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電撃的な金正恩訪中と中朝首脳会談の開催の本当の意味

ポイント
・金正恩委員長が電撃的に訪中して習近平国家主席と電撃的に首脳会談を行ったことについては、少なくとも中国側はこれまでまったく主導権を握れていなかっただけに、歓迎すべきものとの見方でおおむね共通しているようだ。
・問題は北朝鮮側がこれまで中国を無視し続けてきたにもかかわらず、どうしてこの時期に一気に歩み寄ったのかということであり、最も多い見方は米朝首脳会談が決裂する可能性が十分にあるなかで、軍事攻撃されるのを見越して後ろ盾を確保しておくというものだ。
・しかし、トランプ政権で主導権を握っている勢力は中国に対する圧力を年明け以降、北朝鮮問題から通商問題に切り替えたなかで、最初から攻撃することは考えておらず、金委員長も親イスラエル勢力の傀儡であることから、そうした事はあり得ない。
・中国としては遼寧省では潜在的に重化学工業部門の国有企業にかなりの失業者を抱えているなかで、米軍の攻撃の可能性があると中国政府が国有企業改革に踏み切りにくくなるため、金委員長の訪中は攻撃はないことを示すメッセージを送るためと考えられる。



電撃的な訪中と中朝首脳会談の開催

 先週は懸案となっている米国の通商政策について、韓国との間で自由貿易協定(FTA)の修正で合意を見るとともに、李克強首相が中心になって中国とも水面下で交渉が始まっていることが報じられた(ただ、1日に中国が報復関税を決めたことで米中貿易戦争への懸念が高まり、株価が急落したが)。また英国でロシアの元情報工作員への暗殺未遂事件を巡り同国と欧米との間で対立が深まっているなかで、米ロ間で外交官の追放合戦が繰り広げられた。
 ただなんといっても最も大きな出来事は、北朝鮮問題で25~28日に金正恩(キム・ジョンウン)委員長が突如、訪中して中国の習近平国家主席と会談したことだった。またこの問題を巡っては、その直後に南北間で協議が行われ、首脳会談が今月27日に開催されることが決まったことも付記する必要がある。

 そこで今回はまず、先週前半に突如、行われた中朝首脳会談の意味合いについて考えてみる。金正恩委員長は11年12月にその地位に就いて以来、これまでいっさい外遊をしたことがなく、“宗主国”であるはずの中国との接触もほとんどしていなかっただけに、この電撃的な訪中と首脳会談の開催については驚きをもって受け止められた。
 この首脳会談は表向き、中国側が招待したことになっているが、本当は金委員長が開催に向けて働きかけていたといわれている。この宗主国は「中華思想」の“御本尊”であるだけに、属国視している国から要請されても、自ら招いたことにしないと収まりがつかないのだろう。


大方の見方通り中国としては歓迎できる電撃訪中

 中国としては以前、6カ国協議が開催されていた際には議長国として会議を司り、それなりに影響力を行使して運営していたが、昨年初頭に米国でドナルド・トランプ政権が発足し、北朝鮮に対して強硬姿勢を見せるようになって以来、まったく主導権を握ることができない状態が続いた。
 年明け以降、以前からのシナリオ通りにそれまでの緊迫した状態から一転して融和ムードが高まった際にも、米トランプ政権はそれまで国務省でこの問題を担当していたジョセフ・ユン北朝鮮担当特別代表を辞任させ、あえて韓国大使も選任しなかったなかで事実上、革新系で親北朝鮮的な性格が強い文在寅(ムン・ジェイン)政権の韓国をその仲介役にしてそれを演出させてきた。中国はこの間、まったくの“蚊帳の外”に置かれていただけに今回、北朝鮮側から首脳会談の開催を持ちかけてきたのは、影響力を回復するうえでまさに“渡りに船”だったといえる。
 どうしてトランプ政権が北朝鮮問題を扱うにあたり、国務省の影響力を排除したのかについては、米政権の性格やこの問題を考察するうえで重要な焦点になるが、中国についてはこの首脳会談の開催はまさに歓迎すべきことだったという見方についてはほとんど異論がないだろう。


米国の攻撃を恐れて中国に擦り寄ったとの見方が根強いが・・・・

 問題はどうして北朝鮮側がこれまで、ミサイル発射や核実験を強行していた際には中国の制止を聞かず、年明け以降、融和ムードが高まってからも韓国を介して米国と交渉する姿勢を示して中国を無視し続けたにもかかわらず、ここにきて急激に首脳会談を申し込む動きを見せたのかということだ。これについては識者によって様々な受け止め方や解釈が成されている。
 おそらく最も多い見方は、5月末に実施されると見込まれている米朝首脳会談が決裂すると米国による軍事攻撃が現実味を帯びるので、予防的に中国の“後ろ盾”を得られるように後方を固めておこうとしたものといったものだ。トランプ大統領が核兵器を即時放棄し、完全で検証可能で不可逆的な非核化を要求しているなかで、北朝鮮側がそれを呑めるはずがなく、会談が決裂することは十分にあり得ると考えられているからだ。
 またトランプ政権では、その直前にレックス・ティラーソン国務長官が解任されてマイク・ポンペオ前中央情報局(CIA)長官がその後任に就き、さらにハーバート・マクマスター大統領補佐官も更迭されてジョン・ボルトン元国連大使が後継となった。主要閣僚に2人も“凶暴”で好戦的な新保守主義(ネオコン)派がこの時期に急遽、起用されたことが、よけいにそうした観測を強めることになったといえるだろう。


