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米輸入制限の動き~重層的なFTA構築に向けて頼りになるのは日本?

ポイント
・米国は関税を引き上げておいて、同盟国や有志国と二国間で交渉してそれを引き下げる協定を結んでいき、それを重層的に拡大させていくことで、WTO体制を瓦解させて新たな国際通商体制を構築させようとしている。
・米国は属国群を独立させていくにあたり、対米従属姿勢がしみ込んでいる日本の姿勢を変えさせるのが最も厄介だが、二国間で協定を結ぶにあたり、最も頼りになるのは忠実な属国である日本なのだろう。
・ただし、日米経済対話は日本の官僚勢力が保護主義的なトランプ大統領だけでなく安倍首相も排除するために打ち出したものであるだけに、日米二国間協議を行うにあたりこの枠組みが主流を占める可能性は低い。



敵国を排除して同盟国と二国間で協定締結へ

 米ドナルド・トランプ大統領は8日に輸入制限に署名し、北米自由貿易協定(NAFTA)絡みでのカナダとメキシコを除くすべての国・地域に対してそれを適用することを正式に表明した。米国としては今回、輸入関税を引き上げておいて、国際的な交渉ではなく二国間で交渉することでその関税を元に戻すなり、応分の引き下げに応じれば良いわけだ。それにより、世界貿易機関(WTO)体制を瓦解させて新たな国際通商体制を創設する流れが構築されてくる。
 かつて、第二次世界大戦後の国際体制の枠組みを決めていくにあたり、たとえば通貨制度の枠組みを定めた1944年のブレトンウッズ会議ではソ連代表団も出席していたものだ。ところが、国際通商体制をはじめとするその後の交渉ではソ連や東欧諸国、さらには中国に至るまで、ジョン・フォスター・ダレス国務長官(当時)が主導権を握っていた米国はそれらの参加を認めなかったものだ。当初は米国が同盟国や有志国と個別に交渉したうえで、それを重層的に拡大させることで発展していったのが後の「関税と貿易に関する一般協定(GATT)」体制である。
 おそらく、米トランプ政権が通商協定では二国間での自由貿易協定(FTA)を重視する姿勢を見せているのは、それを念頭に入れているためであると考えられる。


最後に頼りになるのは対米追随がしみ込んだ日本?

 おそらく、そうした二国間でFTAを結んでいくにあたり、最も頼りになるのがその忠実な「属国」である日本なのだろう。
 米国は「新冷戦」体制に向かうとはいえ、かつての旧冷戦時代とは異なりその世界覇権が後退しつつある状況であるため、世界的に駐留している米軍を撤退させて属国群を独立させていき、国防体制を強化させながら、そうした属国群と改めて提携関係を強化したうえで中国を中心とする敵側陣営に対峙していこうとしている。そこでは戦後、米国によって育てられてきただけに、日本では官僚やマスコミ勢力、財界首脳といった支配勢力の間では“骨の髄まで”対米追随姿勢がしみ込んでいるのが、米国としては誠に厄介なところだ。
 とはいえ、それでも二国間での通商関係の締結といった難しい問題に対処するにあたり、やはり最後に頼りになるのは日本なのではないか。だとすれば、その厄介なところがかえって幸いすることになるのは、なんとも皮肉としか言いようがない。


日米経済対話が本格的に始動しないワケ

 そうした意味では、日本側では麻生太郎副首相兼財務相が、米国側ではマイク・ペンス副大統領をトップとする日米経済対話の行方がカギになるのかと言えば、筆者はその可能性はそれほど大きくないと見ている。
 そもそも、この日米間の交渉は日本の官僚勢力がトランプ大統領の保護主義的な姿勢を排除するために、日米両国の2番目の地位にある人物を中心とする交渉に持ち込んだといった見方が一般的である。しかし、そうした官僚勢力の狙いはトランプ大統領だけでなく、反官僚的で本質的には右翼的でアジア共同体の構築に向かう傾向が強い安倍晋三首相をも排して、財務官僚の影響を受けている麻生副首相を担ぎ上げることにある。
 安倍首相がトランプ大統領はじめ米国側と図り、この日米間の交渉をなかなか開始させない理由がそこにある。足元では少なくとも外交・安全保障面で喫緊の課題である北朝鮮問題が落ち着くまでは、なかなかこの交渉が本格的に始動しそうもない状況だ。
 安倍首相が米国側とともに北朝鮮に対して強硬一辺倒の姿勢を見せているのは、将来的には日本の国防体制を強化して憲法を改正し、核武装化に進むためだが、足元の問題では官僚勢力の反抗を抑え込む目的があることが指摘できるだろう。それにより日米経済対話が本格的に始まることを阻止したり、国会その他で森友・加計問題で追及されて世論の批判が強まることも避けられるからだ。


 今週はこれで終わりになります。御拝読いただき、ありがとうございました。
 来週もこれまで通り、週明けの12日(月)から掲載していくので、よろしくお願いします。
 中国での全人代の開幕やECB理事会、米雇用統計の発表といった予定されていたイベントだけでなく、北朝鮮情勢を巡り一段と融和ムードが強まり、朝鮮半島の非核化や米朝首脳会談の開催など、情勢の変化が目まぐるしい状況です。
 さらに米政府による輸入制限も正式に発動されるなど、大きな動きが続いています。
 来週も、機会があれば可能な限り採り上げていきたいと思っているので、よろしくお願いします。
 なにかありましたら書き込んでいただければと思います。
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プロフィール

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永山卓矢と申します。
有限会社ナリッジ・クリエイション代表です。
現在、マクロ経済の分野でアナリスト業務を中心に活動しています。
フリーの立場で従来のマクロ経済や金融市場分析に限らず、その背後の政治的な権力闘争に至るまで調査活動を行っています。
これまで、月刊誌『商品・証券・金融先物市場』とその後継の『フューチャーズ・マーケット』や投資日報社などの大部分のインタビュー記事の作成をはじめ、他の情報媒体の市況執筆に携わってきました。
また、『「実物経済」の復活』(副島隆彦著 光文社刊)』はじめ、著名評論家の著作本執筆の実質的な共著や補助などの業務に携わってきました。
どうぞ、よろしくお願いいたします。