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「新冷戦」構造の構築に向けて役者がそろう

ポイント
・リーマン・ショックを機にコンドラチェフ・サイクルが上昇局面に転じたことで、これから財政出動主導で経済成長が牽引されていくことになり、米中「新冷戦」構造の構築がその役割を担うことになる。
・世界覇権を握っている超大国の権力者層がもう一方の大国と冷戦構造を構築するにあたり、その最高権力者を操る必要があり、習近平はかつてのスターリンと同じ役割を担うことになる。
・習近平が鄧小平路線を否定して内生的には毛沢東以来の終身的な専制権力体制による強権体制を確立し、外交面でも積極的な膨張路線を推進しているのはこのためだ。
・ただ、ヘゲモニー・サイクルが下降局面に転じて米国の世界覇権が後退していくので、かつての冷戦時代ほど大型の経済成長は望めないが、日本は独自に核武装に進むことで米国の属国支配から独立していくことが見込まれる。



拡張的な財政政策で最大の押し上げ効果があるのが軍需の創出

 以前、当欄では08年秋のリーマン・ショックによる巨大な金融危機と翌09年前半にかけての景気の大きな落ち込みを受けて、ヘゲモニー・サイクルが天井を打って米国の世界覇権の勢いが転換点を迎えるとともに、それより下位サイクルであるコンドラチェフ・サイクルが底入れして上昇局面に転じたことで、大きな傾向としては経済状態がインフレ体質になっていくと述べた。
 このコンドラチェフ・サイクルが下降局面にある際には物価が上がりにくいディスインフレ傾向にあるなかで、中央銀行が緩和的な金融政策運営を推進していくことで、資産価格を高騰させていくことによりその資産効果による消費押し上げから経済成長が実現されやすい。
 これに対し、このサイクルの上昇局面では拡張的な財政政策により経済成長が推進されていくことでインフレ的な体質になりやすくなるが、公共インフラ事業や減税政策以上に大きな景気拡大効果が見込めるのが軍需の創出である。それも、地域間で局所的な戦争を引き起こすよりさらに巨大な軍需を創出するには、地球上を二分するほどの規模を有する二大国間で軍拡競争を引き起こす冷戦体制を構築することだ。


冷戦体制では米国に敵対する大国をコントロールする必要がある

 1944年のブレトンウッズ体制の成立や翌45年の第二次世界大戦の終結とともに始まった前回のコンドラチェフ・サイクルの上昇局面で世界経済の成長を牽引する大きな原動力になったのが、米国とソ連が対峙した「旧冷戦」体制だった。そこでは、二大国が軍事的に対立しているように見せかけて、実際には米国に敵対する大国を米国の世界覇権を運営している勢力がコントロールする必要がある。
 例えば、米国から「悪の帝国」の烙印を押されたソ連では、ジョン・ロックフェラー2世やその末子デヴィッド・ロックフェラーに操られていたヨシフ・スターリンが、欧州ロスチャイルド財閥系のウラジーミル・レーニンやレフ・トロツキーを排して独裁権力を握ったうえで「恐怖政治」を繰り広げたことが、米ソ冷戦体制の構築に決定的な役割を果たした。太田龍氏系の陰謀論者はスターリンがマルクス主義的なプロレタリアート独裁から離れて帝国主義的全体主義を志向したことで国際金融資本の意向から離れたといった捉え方をしているが、それはスターリンが欧州系財閥から米系財閥に“鞍替え”し、米国の世界覇権に対抗し得る巨大帝国の道を突き進むように操られていたことによるものだ。
 スターリンの死後、ニキータ・フルシチョフが反スターリン路線による東西融和(デタント)を推し進めたのは、この人物が帝政ロシア時代の貴族階級の血筋を引いており、ロスチャイルド一族と縁戚関係にあったからだ。そのフルシチョフを失脚させてレオニード・ブレジネフを擁立した“黒幕”がデヴィッド・ロックフェラーだったことは、米国では水面下でそれなりに言われていることだ。


