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米ドル安政策への転換に沿って政策変更の余地を残したFOMC

ポイント
・財政政策に遅れて金融政策もフィッシャーFRB副議長主導で正常化路線が推し進められてきたが、その副議長が辞表を提出したのは、米権力者層の路線転換を示唆している。
・その背景には、米政府で主導権が新冷戦構造の構築を目指している米系財閥に移り、国防費を大幅に増額していくにあたり、公的債務残高を軽減していくためにドル安政策に転換していくことになったことがあるようだ。
・そうしたことは、市場では材料視されなかったが、FOMC会合後のイエレン議長の会見のなかで、将来的な金融政策の転換の可能性について言及したことに表れている。
・ただし、そうした方針転換は劇的に行うのではなく徐々に慣らしていくことになりそうであり、FRBは12月の利上げは従来の方針通り決めていくようだ。



財政政策に遅れて金融政策も正常化路線に

 米国では、リーマン・ショックへの金融危機対応や大型の景気対策を発動したことにより財政状態が著しく悪化したのを受けて、バラク・オバマ前政権が国防費を中心に財政支出を削減する財政健全化路線を推進した。その一方でベン・バーナンキ前連邦準備理事会(FRB)議長は、3回にわたる強力な量的緩和策を推し進めた。
 財政政策面でいち早く正常化に向けて舵を切ったのに対し、金融政策面でもようやく金融機関が蘇ったことで、バーナンキ議長の任期終盤には遅ればせながら正常化路線に転換することができるようになった。

 それにより、財政政策面では正常化を終えて積極的な拡大路線にシフトすることになった。軍需産業の利害を代弁して国防費を増額していき、積極的に戦争を引き起こしていくにあたり、共和党系新保守主義(ネオコン)派主導でドナルド・トランプ現政権が成立したのは改めて指摘するまでもないことだ。
 その一方で、金融政策面では正常化に向けて舵を切るにあたり、世界中の主要国・地域の中央銀行の金融政策を実質的に管理、統轄しているとされるグループ・オブ・サーティ(G30)の最高幹部の一員として送り込まれ、事実上、FRB執行部で主導権を握ってきたのが前イスラエル中央銀行総裁のスタンレー・フィッシャー副議長だった。


主導権が欧州系財閥から米系財閥に交代

 ところが以前、当欄で指摘したように、そのフィッシャー副議長が辞表を提出したのは、米権力者層の権力基盤に変化や動揺が生じたり、米国の通貨政策が根本的に変わった可能性を考えないわけにいかないものだ。
 その背景には、今年初にトランプ政権が成立してから7月頃までは欧州ロスチャイルド財閥が主導権を握っていたのが、8月に入ってから米ロックフェラー財閥にそれが移行したことがあるようだ。欧州系財閥はトランプ政権の「アメリカ・ファースト(米国第一主義)」を掲げた保護主義的な性格を利用して中国に通商問題で圧力をかけ、国際会計制度の導入や資本取引の自由化を受け入れさせようとしてきた。
 北朝鮮問題で圧力を強めていたのも、あくまでも水面下での通商交渉で攻撃するための「手段」に過ぎず、最初から武力行使は想定されていなかったはずだ。

 ところが、8月に入り主導権を奪い取った米系財閥は中国を「悪の帝国」に仕立てて「新冷戦」構造を構築しようとしている。朝鮮半島北部でもそうした時代の到来に向けて米国に有利な状況を醸成するため、北朝鮮に対して軍事攻撃も辞さない姿勢を示している。
 8月8日にトランプ大統領が「炎と怒り」発言をしてから急速に米国と北朝鮮の関係悪化がエスカレートしていったのも、その前日に「オルトライト」右翼としてトランプ政権の保護主義的な姿勢を牽引してきたスティーブン・バノン前首席戦略官・上級顧問が辞表を提出(実際に解任されたのは18日)したのも決して偶然ではない。


FRB副議長辞任の背景に米系財閥による主導権の掌握

 米系財閥が主導権を握り新冷戦構造が構築されていけば、いかに議会で超保守的なフリーダム・コーカス(自由議員連盟)が抵抗しようとも、国防費が大幅に増額されて財政状態が再び悪化していくのが避けられない。それにより大量に増発される米国債の多くを日本勢が引き受けることで資金ファイナンスに支障を来すことがなくても、米国の公的債務残高が一段と膨れ上がってしまう。
 そこでそれを軽減していくにあたり、米国が出来る限り“痛み”を伴わずにそれを実現するには、これまでにも長期的にそうしてきたようにドル安に誘導していくことだ。米権力者層がドル安を望むようになったなかで、フィッシャー副議長がFRB執行部に送り込まれた意義が喪失してきたことが、最近の副議長による辞表の提出の背景にあることを考えないわけにいかない。


イエレン議長が初めて将来的な金融政策の変更の可能性に言及

 そこで先週、開催された連邦公開市場委員会(FOMC)において、市場ではまったく材料視されなかったにもかかわらず、そうした観点から注目すべきなのが、ジャネット・イエレン議長が将来的に政策姿勢を転換する可能性について言及したことだ。
 まず、イエレン議長は「ネガティブなショックがあれば、バランスシート縮小の過程の見直しをすることもあり得る」と述べた。6月に9月の会合で縮小開始を決めることを事実上、宣言したうえで、その後の縮小幅の拡大に向けたスケジュールを発表した際には「経済情勢により・・・・」といった文言が含まれず、それとは無関係に“粛々と”縮小拡大を進めていく姿勢を示したが、それを微妙に軌道修正したといえる。

