緩和策が長期間続くことに対する弊害を指摘したうえで、年明け以降、テーパリングに動くことを積極的に求めていたものだ。
 いずれにせよ、ECBが年明け以降、テーパリングに動くことが既定路線化しつつあるなかで、イタリア出身のドラギ総裁はじめECB執行部は南欧出身者で占められているだけに、“本音”ではテーパリングに動くことには消極的であることが改めて裏付けられたと言えるだろう。


FRB議長は追加利上げの推進に向けて明確なメッセージを送る

 一方でイエレンFRB議長は今回の講演で、金融政策については「FRBの二つの目標に向けた動きには大きな進展があった」としたうえで、「行き過ぎた楽観には遅かれ早かれ巻き戻されるリスクがある」と述べていた。
 このうち「FRBの二つの目標」とはいうまでもなく物価と雇用を指すが、そのなかでも物価については2%の目標値に向けて鈍化していることが懸念されている状況において、雇用とともに「大きな進展があった」と評価しているところにまず注目する必要がある。FRB執行部は「緩やかな」利上げを推進していくにあたり、おそらく本音ではインフレ率が2%に到達することを懸念していながらも、中長期的に到達することを表明し続けることでそれを正当化していたものだ。
 今回のイエレン議長の発言はそうした懸念を封印して、あえて雇用とともに極めて肯定的な評価を下すことで、追加利上げに向けた姿勢を正当化したものと捉えることができるだろう。

 またもう一つの「行き過ぎた楽観」とは、超金融緩和策が経済実態に比して長期間続くことで、経済活動や市場取引において楽観的なムードが支配されることであり、住宅や株価といった資産市況がバブル的に高騰することだ。
 これまで当欄で指摘してきたように、FRB執行部は表向き金融政策を決める指標として「コア個人消費支出(PCE)が2%に到達するメドが立つまで」という目標値を設定していることからたびたびインフレ率の動向に言及するが、本当は資産価格の動向を注視している。資産価格がバブル的に高騰すると金融機関の資産が“不健全”に膨らんでしまい、それが崩壊すると不良債権(資産)を抱えて苦しい状態に陥るからだ。
 いわば、今回のイエレン議長の発言は金融規制が主要なテーマになっていたので金融政策に関することは断片的なことしか述べなかったが、それでも先行き追加利上げの推進に向けて明確なメッセージを発したと言えるだろう。


習近平に配慮する必要がなくなり追加利上げに向けた姿勢へ

 これまで当欄で指摘してきたように、FRB執行部は中国で5年に一度となる幹部人事が決まる共産党大会の開催を控えて、習近平国家主席が終身的に専制権力体制を確立するのを支援するために、それまでは追加利上げに向けた姿勢を後退させるように米権力者層から指示を受けていたようだ。実際、最近ではダラス連銀のロバート・カプラン、ミネアポリス連銀のニール・カシュカリ両総裁のようなハト派もしくはハト派寄りの中間派のFOMC委員が活発に発言をしていた。
 しかし、先週末25日にはタカ派からクリーブランド連銀のロレッタ・メスター総裁が、FRB執行部からもジェローム・パウエル理事が発言をするようになり、またカプラン総裁も慎重な表現ながらも年内にあと1回の利上げの決定を容認する発言をするようになった。
 実際、中国では共産党大会の開催に先立って行われる重要な北載河会議が終わったことで、それほど習主席に対して配慮しなくてもよくなりつつある。おそらく、9月19~20日に開催されるFOMCで既定方針となっているバランスシートの縮小開始を決めると、12月12~13日の会合での追加利上げの決定に向けてタカ派的な姿勢を前面に打ち出していくのだろう。


米国債がデフォルトになるとドル高が進む展開か

 なお、米国では連邦政府の債務上限引き上げ問題と政府機関の閉鎖の恐れが取り沙汰されるようになっている。遅くとも10月末までに議会で国債の発行限度額の引き上げを決めないと利払いや借り換えができなくなって債務不履行(デフォルト)に陥ることになり、また今会計年度が終わる9月末までに次期予算案か「つなぎ予算」を成立させないと政府機関が閉鎖されることが現実味を帯びてきている。
 これまで、ドナルド・トランプ政権は医療保険制度改革法(オバマケア)の見直しがなかなか実現できなかったように、議会共和党では超保守的な「茶会(ティーパーティ)」から主に構成されているフリーダム・コーカス(自由議員連盟)が隠然たる勢力を保持しており、容易に妥協に応じそうもない。
 この問題は機会があれば近く採り上げたいと思っているが、今回は市況への影響についてだけ述べておく。

 米国債のデフォルトや政府機関の閉鎖が現実味を帯びたり、実際にそれが実現すればいうまでもなくリスク回避が強まって一時的に株価が急落しやすくなっておかしくないが、外国為替市場ではそれほど円高が進むとは見ていない。ドル・円相場の1年サイクルが、延長されていても8月中か9月上旬までには底入れして上昇しやすくなっていると思われるからだ。
 おそらく、米国債のデフォルト問題にFRBの追加利上げ観測の再燃も加わることで米長期金利が上昇しやすくなり、それにより外為市場ではドル高が進みやすくなるのではないか。金融市場関係者の間では米ドルの基軸通貨としての信用面では“盤石”とでも言い得るほどの状態にあるので、米国債のデフォルト問題が持ち上がってもあくまでも特殊要因に過ぎないなかでは「米国売り」になることはなく、むしろ米長期金利が上昇することでドルが買われやすくなると想定している。
 だとすれば、米国株は急落しやすくなっても、日本株は円安から反対に上昇しやすくなるだろう。いうまでもなく、米長期金利の上昇でドル高が進みやすくなる状況においては新興国通貨不安が起こりやすくなるはずだ。


 明日からは週末にかけて、再び北朝鮮問題を採り上げます。
 米政権で主導権が欧州系財閥から米系財閥に移ったことで、北朝鮮問題の本質が変わったことを考察していきます。
 明日は更迭されたバノン前主席戦略官が解任された際に、封印された発言についても言及していきます。
 また中国の政治情勢とも密接な関係にあるので、週末1日にはその件についても考えていきます。
 よろしくお願いします。
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プロフィール

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永山卓矢と申します。
有限会社ナリッジ・クリエイション代表です。
現在、マクロ経済の分野でアナリスト業務を中心に活動しています。
フリーの立場で従来のマクロ経済や金融市場分析に限らず、その背後の政治的な権力闘争に至るまで調査活動を行っています。
これまで、月刊誌『商品・証券・金融先物市場』とその後継の『フューチャーズ・マーケット』や投資日報社などの大部分のインタビュー記事の作成をはじめ、他の情報媒体の市況執筆に携わってきました。
また、『「実物経済」の復活』(副島隆彦著 光文社刊)』はじめ、著名評論家の著作本執筆の実質的な共著や補助などの業務に携わってきました。
どうぞ、よろしくお願いいたします。