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ドル安誘導のターゲットにされるECBと人民元

ポイント
・ECB理事会を前にユーロ高が進んだのを受けてECB関係者が「12月までテーパリングの計画が整わない」と述べたが、ドラギ総裁は会見で次回10月の理事会で公表することを宣言した。
・米トランプ政権は保護主義的な政策からユーロ安をもたらしているECBの政策を批判しており、ドラギ総裁もG30の指示で動いているため、その背後には米国の意向があると考えるのが自然である。
・米国は「新冷戦」構造に持ち込むにあたり、中国やその衛星国を国際通商体制から追放しようとしているが、そのためには同国の対米輸出を減らす必要があるため、ドル安誘導の最大のターゲットは人民元である。



12月に計画を公表するとしていたのが10月に早まったのはなぜ?

 ここで7日に行われた欧州中央銀行(ECB)理事会について簡単に検証しておく。
 ECBによる現行の量的緩和策では国債をはじめとする資産を毎月600億ユーロのペースで買い入れることになっているなかで、年明けからその買い入れ額を縮小していくのは既定路線となっている。ただ、イタリア出身のマリオ・ドラギ総裁はじめECB執行部はそろって財政事情や銀行の資産内容が脆弱な南欧諸国の出身者で占められているだけに、“本音”ではテーパリングに動くことは望んでいない。
 ところが、米ドナルド・トランプ政権が対米貿易赤字を縮小させるためにユーロ安をもたらしていたECBの量的緩和策を批判していたなかで、市場ではその米国を“なだめる”ために今回の理事会で年明け以降のテーパリングの計画を公表したり、場合によっては今回で早くもそれ自体を決めるのではないかといった見方すら出ていたことでユーロ高が進んできた。そこで、ECB関係者が今月1日に執行部の意向を受けて「12月までテーパリングの計画が整わない」と発言することで、市場の沈静化に努めなければならなかった。

 ところが、実際に7日の理事会後のドラギ総裁の会見では、「インフレ動向には多くの懸念がある」「極めて大規模な金融緩和策の継続が必要」とし、「ユーロ相場はインフレや成長にとって重要」「政策決定には為替動向も考慮に入れる」としてユーロ高を牽制しながらも、「量的緩和策に関する多くの決定は10月に行う」と表明してしまった。


米系財閥の意向を受けた可能性も

 事実上、次回10月26日の理事会で年明け以降のテーパリングの計画を公表すると「宣言」されたことで、市場では理事会が終わると再びユーロ高が進み、1ユーロ=1.2ドル台に乗せた。どうして事前にテーパリングの計画を実質的に12月に公表するとほのめかしていたにもかかわらず、理事会後の会見でドラギ総裁がそれを10月に早めることにしたのかというと、総裁自身もG30の意向で動いているため、そこには米国の意向、圧力があったと考えるのが“自然”である。
 その背景には、米国で主導権が欧州ロスチャイルド財閥から米ロックフェラー財閥に代わり、ドル安誘導政策に舵を切ることになったことがあるのだろう。それとともに、日本銀行(日銀)を除く中央銀行に、それも特に米ドルに次ぐ国際通貨であるユーロ相場を管轄しているECBに、金融政策の正常化に向けて動くように圧力が強まったわけである。

 ただし、従来からECB執行部がテーパリングに消極的なのに対してドイツ連銀(ブンデスバンク)やドイツ政府がそれに積極的な姿勢を見せてきたが、米国ではトランプ政権が保護主義的な観点からテーパリングに向けて動くように求めていたなかで、そうしたECBの金融政策についてはドイツと米国との間で“同床異夢”的な奇妙な協調関係が成立していた。ところが、ついに1ユーロ=1.2ドル台にまでユーロ高が進んできたのを受けて、先週末8日にはドイツ連銀のイエンス・バイトマン総裁が「インフレ率の回復力は鈍い」と述べて、従来の姿勢を軌道修正しつつあるのが注目されるところだ。


ドル安誘導の最大のターゲットは人民元の切り上げ

 ただし、米国がドル安誘導をしていくにあたり、その最大のターゲットは中国・人民元相場である。前述のように、欧州系財閥は中国に対して通商問題で圧力を強め、国有銀行や国有企業の買収を目論んでいたなかで、その中国に圧力を強めるために人民元相場を売り崩してきた。これに対し、米系財閥はドル安誘導をしていくので人民元相場が上昇することを求めることになるが、そうした単純な考え方にとどまらず、中国に対してはより深い意味がある。

 というのは、これまで当欄で指摘してきたように米系財閥は「新冷戦」構造を構築していくにあたり、従来の国際通商体制である世界貿易機関(WTO)体制を瓦解させ、冷戦の相手である中国やその衛星国をそこから追放し、米国が中心になって新たな国際通商体制の構築に向けて動こうとしているからだ。そこでは、これから中国による対米輸出を減少させていく必要があるため、そうした戦略的な観点からも人民元相場を切り上げることが必要になるわけだ。
 今回の北朝鮮問題に絡み、トランプ大統領が同国と経済関係のある国との米国との貿易の全面的な停止を検討していることをほのめかし、事実上、中国に対して米国主導の通商体制から締め出すような“そぶり”見せているのは、国連安全保障理事会での決議を巡る動きだけでなく、こうしたこともその背景にあるわけだ。
 実際、米国は中国に対し、前回の丹東銀行に続いて、今回は北朝鮮と金融取引関係のある複数の中国の銀行が米金融システムから遮断され、実質的にドル資金を調達できないようにすると脅しているのも、こうした外交・軍事戦略の一環である。


 週末の明日は3日の北朝鮮の核実験の背景について考えます。
 今回の国連安全保障理事会での制裁決議をめぐる動きについては、状況により来週採り上げます。
 よろしくお願いします。
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プロフィール

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永山卓矢と申します。
有限会社ナリッジ・クリエイション代表です。
現在、マクロ経済の分野でアナリスト業務を中心に活動しています。
フリーの立場で従来のマクロ経済や金融市場分析に限らず、その背後の政治的な権力闘争に至るまで調査活動を行っています。
これまで、月刊誌『商品・証券・金融先物市場』とその後継の『フューチャーズ・マーケット』や投資日報社などの大部分のインタビュー記事の作成をはじめ、他の情報媒体の市況執筆に携わってきました。
また、『「実物経済」の復活』(副島隆彦著 光文社刊)』はじめ、著名評論家の著作本執筆の実質的な共著や補助などの業務に携わってきました。
どうぞ、よろしくお願いいたします。