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トランプ大統領の訪中の成果は対外金融規制の緩和

ポイント
・米中首脳会談ではいくつもの大型商談の契約が取り交わされたとされるが、そのほとんどは覚書に過ぎず、トランプ大統領の有権者向けのショーに中国側が協力したといえる。
・今回のトランプ訪中では表面的な友好ムードとは裏腹に、米国側は北朝鮮のミサイル発射の構えや中国の銀行の米金融システムからの排除をちらつかせて脅したことで、金融業務の対外開放の拡大措置が打ち出された。
・表面的には外資は中国の銀行を買収できるようになったが、実際には当局の認可が必要であり国際会計制度も導入されないので容易に買収できるものではなく、欧州系財閥の望み通りのものではない。



米中首脳会談の際の大型商談は茶番劇

 今回の主要なテーマである先週のドナルド・トランプ米大統領による中国の訪問については、中国側が周到に準備をして「国賓以上」の待遇で大統領を歓待し、うまく“篭絡”して難局を乗り切ったといった解釈が主流である。
 今回の訪中では、極めて大きな貿易赤字の縮小を求めるトランプ大統領に対し、中国側は米国の主要企業との間で全部で34件、総額2,535億ドル(約28兆7,700億円)もの商談を大統領が立ち会っているところで成立させ、さらに晩餐会では孫娘の映像を流して大統領を喜ばせようとした。
 トランプ大統領はいたって上機嫌になり、中国側の措置に歓迎の意向を示しただけでなく、米国の巨大な対中貿易赤字は「中国が悪いのではなく過去の米国の政権が悪い」とまで述べてしまった。この発言は米国では非常に評判が悪く、とんでもない失言であるとの論調が主流である。

 ただし、今回の9日の米中首脳会談に並行して行われた両大国間の大型商談については、日本経済新聞の記事では「契約を交わした」とされているが、そのほとんどは拘束力を有しない覚書(MOU)に過ぎず、少なくともその時点で契約が成立したわけではない。正式に契約を取り交わすにはさらなる詳細を詰めた交渉が必要であり、それには数年もの長期にわたる交渉を経る必要がある案件もある。さらには、中国側はその対象が国有企業であるだけに共産党政府の意向が優先されることになり、米中間の関係が悪化すれば合意が反故にされて正式に契約を結べなくなることもあり得るものだ。
 実際、中国側の国有企業の幹部の間では、この日に米国側との間で覚書を取り交わすことを事前に知らされておらず、急遽、政府からこの“茶番劇”に参加するように指示を受けた向きも少なからずいたという。
 いわば、この商談は米中間の“親善の印”に過ぎず、「米国第一(アメリカ・ファースト)」を掲げるトランプ大統領が本国に今回の訪中の成果を有権者に対して示す“ショー”であり、それに中国側が協力したといえるだろう。


水面下では米国は中国に圧力をかけていた

 だとすれば、今回のトランプ大統領の訪中は中国側が大統領を篭絡したというよりは、最初から大統領側と中国側が“阿吽の呼吸”で協力し合っていたことになるが、それでは北朝鮮問題や貿易問題その他でまったく対立がなかったのかといえば決してそうではない。
 今回の訪中が行われる以前には、首脳会談の開催に合わせて北朝鮮がハワイ付近の太平洋東側海域に大陸間弾道ミサイル(ICBM)を発射し、それに憤激して米国側が通商法301条を発動して中国を追い詰めるといった噂が流れていた。しかし、そうした噂が事前に広まり過ぎると実際にはそうしたことは起こらないものであり、北朝鮮は特に動くことはなかった。
 とはいえ、報道されていたように北朝鮮は事前にミサイルを発射する準備をしていたのは事実であり、それは中国側には相当なプレッシャーになっていたはずだ。実際、米国側は今回の訪中に先立って、水面下の交渉で北朝鮮の動きを利用して(よりはっきりいえば“演出”して)、通商法301条の適用や中国の銀行を米国の金融システムから遮断するといったことを持ち出し、中国側に圧力をかけていたという。
 そこで今回、米中間で合意されたのが中国国内の金融業務に対する外資規制の緩和であり、これを首脳会談の際ではなく、トランプ大統領が中国を離れた直後に発表したわけだ。ただ結論から先に言えば、この合意は「米国の勝利、中国の敗北」といった単純な図式で説明できるものではない。


