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米税制改革~主要企業と富裕層だけを優遇してもそれ自体の効果は期待薄

ポイント
・今回の米国での税制改革は主要企業を中心とする大企業と富裕層に大きな恩恵が行き渡るものであり、主要企業が海外に貯め込んだ資金を米国内に配慮させて設備投資を増加させることが意図されている。
・ただし、いかに富裕層に重点的に減税の恩恵を与えても、もとよりこうした所得階層は消費性向が低いためにそれほど消費活動が活発になることはなく、財政赤字の増加分の多くが富裕層の貯蓄に回りそうだ。
・いかに主要企業に海外資金を還流させて設備投資を増加させるインセンティブを与えても、需要がないところに投資意欲が沸くことはなく、投資活動が活発になることは期待薄。



法人税の大幅な引き下げと海外留保資金の還流に配慮

 そこでまず、今回正式に決まった米国の税制改革について概観すると以下のようなものだ。
 この減税政策ではその規模が10年間で1.5兆ドルとされており、00年代のジョージ・W・ブッシュ政権を上回り、80年代のロナルド・レーガン政権のそれに匹敵するものだ。具体的には、企業部門については連邦法人税率を35%から21%に引き下げることで、10年間でその規模が6,500億ドルに達する。
 それ以外にも固定資産を取得する際に即時償却することを可能にすることで、設備投資を誘発する動機を与えている。また多国籍企業のグループでの取引に一部課税することや、企業の海外留保資金に一度限り課税することにする一方で、海外子会社からの配当課税が廃止された。
 それにより多国籍企業がこれまで海外に貯め込んだ2兆5,000億ドルともいわれる資金を米国内に還流させるのを後押ししようとしており、一部では年800億ドルものペースでそれが促進されるとの試算も出ているようだ。しかも、今回の改正では借入金の利息の損金算入の制限が強化されることになり、米国内での買収や投資その他を目的に資金調達する際には借り入れではなく、できる限り海外資金を還流させることで賄うように配慮されている。


明らかに富裕層を優遇した個人税制の改革

 一方、個人税制については所得税の最高税率が現行の39.6%から37%に引き下げられることになり、また税負担を一律で軽減する概算控除も倍増されることになったが、これは明らかに納税額が多い富裕層を優遇したものだ。これに対し、一般庶民向けとして子育て世帯への優遇が盛り込まれたが、その一方で配偶者や扶養家族への控除も縮小されて実質的に増税となることで、中間層以下の人たちにはそれほど恩恵が及ぶものではない。
 実際、18年の減税額は上位2割の所得層では減税額が平均して7,640ドルに達するのに対し、納税額が少ない下位2割の所得層ではわずかに60ドル程度でしかないという。今回の税制改革法案の議会での採決にあたり、上下両院ともに民主党の議員が「金持ち優遇」と批判して全員反対したのもうなずけるというものだ。


富裕層に減税をしても経済活動の活発化は期待薄

 今回の税制改革を決めるにあたり、そうした民主党からの批判に対し、政府や共和党執行部は恩恵を受けた企業が賃金を引き上げたり、減税の恩恵を受けた人たちが多くの消費をすることで経済活動が活発になり、それにより多くの人たちも恩恵を享受できるといった“トリクルダウン”の論法を唱えている。
 しかし、こうした富裕層はそもそも消費性向が低く、あまり減税してもそれほど消費押し上げ効果はない。所得が低い世帯であればあるほど、消費に占める食料品や生活必需品の比率が高くエンゲル係数が高い世帯ほど、可処分所得の増加による消費押し上げ効果も大きなものになる。日本で所得の逆進性が高い消費税を引き上げたら、多くのエコノミストが想定していた以上に消費活動が委縮してしまい、景気が打撃を受けたことにそれが端的に表れている。
 本当に消費活動を活発にさせるのなら、(それが好ましい政策かどうかはともかくとして)所得や資産の低い世帯ほど返済不要の多くの資金を無償で提供することだ(バラマキ政策)。80年代前半にレーガン政権が成立させた減税政策では、消費活動が盛り上がって財政赤字とともに貿易赤字も急増して「双子の赤字」が積み上がったが、この時の政策では低所得者層にもそれなりに恩恵が行き渡るように配慮されていただけでなく、現在に比べると所得の二極分化があまり進んでいなかったことを考慮する必要がある。


財政赤字増加分が富裕層の貯蓄に回る?

