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中国の足元を見て通商面で強硬措置に出た米権力者層

ポイント
・米国が鉄鋼やアルミの輸入に関税を課したのに続き、知的財産権の侵害で中国に対して600億ドルもの高関税を課す措置を表明したのに対し、中国では李克強首相の穏健的な動きを除き、それに激しく反発する動きが出ている。
・中国が米国債を売れば米国や世界経済が大きな打撃を受けると危惧する向きがいるが、中国経済は経済成長の主力を固定資産投資や米国向け輸出に負っているため、その可能性は皆無である。
・またもう一つの要因として、中国経済は過度な債務依存体質であるため、本当に米国債を売却して米金融市場が動揺すると米国以上に大きな打撃を受けることも指摘できる。米権力者層はそうした中国の足元の事情を見据えて強硬措置を打ち出していると言える。



米国の強硬措置に対決姿勢を見せる中国

 次に先週後半以降、市場で激烈な影響をもたらしている米国の中国を対象とする通商政策について考察する。これらのことはこれまで当欄で述べてきたことなので、今回は要点を絞って述べていくことにする。

 米国政府は中国からの迂回輸出をも封じるために、現在通商交渉を行っているカナダやメキシコ、欧州連合(EU)、韓国を除いて、同盟国をも含む世界中の国に対して鉄鋼で25%、アルミニウムで10%の追加関税を課す措置を講じた。さらに先週22日には、知的財産権の侵害を理由に600億ドル相当の高関税を課すことが正式に表明された。そして23日には知財侵害で中国を世界貿易機関(WTO)に提訴することも発表された。
 これに対して中国側は当初、激しく反発し、鉄鋼やアルミの高関税に対抗して米国から輸入するワインやドライフルーツ、豚肉などを対象に最高25%の関税をかける対抗措置を打ち出した。さらに今回の知財侵害を目的とする高関税措置への対抗から、米国からの輸入量が多い大豆をはじめ一段と幅広く高関税をかける意向を示している。さらにそれだけでなく、米国債の購入を減額することもにおわせて米国側を牽制している。
 その一方で、李克強首相はそうした強硬路線とは一線を画して米国と交渉を進め、ある程度の関税の引き下げには応じる姿勢を示している。


今でも米国向け輸出にかなり依存している中国の経済構造

 以上の経緯からいくつか指摘することがある。
 まず今回の米中間での報復合戦になれば世界経済が大きな打撃を受けると恐れられており、実際に先週末2日間で株価が暴落したが、そもそも中国側にはそうしたことができるはずがなく、その可能性はほとんどないことだ。確かに米中間で報復合戦になれば米国経済も生産コストの上昇によるインフレ圧力の高まりから打撃を受けるが、中国経済はそれこそ壊滅的な打撃を受けざるを得ない状態にあるからだ。
 中国では都市部の家計の購買力がかなり高まってきたが、都市戸籍を持たない地方の農民や都市部に出稼ぎに来ている「農民工」たちとの間で絶望的なまでに所得格差が拡大しているため、マクロ経済的には個人消費が経済成長を牽引する状態になっていない。中国経済を牽引しているのはあくまでも第一に固定資産投資、第二に米国向け輸出なのであり、そうした状態は以前から変わっていない。そこに米国向け輸出が激減すれば経済成長が失速してしまい、デフレ圧力が強まることでバブル崩壊が促進していかざるを得ない。以前、日本に旅行に来る中国人の観光客が「爆買い」をしているのを見て、中国の購買力が世界を席巻するなどと“馬鹿げた”ことを指摘する識者がいたが、そうした“間抜け”な人たちは中国経済の初歩的なマクロ経済分析ができていなかったと言わざるを得ない。
 中国は中華思想的な大国意識から“面子”を重視するために表面的には対抗措置を打ち出す姿勢を示しながらも、一方で李克強首相が米政府との対話を模索しているのはそのためだ。本音では米国と貿易戦争をしたくないのである。


中国が既保有分の米国債を売る可能性は皆無

 また、今回の対抗措置として中国側が米国債の購入減額をちらつかせているなかで、巷間ではもし既保有分の米国債を売ってきたら米金融市場では極めて大きな動揺と混乱が引き起こされると危惧している向きが一部で見受けられる。しかし結論から先にいえば、その可能性も皆無である。

 これまで当欄で指摘してきたことだが、中国では本当の意味で市場経済システムが機能していない。共産党幹部で占められている国有企業のみならず多くの民間企業の経営者に至るまで、民主主義体制を運営していくのに不可欠な「自己責任」という観念がないことから、「採算」「収益」といった概念が極めて希薄である。このため消費者に受け入れられる製品の製造を目的に創造性を駆使して新産業を興したり技術革新に励んだり、さらにはかつて「資源爆食」などといわれたようにコスト削減への意欲も高まりにくい。
 そのため、高度成長期の頃から多くの国有企業は本当は赤字体質だったようであり、海外でドル資金を調達して人民元に換えて売り上げに回す粉飾をすることで黒字決算を取り繕っているところが多かったようだ。この結果、中国経済は人類史上、未曾有の超巨大バブルを抱えた莫大な債務依存体質の経済構造になっている。米国も巨大な債務依存体質だが、中国は基軸通貨国でないばかりか、人民元が国際通貨としての信用をまだそれほど確立していない段階で既にそうした状態にあるわけだ。
 人民銀行が必死に元買い介入を続けたり、当局が資本流出規制を継続しているのは、元安が進むと実質的な対外債務が一段と膨張してしまうからだ。

 いうまでもなく、そうした状態で米国で金融危機が起これば、米国への資本還流が進むことで中国経済は劇的にバブル崩壊が進行してしまい、米国経済以上に甚大な打撃を受けてしまう。こうした状況では、中国の当局は米国に対抗措置を打ち出すにあたり、せいぜい米国債の購入を減らす程度であり、売却までできるはずがないのである。
 いわば、ドナルド・トランプ大統領自身がそこまで認識しているとは思えないが、その背後の米権力者層はそうした中国の足元の事情を見据えて強硬措置を打ち出していると言える。


 明日以降も31日土曜日にかけて、米中間の通商問題の続きを掲載します。
 よろしくお願いします。
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プロフィール

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永山卓矢と申します。
有限会社ナリッジ・クリエイション代表です。
現在、マクロ経済の分野でアナリスト業務を中心に活動しています。
フリーの立場で従来のマクロ経済や金融市場分析に限らず、その背後の政治的な権力闘争に至るまで調査活動を行っています。
これまで、月刊誌『商品・証券・金融先物市場』とその後継の『フューチャーズ・マーケット』や投資日報社などの大部分のインタビュー記事の作成をはじめ、他の情報媒体の市況執筆に携わってきました。
また、『「実物経済」の復活』(副島隆彦著 光文社刊)』はじめ、著名評論家の著作本執筆の実質的な共著や補助などの業務に携わってきました。
どうぞ、よろしくお願いいたします。