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ハト派を装ったECBのテーパリング政策

ポイント
・ECBは年明け以降の資産購入減額を決めたが、オープンエンドの可能性も示唆されるなどハト派的なものになり、執行部がドイツ連銀の反対を押し切ったようだ。
・ドラギ総裁はこれをテーパリングではなく量的緩和策の小規模化だと主張しており、9月末での終了に縛られず、半永久化の可能性も示唆している。
・トランプ政権になってから米国はユーロ安をもたらしているECBの政策を批判しており、緩和策の継続を望んでいる執行部としては悩ましい状況に置かれている。
・カタルーニャ問題に加えて新興国通貨不安が強まると欧州の銀行も不良債権を抱えることになるため、とりあえず今回は米国側もECB執行部の姿勢を黙認せざるを得なかったようだ。



ドイツ連銀がECB執行部に押し切られる

 今週はまず、先週26日に開催された欧州中央銀行(ECB)の定例理事会について簡単に考察しておく。
 今回の理事会では年明け以降、量的緩和策の縮小(テーパリング)が始まることが事実上、内定しているなかで、その内容を決めることが既に表明されていた。今回、決まったその内容では、資産買い入れ額を現行の毎月600億ユーロのペースから同300億ユーロに縮小させたうえで、少なくとも来年9月末まではそれを続ける意向を示した。
 マリオ・ドラギ総裁は理事会後の会見で、「十分な量的緩和は依然として必要」「欧州域内のインフレ圧力は弱まっている」「コアインフレが上昇する兆候はまだ見られない」「経済見通しの達成にはECBのサポートが必要」と述べた。そのうえで、この政策は“オープンエンド(期限が定まっていない)”ものであり、状況が改善しなければ10月以降も続けることや、9月末の期限が到来する以前でも状況が悪化すれば再び資産購入額を増額して量的緩和策を強化する姿勢を示した。
 期限を特定しなかったことについては全会一致ではなく、おそらくドイツ連銀(ブンデスバンク)のイエンス・ヴァイトマン総裁が反対したのだろうが、ドラギ総裁はじめハト派で占められている執行部に押し切られたようだ。


今回の資産購入額の減額は量的緩和策の小規模化との言い訳

 それだけではない。市場ではこれまで、テーパリングとともに政策金利も引き上げられるとの見方が根強い状態にあったが、今回の理事会では、少なくとも量的緩和策が続いている間は利上げに踏み込まないことを確認したことも表明された。
 さらにドラギ総裁は会見で、今回の資産買い入れ額の減額は「テーパリングではなく単なる小規模化だ」と述べたことも注目される。これはすなわち、テーパリングというのは資産購入額を段階的に減らして最終的には量的緩和策を終了させることを意味しているが、それを否定して「小規模化」と定義したことで、10月以降もそれを続けることに縛られない姿勢を示した。
 またそれだけでなく、日本銀行(日銀)の政策の出口が見えないのと同様に、ECBの量的緩和策自体も半永久的に続く可能性を示唆したものにほかならない。


悩ましいECB執行部の立場

 これまで当欄で何度も指摘していることだが、大事なことなので簡単にもう一度述べておく。
 ECBではイタリア出身のドラギ総裁はじめ執行部が経済・財政状況が脆弱な南欧諸国の出身者で占められているために金融政策の正常化に舵を切ることには消極的であり、できれば量的緩和策もこのまま継続したいと考えている。
 これに対し、米国はバラク・オバマ前政権時代にはそうした執行部の姿勢を後押ししていたが、ドナルド・トランプ現政権はその保護主義的な姿勢から、ユーロ安(ドル高)をもたらしているECBの超大規模な緩和策を批判している。特に8月上旬以降、米国では中国を相手に「新冷戦」構造を構築して国防費を大幅に増額しようとしている米ロックフェラー財閥が主導権を握ると、対外的な公的債務残高を軽減するために緩やかなドル安を望むようになっていることで、よけいにECBに圧力を強めている。
 ドラギ総裁はじめECB執行部としては出来る限り金融政策の正常化に舵を切りたくはなく、またユーロ高の進行も抑え込みたいと考えている。にもかかわらず、米国の意向を受けてグループ・オブ・サーティ(G30)から正常化に動くように指示を受けており、その葛藤に悩まされている状況だ。


諸般の事情でECB執行部の姿勢が黙認される

 そうしたなかで、おそらく資産購入額を年明けから毎月300億ユーロのペースに減額することは、ジャンクロード・トリシェ前総裁を介したG30からの指示によるものだろう。ドラギ現総裁はじめECB執行部はそうしたG30からの指示に従わざるを得なかったものの、出来る限りハト派的な姿勢を装って巧みに演出することで、欧州の金融市場で信用不安が強まらないように、またユーロ高も進まないように配慮しようとしたのだろう。
 足元では米系財閥はカタルーニャ問題を扇動して深刻化させようとしており、状況によってはそれが市場に悪影響をもたらすと流動性危機が高まる恐れがある。さらには、いずれ株価が急落して新興国通貨不安が高まると、その新興国に巨額の融資をしている欧州の銀行勢も巨額の不良債権を抱えて苦しい状態に陥ることも予想される。
 そうした状況を踏まえて、おそらく米系財閥やその意向を受けて主要国・地域の中央銀行の金融政策を実質的に統轄・管理しているG30も、そうしたECB執行部の姿勢を黙認したのだろう。

 さしあたり、市場ではユーロ安が進む兆候が出ており、ドラギ総裁はじめ執行部の意向が奏功していく展開になりそうだ。とはいえ、米権力者層はドル高をもたらしたユーロ安修正を求めているため、あまりにユーロ安が進むことも想定しにくい。おそらく、ある程度ユーロ安が進むと米国側からそれを牽制するような姿勢や動きが出てくると思われ、それにECB執行部が抗うことはできないだろう。


 明日からの2日間は、22日の衆院総選挙での規模の党の失速による自民党圧勝やその本質について考察します。
 週末の3日には中国の共産党大会での幹部人事の決定について簡単に考えることにします。
 よろしくお願いします。
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プロフィール

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永山卓矢と申します。
有限会社ナリッジ・クリエイション代表です。
現在、マクロ経済の分野でアナリスト業務を中心に活動しています。
フリーの立場で従来のマクロ経済や金融市場分析に限らず、その背後の政治的な権力闘争に至るまで調査活動を行っています。
これまで、月刊誌『商品・証券・金融先物市場』とその後継の『フューチャーズ・マーケット』や投資日報社などの大部分のインタビュー記事の作成をはじめ、他の情報媒体の市況執筆に携わってきました。
また、『「実物経済」の復活』(副島隆彦著 光文社刊)』はじめ、著名評論家の著作本執筆の実質的な共著や補助などの業務に携わってきました。
どうぞ、よろしくお願いいたします。