 また今回の法人税の大幅な引き下げを受けていくつかの主要企業が賃上げを表明しているが、実際には日本で安倍晋三政権が呼びかけているにもかかわらず、大企業がなかなかそれに応じていない状況を見れば、米国でもそうした動きが一般化するとは思えない。
 米国の主要企業の経営者は日本の大企業に比べてそれほど保守的で防衛的ではなく、また制度的に国内で内部留保を貯め込むインセンティブが薄い環境にあるが、それでも株主の権利が強い土壌において、その多くは配当や自社株買いに回るのではないか。すなわち、それにより多くの株式を保有している富裕層がそうした面でも一段と富裕化するということだ。
 結局のところ、今回の税制改革では財政赤字が膨れ上がる部分の多くが富裕層の貯蓄に回る可能性が大きいと言えるだろう。


家計の消費活動が盛り上がらないと設備投資も伸びない

 家計の消費活動がそれほど盛り上がらないとすれば、企業の設備投資もそれほど伸びないだろう。いかに固定資産を取得すればすぐに償却できるとしても、また海外資金を米国内に還流させるインセンティブを与えても、需要がそれほど出てこないなかでは企業側も投資をしようというインセンティブが沸かないからだ。
 単に資金を供給するメドを与えても需要が見込めないところに投資が出てこないのは、日本で日銀が超強力な量的緩和策を続けているにもかかわらず、銀行の貸し出しが伸びず、設備投資もそれほど活発にならないことにそれが見て取れる。日本では国内総生産(GDP)に占める個人消費の比率が5~6割程度だが、米国ではそれが7割近くもあるので、よけいに多国籍企業を中心とする法人や富裕層ばかり優遇する政策を推進してもそれほど大きな効果は見込めないはずだ。
 すなわち、今回のドナルド・トランプ政権による大規模な税制改革は、その政策だけでとどまるならそれほど経済成長を押し上げることにはならず、また設備投資が伸びないことで米国経済の生産性≒潜在成長率もあまり伸びないということだ。


 明日、明後日もこの続きを掲載します。
 今回の米税制改革はそれだけなら投資誘発効果をそれほどもたらさないため、大規模な軍需を創出する必要があることについて述べていきます。
 よろしくお願いします。
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コメント

No title

>80年代前半にレーガン政権が成立させた減税政策では、消費活動が盛り上がって財政赤字とともに貿易赤字も急増して「双子の赤字」が積み上がったが、この時の政策では低所得者層にもそれなりに恩恵が行き渡るように配慮されていた

レーガン政権時代の正規雇用解雇(人員削減を進め、または退職金や福利厚生の無い非正規へ)、社会保障(年金、医療の負担増)、労働組合潰し、法人税率の大幅な引き下げ、トリクルダウン富裕層優遇政策は、中間層と低所得者に大打撃を与え、中間層メルトダウンの引き金となりました。

アメリカの不動産、医療費の異常な高騰、ガス料金や物価上昇で更に労働者の生活は苦しくなっていきました。逆に、更なる経営層と富裕層優遇税制により、資産家のみ笑いが止まらない状況。

以下ブルームバーグ記事抜粋
『最高経営責任者(CEO)と一般労働者の賃金格差は、1950年比で10倍拡大している。「Fortune500」に選出されている大企業のCEOは、2013年は平均で一般労働者の204倍の報酬を得ているが、この比率は2000年は120倍、1980年では42倍、1950年では20倍だった。』

経済政策研究所(EPI )の報告書によると、賃金と生産性とのギャップを詳細に分析した研究者の発見は幾つかの重要なポイントを提供した。(1)1973年以来、米国大半の労働者の賃金は経済全体の生産性に沿って上昇していない。事実上、ほぼ全面的に上昇は停止し、賃金の上昇は生産性増加のスピードに追いついていない。(2)第二次世界大戦後から数十年間、大半の米国労働者のインフレ調整後の時給報酬は生産性の上昇にそって増加した為、生活水準を大幅に上げることが可能であった。1948年から1972年までの純生産性は96.7%、時給報酬は91.3%でギャップがないことを示唆している。しかし、(3)1973年から2014年の期間の純生産性は72.2%で、労働者のインフレ調整後の時給報酬は8.7%増加しただけである。つまり、この期間の生産性と報酬の上昇率に多大な不釣り合いがあり、賃金および給与所得は最上部に蓄積し、労働者の賃金は不平等に分配されている構造が長年続いている。(4)2000年以来、生産性及び大半の米国労働者の賃金とのギャップは急速に拡大している経済的な証拠があるが、これは典型的な労働者個人の生産性の停滞とは何の関係もない。

この研究は、近年労働者の教育水準および技術の向上があるにも関わらず、生産性の伸び率に反して、労働者賃金報酬の上昇は 40年以上停滞していることを報告している。

書き込み、ありがとうございます

書き込み、ありがとうございます。
ご指摘の私の書き込みですが、その部分についてはやや事実と異なることを述べてしまいました。
確かにレーガン政権の政策で富裕層が優遇され、格差の拡大の端緒になったのはその通りです。
ここでは、今回のトランプ政権の減税政策が、富裕層をさらに優遇しても、もとよりこの階層は消費性向が低いためにそれほど経済活動を押し上げることにはならないことを述べようとする一環で書いたものです。
レーガン政権の政策との比較では、当時は現在に比べて格差が拡大しておらず、中間層が健在だったことから減税の効果が非常に大きかったことを指摘しようと思いました。
ご指摘の件は、確かに不適切な表現であり、書かなければ良かったと思っています。

