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WTO体制を無視する米国の通商戦略

ポイント
・米国が知財問題で中国からの輸入に高関税を課す動きに出ているなかで、中国側は米国の孤立化を図って米国の動きはWTO違反であることを浮き彫りにしようとしているが、そもそも米国はWTO体制を崩壊させて中国を排除した新国際通商体制の構築を望んでいる。
・米国が通商法232条や301条の適用を振りかざして一方的に圧力をかける交渉手段は、日本が70年代初頭の日米繊維協定や80年代に自動車の輸出自主規制の受け入れを強いられたように、ナチズム系の常套手段である。
・安倍政権が財務省理財局の公文書改ざん問題で追い詰められているのは、米国の意向を無視して北朝鮮との間で首脳会談を行う動きを見せたことで怒りを買った面もあるが、日米FTA交渉になかなか取りかかろうとしないこともあるようだ。



 米国が中国に知的財産権の侵害問題で大規模関税を課す動きを見せていることについて、次に指摘すべきことは世界貿易機関(WTO)体制との関係だ。
 中国側は米国の鉄鋼やアルミニウムに関税を課した対抗措置を打ち出すにあたり、商務省がしきりに「WTO協定に基づいて」と強調している。WTO協定では関税の上乗せは緊急輸入制限(セーフガード)への対抗措置として認められているものであり、セーフガードで自国が受ける損害額と同じ水準まで関税を引き上げることができることを適用したものだ。
 こうした中国側の動きに対し、米国側もそうした批判を受けるのを封じるために、知財問題で中国からの輸入に関税をかける措置を打ち出すと、その翌日にはこの問題で同国をWTOに提訴した。


米国は非市場経済国の中国を排除して新国際通商体制の構築を望んでいる

 もっとも、知財問題では米国だけでなく日本や欧州も被害に遭っているだけに、中国側は日欧が米国と共闘路線を採り、中国封じ込めで足並みがそろうのを防ぐため、今回の米国による措置はWTO違反であり、米国の“独りよがり”による政策だと位置づけることで孤立化させようとしているフシがある。
 しかし、これまで当欄で何回も指摘してきたように、そもそも米国はこれから中国を相手に「新冷戦」体制に持ち込むにあたり、従来のグローバル生産体制の運営に適合するように制度化されたWTO体制を崩壊させようとしている。そのうえで、中国のような資本主義経済体制とは相いれない国やその衛星国を排除したうえで、新国際通商体制を構築しようとしている。
 かつて、第二次世界大戦後に国際通商体制を構築するにあたり、米国は冷戦の敵国であるソ連やその衛星群である東欧諸国、中国や他のアジアの社会主義国家群を排除した。その理由は、自由で市場を基盤とする国際間の経済取引協定を締結するにあたり、国家主導の経済主体が民間企業との競争を前提にするのは不公平であるというものだった。
 米国は今回、中国に対して一方的に制裁措置を課すにあたり、例えばロバート・ライトハイザー米通商代表部(USTR)代表は「WTOは市場経済国ではない中国を扱うには力不足」と述べた通りだ。
 中国商務省幹部は「今回の措置が導入されたのは、米国がWTO協定で定められたルールに対して無知であることを示している」と批判しているが、甚だ認識不足であるとしか言いようのないものだ。


一方的な脅しによる強硬措置はナチズム系の常套手段

 戦後の「関税と貿易に関する一般協定(GATT=ガット)」体制が締結されるにあたり、米国は同盟国や有志国と二国間で交渉し、それを重層的に拡大していくことで国際協定に格上げさせていった。
 今回も同様の措置を講じようとしているようだが、日本も含めてほとんどの同盟国、有志国がいまだにWTO体制を尊重している。相手が超大国である米国との二国間交渉では、自分たちの立場が弱くなって不利な内容の協定を押し付けられるとの警戒感からなかなか交渉に着手しようとしたり、始まっても進展しない。鉄鋼やアルミに関税を課すことにしたのは中国からの迂回輸出を防ぐだけでなく、これらの国々に対してもそれを“脅し”による取引材料にすることで二国間交渉を進めようとしているからだ。韓国に対しては米韓自由貿易協定(FTA)の改訂を目指すにあたり、在韓米軍の撤退までちらつかせて韓国側を脅していたものだ(もっとも、米国側はそのうち撤退させるつもりでいるので、そうした主張は“渡りに船”とでも言い得るものだったが)。
 そうした通商法232条や301条を振りかざすなどして相手側に一方的に圧力をかけて譲歩を引き出し、有利な形で通商協定を結ぼうとするのは、70年代初頭の沖縄返還を絡めた日米繊維協定の締結や、80年代の自動車の輸出自主規制により日本が味わったように、ナチズム的なキッシンジャー元国務長官の系列が採り得る“常套手段”とでもいうべきものだ。


安倍政権が今、陥れられている背後事情

 そうした意味では、やはり最大の焦点は日本とFTAを結ぶことであり、米国側が最も望んでいることである。
 ところが、安倍晋三政権側や経産官僚は日米経済対話で話し合うことを約束しておきながら、自民党の支持基盤に直結する農産物の市場開放や、政権を支えている財界の中核である自動車業界に直結する自動車の輸出抑制を強要されるのを恐れて、なかなかその呼びかけに応じようとしない。
 足元で安倍政権が財務省理財局の公文書改ざん問題で追い詰められているのは、将来的に米軍が韓国や沖縄から撤退していこうとしているなかで、米国は北朝鮮と一転して和解していくものの日本はこれまで米国が果たしてきた役割を受け継いでいくうえで、これまで通り中国や北朝鮮に対して強硬路線を続けるように要請(はっきり言えば“命令”)したにもかかわらず、孤立化を恐れて日本も北朝鮮との首脳会談の開催を模索したことにあったようだ。ただそれだけでなく、日本側がなかなかFTA交渉を開始しようとしないので、“業を煮やした”面もあったようだ。
 さらに今回の知財問題との関係でいえば、例えば中国は日本から新幹線の技術を盗んで「自分たちで開発した」などと“見苦しい”主張をしていたが、現在、JR東海主導で建設しているリニア建設に中国の産業スパイがかなり入り込んでいるので、米国側が工事の中断を求めていたという。


 今週は1日多く、明日もこの続きを掲載します。
 明日は今回の米国による知財問題での中国を制裁する動きの背景として、最も重要なことを考察します。
 よろしくお願いします。
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プロフィール

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永山卓矢と申します。
有限会社ナリッジ・クリエイション代表です。
現在、マクロ経済の分野でアナリスト業務を中心に活動しています。
フリーの立場で従来のマクロ経済や金融市場分析に限らず、その背後の政治的な権力闘争に至るまで調査活動を行っています。
これまで、月刊誌『商品・証券・金融先物市場』とその後継の『フューチャーズ・マーケット』や投資日報社などの大部分のインタビュー記事の作成をはじめ、他の情報媒体の市況執筆に携わってきました。
また、『「実物経済」の復活』(副島隆彦著 光文社刊)』はじめ、著名評論家の著作本執筆の実質的な共著や補助などの業務に携わってきました。
どうぞ、よろしくお願いいたします。