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強気な内容になった雇用統計の検証

ポイント
・今回の雇用統計は強気な内容になったが、労働参加率が低下して職探しをする人が増えたなかで失業率が大幅に低下したあたり、労働市場がかなりひっ迫していることが窺われる。
・平均時給が一気に伸びたこともかなりタカ派的な要因だが、今回は低賃金の職種の雇用が大幅に減ったことが全体の賃金の伸びを押し上げた面もありそうだ。
・今回は平均時給の伸びが3%近い水準に達したが、前月に2.5%と発表され、それが0.2ポイントも上方修正されたあたり、当局による作為的なものを感じさせる。
・今回の内容はかなりタカ派的であり、FRB執行部がいずれインフレ率が2%の目標値に向けて上昇していくとの見方から利上げを推進する姿勢を後押しするものだ。
・次期FRB議長の候補としてテーラー元財務次官の可能性が遠のいたのは、米権力者層が緩やかなドル安を望むようになったなかで、利上げ路線の推進を主導していたフィッシャー副議長が退任することになったことが影響しているようだ。



今回の雇用統計はかなり強気な内容に

 今回は週末6日に米国で雇用統計が発表されたので、まずこの指標について簡単に検証しておく。
 今回の雇用統計では非農業部門の雇用者数(NFP)が前月比3万3,000人減り、久しぶりに減少を記録して事前予想の8万人増加をも大きく下回った。とはいえ、前月分の増加幅が15万6,000人から16万9,000人に上方修正され、さらに失業率が4.2%と事前予想や前月の4.4%を下回った。そしてなにより平均時給が26.55ドルと前年同月比2.9%上昇して事前予想の2.6%を大きく上回り、前月分も2.5%から2.7%に0.2ポイントも上方修正された。
 NFPがマイナスの増加幅になったのはハリケーン「ハービー」の襲来により大きな被害を受けたことによるところが大きいとされたので、この内容は特に平均時給が大きく伸びたのを中心に極めてタカ派的とされ、FRBによる追加利上げ観測をさらに高めるものになった。

 順を追って見ていこう。まず失業率が事前予想や前月を0.2ポイントも下回って16年半ぶりの低水準に低下したのは、それ自体が相当に強気な内容であるのはいうまでもないことだ。
 それだけでなく、労働参加率が63.1%と前月から0.2ポイントも上昇しており、1-3月期の停滞を脱して景況感が上向いてきたことで職探しをする人がかなり増えたなかで失業率が大幅に低下しているあたり、労働市場ではかなりひっ迫している状態にあったのが一段とそうした傾向に拍車がかかっているのを示唆する内容といえるだろう。


低賃金の職種の大幅な減少が平均時給の伸びに貢献か

 NFPがマイナスの増加幅になったのは当然のことながらハリケーンの影響によるところが大きいのは間違いないが、労働市場がかなりひっ迫した状態にあり、企業側が希望通りに求人数を確保できない状態にあることもその一因になっている可能性がある。そうした状況では、平均時給の上昇率が前年同月比で3%近い水準に一気に高まってもおかしなことではない。
 ただ、今回のNFPは前月比で3万3,000人減ったが、このうち政府部門では7,000人増えていることが全体の減少幅を抑制しており、民間部門では4万人も減っている。さらにその内訳を見ると、物品生産部門が9,000人増えているのに対してサービス部門が4万9,000人減少しているが、その中でも娯楽・観光業の部門が11万1,000人も減っているのが全体の足を大きく引っ張ったのは明らかである。
 この部門は飲食店での接客業も含まれており、パート勤務ではなくても賃金が低い職種である。こうした低賃金の職種が大きく減ったことが全体の平均時給を押し上げたことが考えられ、翌月以降も前年同月比の伸びが一段と高まって3%台に乗せていくと予想するには無理があるといえよう。


平均時給には当局の作為的な姿勢も

 この平均時給について筆者が気になることを一点だけ指摘すると、当月の前年同月比の伸びが2.9%に高まっただけでなく、前月分も2.7%に0.2ポイントも上方修正されていることだ。
 前月1日に発表された際にはこれが2.5%の上昇にとどまったことがハト派的とされてドル安に振れたものだが、当時は米連邦準備理事会(FRB)執行部の間では12月に利上げを決めるのは既定路線ではありながらも、19~20日に連邦公開市場委員会(FOMC)の開催を迎えるまでは意図的にそうした姿勢を後退させていたものだ。
 実際、当時はミネアポリス連銀のニール・カシュカリ、ダラス連銀のロバート・カプラン両総裁といったハト派のFOMC委員が積極的に発言をしていたこともあり、市場では12月の利上げ観測が後退してドル安に振れることが多かったものだ。

 ところがFOMCの開催を機に、良好な米景気指標の発表が相次いだことや税制改革期待から株価が高騰を再開したこともあるが、ジャネット・イエレン議長がタカ派的な発言を繰り返しただけでなく、カンザスシティ連銀のエスター・ジョージ総裁といった代表的なタカ派も積極的に発言をするようになったことで、市場では急速に12月の利上げの決定を織り込むようになった。今回の雇用統計での平均時給はそうした環境下で発表されたあたり、いかにも米権力者層の意向を受けた当局による作為的な姿勢を感じないわけにいかない。