なお、生産性の上昇に沿って賃金が上がらなくなった最大の要因は、製造業が空洞化したからです。
サイモン・クズネッツが指摘したクズネッツ曲線は、製造業が健在である状況でのみ妥当な議論であると考えています。
資本主義が勃興して発展していく過程では製造業が発展していくので生産性が上がり続けるとともに、労働者全体の賃金も増え続けていきます。
それがピークを迎えると、製造業に代わり金融業にシフトできる強国は経済発展の道を続けることができますが、賃金は生産性ほどには伸びなくなります。かつての英国も同様でした。
70年代前半にオイルショックを迎えるまではコンドラチェフ・サイクルの上昇局面にあったため、製造業が健在だったことで賃金が伸びていました。
80年代以降、コンドラチェフ・サイクルが下降局面に転じるとともに製造業がこれ以上、発展できなくなると、米国は自由化することで投資銀行業を発展させてきましたが、そうすればドルの基軸通貨としての信用に基づいて米国経済はさらに成長できますが、恩恵を受けるのは一部の人たちだけになります。格差が拡大していきました。
レーガン政権の政策はさらに格差を拡大させる弊害をもたらしましたが、その根底部分には上記の構造的要因があったわけです。
むしろ、製造業に代わる経済成長の牽引役を投資銀行業にシフトさせることで、米国経済の成長軌道を継続させることに貢献したことは事実です。
ただ、中間層が没落して家計の購買力が落ちれば総需要の低下から収益期待が低下するため、設備投資も減退して金融業以外の分野では一段と生産性の低下を招きます。
レーガン政権は格差が拡大し始めたなかで、軍需を創出することで米国経済全体の需要の落ち込みをカバーしましたが、「双子の赤字」の拡大で続けられなくなると、90年代には東西冷戦を終わらせてグローバル生産体制の構築に向かう一方で、資産バブルを膨らませて資産効果で家計に所得以上の消費をさせてきました。
それが中国での人件費の高騰とリーマン・ショックによる資産効果の剥落で続けられなくなったことで、現在のトランプ政権は再び軍需の創出に向かおうとしています。
おそらく、それにより米国並びに世界経済は成長軌道を取り戻してデフレもある程度脱却していくことは可能と見ています。
ただし、歴史的な時間軸で見れば、それにより米国の世界覇権はさらに後退し、多極化が進むでしょう。
これはリーマン・ショックの際にコンドラチェフ・サイクルが底入れして上昇局面に転じた一方で、その上位サイクルであるヘゲモニー・サイクルが天井を打って下降局面に転じたので不可欠な潮流といえます。
「新冷戦」によるコンドラチェフ・サイクルの上昇局面が天井を打って下降局面に転じると、ヘゲモニー・サイクルの下降局面と重なるため、大空位時代(インターレグナム)を迎えて世界経済は1930年代以来の大恐慌に陥ると予想しています。まだかなり先の話ですが。

No title

http://www.newsweekjapan.jp/ooba/2015/11/post-7.php

アメリカが「政策」によって、製造業のグローバル化をさせながら金融業にシフトさせたのであれば、製造業の空洞化によるアメリカ人の労働賃金停滞は分かっていたということですね。
40年間も!アメリカ人の労働賃金は上がらず、正規雇用が減り、低賃金の仕事が増え、中間層や低所得者の生活を苦しくしてきた。
本来ならば、莫大な賃上げと差別化で富を独占している企業CEOたちやタックスヘイブン脱税をしている資産家や投資家への税金対策が必要だったはずです。

レーガン時代以降の富裕優遇税政策による弊害は明らかなので、
アメリカはルーズベルト時代のように富裕層への大増税を進めるべきだったのですが、政治家を収賄している富裕層は、ルールを富裕層に有利に変えてまでも、自分さえ良ければ、自分だけが富と権力を独占したい利己心の塊だったのですね。

現状は逆で、まるでミドルイーブル時代の王政や貴族政を復活させるための資産家優遇政策ですから。

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永山卓矢と申します。
有限会社ナリッジ・クリエイション代表です。
現在、マクロ経済の分野でアナリスト業務を中心に活動しています。
フリーの立場で従来のマクロ経済や金融市場分析に限らず、その背後の政治的な権力闘争に至るまで調査活動を行っています。
これまで、月刊誌『商品・証券・金融先物市場』とその後継の『フューチャーズ・マーケット』や投資日報社などの大部分のインタビュー記事の作成をはじめ、他の情報媒体の市況執筆に携わってきました。
また、『「実物経済」の復活』(副島隆彦著 光文社刊)』はじめ、著名評論家の著作本執筆の実質的な共著や補助などの業務に携わってきました。
どうぞ、よろしくお願いいたします。