 さらにイエレン議長はそれだけでなく、「(インフレ率が停滞しているのは)数年前までは労働市場の“弛み(スラック)”やエネルギー価格の低迷といった、非常に納得できる理由があったが、今年はこうした要素がなく、2%割れが続いて容易に上昇してくる気配がないのは『ミステリー』だ」と述べた。そのうえで、「足元のインフレ率の停滞が(経済主体の)インフレ期待の低下につながるとしたら心配だ」として、「インフレ率の停滞が持続的だと判断すれば、2%の目標値への達成に向けて金融政策の変更が求められる」と発言した。
 市場ではこうした発言にはまったく反応を示さなかったが、ハト派的なFOMC委員ではなく、イエレン議長が従来の緩やかな利上げを推進していく路線からの変更に言及したのは今回が初めてである。少なくとも、フィッシャー副議長が辞表を提出したことも合わせ、FRB執行部を背後で操っている米権力者層の意向がここにきて変わってきている可能性を考えないわけにいかない。


12月の追加利上げの決定は従来の方針通りか

 ただし、米政府の通貨政策がドル安志向に、それとともにFRBの金融政策もハト派的に転換していくとしても、それは米国の公的債務残高が飛躍的な水準に積み上がる前に、緩やかにドル安にシフトしていくことでソフトランディング(軟着陸)を図ろうというものだ。通貨・金融政策の転換も“劇的に”行うのではなく、市場に“慣らしていく”ような形で緩やかに推進していこうとしているようだ。

 このため、従来から予定されていることもあり、今回のFOMC委員の見通しでも前回6月時点からそのまま据え置かれたように、12月12~13日のFOMCではこれまでの方針通り追加利上げが決定されるのだろう。
 今回のFOMCの開催を控えて、FOMC委員の発言が禁止されるブラックアウト期間に入るまではあれほどハト派的な委員が発言をしていたのが、それを過ぎると一転してカンザスシティ連銀のエスター・ジョージ、サンフランシスコ連銀のジョン・ウィリアムズ両総裁といったタカ派的な委員が多く発言するようになった。さらに26日にはラエル・ブレイナード理事が講演であえて金融政策にコメントせず、イエレン議長自身が12月の利上げの決定に向けてタカ派的な発言をするあたり、以前からシナリオに沿った動きが進行していると言わざるを得ない。
 中期的に金融政策をハト派的に転換していくとはいえ、すぐにそれを変えるのは困難であるだけでなく、先週20日にかけてダウが史上最高値を更新しているなど米株価が再び高騰するようになってきたので、当面は利上げがこのまま続いておかしくない。順当にいけば、12月にもう1回利上げを決める際に、FOMC委員による来年以降の利上げ見通しや声明文、イエレン議長の会見の内容がハト派的に変わっていくのではないか。


注目される金相場や金市場の動向

 注目されるのは、その「永遠不変にして普遍」の「無国籍通貨」としての性格からドル相場と反対の動きを示す性格が強い金相場や金市場の動向である。
 金相場は8月下旬にFRBの利上げ観測の後退に北朝鮮リスクの高まりが加わったことで、それまでの1,300ドル手前の上値抵抗を上抜いて7営業日ほどで一気に1,350ドルを超える水準まで上伸した。その後、北朝鮮リスクに市場があまり反応しなくなるとともに急反落していき、FOMCでのタカ派的な内容からドル高が一段と進むと再び1,300ドルを割り込み、足元ではこのレンジ上限を超えたのがダマシになるか微妙な位置で推移している。

 ただ、市況が低迷しているのとは裏腹に、金の上場投資信託(ETF)の残高がここにきて増加傾向で推移しており、じきに相場も再び上昇していくことを暗示している気がしないでもない。おそらく、ETFに資金を流入させているのは、米権力者層と密接なつがなりのある投機筋によるところが大きいと思われるだけに、ドル安政策に転じつつあるのを背景に金買いに動いている公算が高いだろう。


 明日、明後日は再び北朝鮮問題を採り上げます。
 明日はトランプ米大統領と北朝鮮側の言葉の応酬について考察します。
 週末の明後日は米国の二次的制裁をめぐり、これまでの水面下での中国との暗闘について述べることにします。
 今週後半もよろしくお願いします。
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プロフィール

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永山卓矢と申します。
有限会社ナリッジ・クリエイション代表です。
現在、マクロ経済の分野でアナリスト業務を中心に活動しています。
フリーの立場で従来のマクロ経済や金融市場分析に限らず、その背後の政治的な権力闘争に至るまで調査活動を行っています。
これまで、月刊誌『商品・証券・金融先物市場』とその後継の『フューチャーズ・マーケット』や投資日報社などの大部分のインタビュー記事の作成をはじめ、他の情報媒体の市況執筆に携わってきました。
また、『「実物経済」の復活』(副島隆彦著 光文社刊)』はじめ、著名評論家の著作本執筆の実質的な共著や補助などの業務に携わってきました。
どうぞ、よろしくお願いいたします。