12月以降の利上げの決定を後押しすることに

 ただいずれにせよ、今回の雇用統計の内容はFRBによる12月の利上げの決定をほぼ決定づけたといって過言ではないだけではなく、18年に入ってからもしばらくはそうした姿勢が続くとの見方を強めるのに十分な内容であるのは確かである。
 これまで、間もなく退任するスタンレー・フィッシャー副議長が主導権を握ってきたFRB執行部は緩やかな利上げ路線の推進を正当化するにあたり、労働市場のひっ迫がいずれインフレ率を目標値である2%の水準に向けて押し上げていくと見られることをその論拠としていた。今回の平均時給の伸びが特殊要因で押し上げられた部分があるとはいえ、それでも確実に上昇してきているあたり、そうした執行部の姿勢を強力に後押しすることになるからだ。

 ただし、中長期的には米権力者層の意向を受けて米政策当局が緩やかなドル安志向に政策姿勢を転換させていくので、少なくとも多くのFOMC委員が予想しているような、来年も3回もの利上げが決まる公算は低い。筆者は現時点では利上げの打ち止めの時期を来年6月と予想している――すなわち、12月に利上げを決めて以降、3、6月とあと2回もの利上げが決定されるということだ。


次期FRB議長の人選について

 なお、今後のFRBの金融政策姿勢を占ううえで、いうまでもなく来年2月に任期を迎えるイエレン議長の後任に誰が就任するかが大きなカギを握る。近くドナルド・トランプ大統領が発表するとしているなかで、最近ではケビン・ウォーシュ元理事やジェローム・パウエル現理事の名前が有力候補として挙がっている。
 以前にはジョン・テーラー・スタンフォード大学教授(元財務次官)やゲーリー・コーン国家経済会議(NEC)委員長が有力視されていたが、今ではあまりその可能性がなくなったようだ。この両氏のうち、コーン委員長についてはトランプ大統領の関係が悪化したことが大きく影響していることが知られているが、テーラー教授についてはいつの間にか有力候補からはずれたといった感が強いだけに、ここでその理由を指摘しておく。


テーラー教授が一時有力視され、その後薄れた背景

 テーラー教授は中央銀行が金融政策を決めるにあたり、政策金利の適正値をマクロ経済の変数から導き出すモデルである「テーラー・ルール」を考案したことで知られている。ジョージ・W・ブッシュ政権下で財務次官に就任し、イラク戦争で荒廃したイラクでの金融政策に取り組んだ経緯がある。
 しかし、本来的にテーラー教授はフィッシャーFRB副議長やエドムンド・フェルプス・コロンビア大学教授とともに代表的な左派系のニューケインジアンであり、右派系のトマス・サージェント・ニューヨーク大学バークレー校教授をはじめ合理的期待形成学派と激しい論戦を繰り広げた経緯がある。すなわち、共和党に所属しているとはいえ本質的、信条的には民主党に近いといえるわけだ。

 だとすれば、テーラー教授が以前、有力候補として浮上したのは、フィッシャー副議長が強力に推薦したことによるものであることが容易に推測できる。フィッシャー副議長としてはイエレン議長が来年2月に、自身も6月に任期を終えることになっていたなかで、テーラー教授を後継議長に就けることで自身の政策姿勢を継続させることを目論んでいたわけだ。
 いうまでもなく、その後テーラー教授が次期議長の有力候補でなくなっていったのは、米系財閥が主導権を握り「新冷戦」体制の構築に向かうなかで、通貨政策をドル安志向に転換していくにあたり、フィッシャー副議長が辞意を表明したことと密接な関連があることが容易にうかがわれる。


 明日から週末にかけての3日間は、再び北朝鮮情勢に戻ります。
 明日は、ここにきてまた北朝鮮のミサイル発射が注目されているなかで、その発射時期を占いたいと思います。
 明後日はその背後での米国による中国への攻撃に焦点を当てます。
 週末の明後日はそれにより新冷戦時街が幕を開けるなかで、中東との関係も大雑把に見ていきます。
 よろしくお願いします。
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プロフィール

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永山卓矢と申します。
有限会社ナリッジ・クリエイション代表です。
現在、マクロ経済の分野でアナリスト業務を中心に活動しています。
フリーの立場で従来のマクロ経済や金融市場分析に限らず、その背後の政治的な権力闘争に至るまで調査活動を行っています。
これまで、月刊誌『商品・証券・金融先物市場』とその後継の『フューチャーズ・マーケット』や投資日報社などの大部分のインタビュー記事の作成をはじめ、他の情報媒体の市況執筆に携わってきました。
また、『「実物経済」の復活』(副島隆彦著 光文社刊)』はじめ、著名評論家の著作本執筆の実質的な共著や補助などの業務に携わってきました。
どうぞ、よろしくお願いいたします。