中国の金融規制の緩和は欧州系財閥の望み通りではない

 中国は16年10月に人民元が国際通貨基金(IMF)の特別引き出し権(SDR)の構成通貨に採用されたことで事実上、資本取引の自由化に動く責務を負うことになったが、頑なにそれを果たそうとせず、その時期も明示してこなかった。
 米連邦準備理事会(FRB)がバランスシートの縮小や利上げに向けて動いているなかではつねに資本流出からバブル崩壊が進んでいき、人民元相場にも強力売り圧力がかかる恐れがある。そうした時に自由化に動けばバブル崩壊や人民元相場の崩落に拍車をかけるだけでなく、それにより国有銀行や代表的な国有企業が次々に買収されていく危険性が高まるからだ。
 特に欧州ロスチャイルド財閥は当初、習近平国家主席が提唱している「一帯一路」構想に相乗りしてインフラ関連の金融仲介業務を請け負っていき、ユーラシア大陸に巨大な経済圏を構築しようとした。しかし、中国が天文学的な債務を抱えている実態が明らかになってきたことでひとまずそれを諦め、米ロックフェラー財閥と提携して保護主義的な性格が強いトランプ政権の樹立に動いた。トランプ政権のその性格や、さらにはFRBのバランスシート縮小、利上げ路線を利用して中国を追い詰め、表向き厳しい貿易・通商交渉を展開しながら、水面下で資本取引の自由化や国際会計基準の導入を受け入れさせようとしてきた。それにより中国そのものを“乗っ取った”うえでユーラシア大陸の構築に向かおうとしているのであり、こうしたことはこれまで、当欄で何度も指摘してきたことだ。
 だとすれば、今回の中国による金融業務の対外規制の緩和は欧州系財閥の望み通りのものかといえばそうではなく、結論からいえばむしろその反対である。


表面的に自由化されても中国の銀行を簡単に買収できない

 そこで今回の金融業務の規制緩和の内容をやや具体的に見ていくと次のようなものだ。
 まずそこでは、規制緩和が銀行より証券や生命保険業務に重点が置かれている。現在では外資系金融機関が中国でこの分野で業務を展開するには中国企業との間で合弁会社を設立する必要があるが、その出資比率が過半を握れないことになっている。それをすぐに51%と過半を握れるようにして、証券は20年に、生保も22年に全額出資が認められるようになる。
 また肝心の銀行については既に全額での出資が認められているが、中国資本の銀行への出資規制も現在では25%までに制限されているものの、これを年内に撤廃することになった。それにより制度面では外資が単に出資して業務に関与していくだけでなく買収することも可能になる。
 とはいえ、実際には中国の金融当局の認可が必要であり、それが簡単に認められるはずがない。さらには、日本では90年代に時価会計に基づく国際会計制度が導入されたことがバブル崩壊に拍車をかけ、いくつかの大手金融機関が破綻して新生銀行のように一部は外資に破格の安値で買収されてしまったのが想起される。
 中国ではこれまで、国有や民間を問わず多くの企業が不正会計に手を染めており、海外でドル資金を調達して「偽装輸出」で中国に持ち込んで人民元に換え、売り上げに回すといった“インチキ会計”が慢性的に行われてきたので、国際的に透明性の高い会計制度が導入されれば、それこそ惨憺たる状況に陥るのは必定である。ところが、今回はそうした会計面での措置にはまったく踏み込んでいない。
 表面的に制度面で自由化されても、共産党支配による“人治の国”で当局の管理体制が根強い状態が続き、透明性の高い国際会計制度も導入されず、さらに米国側でもトランプ政権の“イエスマン”であるジェローム・パウエル理事がまもなくFRB議長に就任してハト派的な政策を推進していけば、欧州系財閥が容易に中国の銀行を買収していけるはずがない。


 明日の週末も今回の続きとして、外資に対する中国の金融業務の規制緩和に特に焦点を当てながら、トランプ訪中の意義について考察します。
 それにより、米系財閥による対中国政策の本質が見えてくるかと思われます。
 よろしくお願いします。
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プロフィール

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永山卓矢と申します。
有限会社ナリッジ・クリエイション代表です。
現在、マクロ経済の分野でアナリスト業務を中心に活動しています。
フリーの立場で従来のマクロ経済や金融市場分析に限らず、その背後の政治的な権力闘争に至るまで調査活動を行っています。
これまで、月刊誌『商品・証券・金融先物市場』とその後継の『フューチャーズ・マーケット』や投資日報社などの大部分のインタビュー記事の作成をはじめ、他の情報媒体の市況執筆に携わってきました。
また、『「実物経済」の復活』(副島隆彦著 光文社刊)』はじめ、著名評論家の著作本執筆の実質的な共著や補助などの業務に携わってきました。
どうぞ、よろしくお願いいたします。