スターリンと同じ役割を担わせようとしているのが習近平

 今、その米系財閥が「新冷戦」構造を構築するにあたり、かつてのスターリンと同じ役割を担わせようとしているのが、中国でブラックストーン・グループのスティーブン・シュワルツマン最高経営責任者(CEO)を介して操っている習近平国家主席である。
 習近平主席は権力闘争においては、「虎刈り」「蝿叩き」などと呼ばれる反腐敗運動を繰り広げて江沢民元国家主席につらなる大物政治家を次々に汚職容疑で陥れ、さらには胡錦濤前国家主席が率いる共産主義青年団(共青団)系にも圧力を強めて“脅迫”し、自身に無条件で従うように強要することで専制権力体制を構築しつつある。
 内政面では治安、公安部門を強化して反共産党的な動きや人権派への弾圧を強めており、これからバブルが崩壊して経済情勢が危機的な状況に陥り、一般民衆の暴動が激化しても、強引に力ずくで圧殺できる体制を整えつつある。さらに外交面では「中華民族(帝国)の夢」を標榜することで、軍事的、経済的に積極的な膨張路線を推進しようとしている。


鄧小平の路線を否定する習近平

 かつて、鄧小平は毛沢東が最高権力者の地位を終生維持したことが「文化大革命」による大混乱をもたらしたとの反省から、「共産党主席」の地位を廃止して重要な事項は政治局常務委員会での合議制で決めることにした。また対外的にも、“能ある鷹は爪を隠す”を意味する「韜光養晦(とうこうようかい)」路線を提唱し、米国はじめ主要な国々との摩擦が強まるのを避けようとした。
 ところが、現在の習近平主席はまさにかつての鄧小平が志向した路線を否定して大国としての中国の建設に向かっており、それにより表面的には米国との対立が深まることで、米国内では軍需産業やそれを裏側で掌握している権力者層が巨利を得ることになる。そうした体制が共産党大会を経て間もなく決まることになり、いよいよ「新冷戦」時代の幕開けに向けて“役者がそろう”ことになる。


長期的に日本はデフレ状態から脱しながら米国からの独立を目指すことに

 米中両大国間で軍拡競争が繰り広げられていくことで世界経済が成長軌道に乗っていけば、過剰貯蓄によりもたらされていたデフレ圧力が払拭されてインフレ傾向に転換していくだろう。特に日本は90年代にバブル崩壊から非常に長期にわたるデフレ傾向に悩まされてきただけに、ようやく望ましい経済状態になっていく可能性が出てくるだろう。

 ただ留意すべきなのは、かつてのヘゲモニー、コンドラチェフ両サイクルがともに上昇局面で到来した旧冷戦時代とは異なり、これから迎える新冷戦時代はヘゲモニー・サイクルが下降局面にあり、米国の世界覇権が減退していく局面で遭遇することだ。景気循環の法則にある通り、サイクルが上昇局面にあってもより上位サイクルが下降に向かっているとそれほど大型の好景気にならず、その期間も短いものにならざるを得ないため、かつての旧冷戦時代に比べるとこれから迎える新冷戦時代は当時ほどには大きな経済成長を引き起こすことは望みにくい。
 ただその一方で、米国の国力がかつての旧冷戦時代に比べると衰えていることから、日本にも応分の軍事的な負担を求めるようになり、中長期的には核武装までさせようとしている。それにより、日本はこれから大規模な軍需の創出による恩恵を受けてデフレからの脱却に成功しながら、政治的、外交的には米国からの属国支配から離脱していくことになるのかもしれない。
 安倍晋三首相がウラジーミル・プーチン大統領と個人的に親しい関係を構築し、中国に対しても「一帯一路」構想に関心を示すようになったのは、将来的に日本がアジア共同体の構築に動く“布石”なのかもしれない。


 今週はこれで終わりになります。今週もありがとうございました。
 来週もこれまでと同様に、週明け11日月曜日から掲載していきます。
 北朝鮮が核実験に踏み切ったのを受けて米朝間の緊張がさらにエスカレートするとともに、水面下で中国とロシアとの交渉の実情を把握する必要があります。
 またFRBで主導権を握っていたフィッシャー副議長が辞任表明したように、米国の通貨戦略が大きく変わりつつあるので、考察することが目白押しです。
 来週もよろしくお願いします。
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プロフィール

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永山卓矢と申します。
有限会社ナリッジ・クリエイション代表です。
現在、マクロ経済の分野でアナリスト業務を中心に活動しています。
フリーの立場で従来のマクロ経済や金融市場分析に限らず、その背後の政治的な権力闘争に至るまで調査活動を行っています。
これまで、月刊誌『商品・証券・金融先物市場』とその後継の『フューチャーズ・マーケット』や投資日報社などの大部分のインタビュー記事の作成をはじめ、他の情報媒体の市況執筆に携わってきました。
また、『「実物経済」の復活』(副島隆彦著 光文社刊)』はじめ、著名評論家の著作本執筆の実質的な共著や補助などの業務に携わってきました。
どうぞ、よろしくお願いいたします。