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不可解な米雇用統計のハト派的な内容

ポイント
・今回の米雇用統計は事前予想を下回る弱気な内容になったが、12日の週を含む失業保険申請件数の水準その他から推して不可解である。
・正規の雇用統計はその約2日前に発表されるADP統計と反対の内容になることが多く、今回もADPが極めて良好だったのに対して正規は弱気な内容になった。
・ただ、事前予想を下回ったことで市場ではFRBの追加利上げ観測が後退しているが、利上げを推進していくには十分過ぎる水準である。



事前予想と比較すれば今回の米雇用統計は弱気な内容に

 今回は先週末1日に発表された8月の米雇用統計について検証する。
 今回は失業率が4.4%と前月や事前予想の4.3%を上回った。労働参加率が62.9%と前月と変わっていないなかで失業率が鈍化したのは、やや労働市場のひっ迫状態が緩和されている可能性を示唆するものだ。
 また非農業部門の雇用者数(NFP)の前月比の増加幅も15万6,000人と事前予想の18万人を下回り、前月分も20万9,000人から18万9,000人に、前々月分も23万1,000人から21万人に下方修正された。
 さらに最近、インフレ率の動向に大きな影響を及ぼす指標として注目度が高まっている平均時給も26.39ドルと、前年同月比では2.5%の上昇幅にとどまって前月と変わらず、事前予想の2.6%を下回って依然として賃金の伸びが停滞していることを示唆する内容になった。
 総じて、事前予想と比較するという観点では、今回の雇用統計の内容は明らかに弱気なものになった。


不可解な弱気な内容

 今回のこうした数値については、失業率についてはともかくとしても、NFPについては意外感をもって受け止める向きが多いようだ。NFPの数値を算出するにあたり、サンプリングの対象となる12日を含む週の失業保険申請件数が23万2,000件と極めて少なかったからであり、おそらく、これをそのまま算出すれば25万人を超えておかしくなかっただろう。
 例年、8月には速報値の段階では低めの数値が発表されることが多く、翌月以降で上方修正されるものだが、それにしても低すぎるのは明らかである。労働需給がひっ迫しており、求職者数の減少から企業側が思うように人員を確保できなくなっている可能性はあるが、今回になって急激にそうした傾向が強まることも考えにくい。


今回もADPとは反対の結果に

 注目されるのは、その2日前に発表されたオートマティック・データ・プロセッシング(ADP)社の雇用統計での前月比の増加幅が23万7,000人と極めて高水準となり、前月分も17万8,000人から20万1,000人に上方修正されたことだ。
 これまで、ADP雇用統計が強気な内容になると米労働省が発表している正規の雇用統計が弱気に、ADPが弱気になると正規が強気になることが多く、展開の主導権を握る投機筋は事前にそうした結果を入手して巨利を貪ってきたものだ。実際、今回の雇用統計が発表された直後にFRBの追加利上げ観測の後退から一時的にドル安に振れたものの、すぐにドル高歩調に回帰していくあたり、この発表を利用してドルを売り込ませ、ドル高に向かいやすい状況にしていこうとする作為的な動きがあった可能性は排除できない。


FRBの追加利上げを後押しする状況は不変

 もっとも、今回の雇用統計の内容は事前予想を下回ったことで弱気、ハト派的と受け止める向きが多いようだが、この数値の信憑性に問題がないとしても、決してそうした認識は的を射ていない。ジャネット・イエレン議長はかねてから失業率が低下していかないNFPの水準として7万5,000~12万5,000人が妥当であるとの見方を表明しており、今回の水準はその上限を超えている。また失業率についても、米連邦準備理事会(FRB)は「インフレ非加速的失業率(NAIRU)」の水準を4.6%と試算しているが、今回は低下しても依然としてそれを下回っている。
 今回の発表を受けても、FRB執行部がバランスシートの縮小はおろか追加利上げに向けた姿勢を緩和するはずがない。今回の発表を受けて、市場では次の利上げの決定が来年6月に遠のいたといった見方が強まりつつあるようだが、見当違いも甚だしいと言わざるを得ない。

 また今回のNFPの増加幅の内容を詳細に見て注目されるのが、全体のNFPの鈍化とともに民間部門の増加幅も16万5,000人にとどまったが、そうしたなかで製造業が3万6,000人も増えていることだ。前回もこの製造業が1万6,000人に増えていたが、今回はその増加幅が一段と拡大しているあたり、足元の米国内での生産活動がさらに活発化していることがうかがわれる。
 米国の実質GDP成長率は4-6月期には前期比年率で3.0%に達したが、足元の7-9月期にはそれを超えて3%台を記録する公算が高く、FRBが12月に追加利上げを決めるのを後押しすることになりそうだ。


 明日は北朝鮮情勢について主に日本上空を越えるミサイルを発射したことについて、明後日は中国をもまじえた歴史的な潮流について考察します。
 北朝鮮の核実験については、来週採り上げることにします。
 よろしくお願いします。
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プロフィール

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永山卓矢と申します。
有限会社ナリッジ・クリエイション代表です。
現在、マクロ経済の分野でアナリスト業務を中心に活動しています。
フリーの立場で従来のマクロ経済や金融市場分析に限らず、その背後の政治的な権力闘争に至るまで調査活動を行っています。
これまで、月刊誌『商品・証券・金融先物市場』とその後継の『フューチャーズ・マーケット』や投資日報社などの大部分のインタビュー記事の作成をはじめ、他の情報媒体の市況執筆に携わってきました。
また、『「実物経済」の復活』(副島隆彦著 光文社刊)』はじめ、著名評論家の著作本執筆の実質的な共著や補助などの業務に携わってきました。
どうぞ、よろしくお願いいたします。