トランプ政権で主導権を握っている勢力は最初から攻撃する気はなかった

 おそらく、こうした見方は物事の事象を表面的にしか見ていない向きには最も納得しやすいものなのだろうが、裏側から見ている向きとしてはまったく真実味がないものといわざるを得ない。
 これまで当欄で述べてきたように、おおむね世界単一政府系の「世界皇帝」デイヴィッド・ロックフェラーが握っていた軍需産業系の勢力とは異なり、そもそもトランプ政権で主導権を握っているナチズム系の最大の大物であるヘンリー・キッシンジャー元国務長官は最初から北朝鮮を攻撃しようとしていなかった。あくまでも攻撃をちらつかせることで中国を脅し、国有企業改革の推進と米系金融機関の中国市場への参入、及び単なる資本参加だけでなく完全な買収を容認するように強要する手段として利用しているに過ぎない。習近平主席が先の全国人民代表大会(全人代)で絶対的な権力の掌握を確かなものにし、各行政執行機関の人事も固まった段階で米国側は知的財産権の侵害問題を持ち出してきたように、その手段を北朝鮮問題から通商問題に切り替えたところだ。
 さらにいえば、金正恩委員長も米国の親イスラエル的な勢力の意向に沿って動いているだけに、会談の決裂から米軍の攻撃を恐れて中国に擦り寄ったというのは考えにくい。


米国が目指す独立国家群と連携した軍拡競争と中国市場の蚕食

 これまで当欄で指摘してきたように、キッシンジャー元国務長官を中心とする勢力は習近平主席に絶対的な権力を握らせたうえで、2035年や49年までに「社会主義現代化強国」を建設すると豪語しているように、国内的には統制を強化しながら積極的に対外膨張路線を推進させようとしている。これはまさに、鄧小平が内政面では最高権力者が絶対権力を握るのを阻止し、自由化、市場化、民営化路線を推し進めながら、外交面では無用な対立を避けるために「韜光養晦(とうこうようかい)」路線を推奨したが、それと正反対のものだ。
 それにより、表向きはその中国を米国の世界覇権に挑戦する「修正主義勢力」と位置付けて軍拡競争を繰り広げ、「新冷戦」体制を構築しようとしている。ただし、かつてのソ連を相手とした旧冷戦時代とは異なり、米国にはもはや米軍を世界的に駐留し維持していく能力がなくなりつつあるので、各地の米軍を徐々に撤退させて実質的に独立させて国防を強化させていき、それらの国々と連携して中国と対峙していこうとしている。
 その一方で、国有企業改革を推進させて国有銀行の不良債権を顕在化させ、その処理を目的に米系金融機関を進出させて買収も含めて参入させていくことで中国そのものを“蚕食”していき、「一帯一路」はじめ対外膨張路線に乗ってグローバル規模で利権を拡大していこうとしている。


首脳会談の開催を持ちかけた本当の意味

 そうした観点から推測すると、今回の金正恩委員長が訪中して首脳会談を開催した狙いが見えてくる。
 トランプ政権は習近平政権に国有企業改革を推進させるにあたり、昨年末までは北朝鮮カードを有効にちらつかせることで、水面下での交渉が有利に進むように圧力をかけてきた。米国が攻撃すれば北朝鮮から難民が中国領域内に流入してしまい、都市部の貧困層を刺激して大規模な暴動に発展する恐れがあり、それが首都北京にまで波及すると極めて厄介な状態になるからだ。
 ところが、全人代の開催を機に習主席が絶対的な権力を握り、執行部の人事も決まるのを機に、米国側は年明け以降、中国に対する圧力の手段を北朝鮮問題から通商問題に舵を切った。中朝国境に近い遼寧省には大規模な過剰生産設備(≒過剰債務)に苦しんでいる重化学工業部門の国有企業が集積しており、潜在的に大量の失業者を抱えているため、軍事攻撃をちらつかせ続けると中国政府としてはかえって改革に踏み切りにくくなるからだ。
 今回の金正恩委員長主導による中朝首脳会談の開催は、少なくともしばらくは米国は北朝鮮を攻撃しないので、安心して国有企業改革に取り組むように中国側にメッセージを送る意味合いがあったのではないか。いうまでもなく、そこでは知的財産権の侵害の問題を巡り、表向き李克強首相とスティーブン・ムニューシン財務長官の交渉が行われている(本当はその裏側で両大国のカギを握る人物同士の交渉が行われている)ことも関係しているはずだ。


安心感を与えるために電撃的な首脳会談の開催は得策

 そもそも、どうしてトランプ大統領が――正確に言えば、金融業や軍需・石油産業を押さえている世界単一政府系と対立しているナチズム系が、ネオコン派の閣僚をこの時期に一気に登用したのかというと、結論から先に言えば、これは北朝鮮や中国といった対アジア極東戦略ではなく、対中東戦略をにらんでのものだ。
 とはいえ、表面的にはトランプ大統領と金正恩委員長の会談がうまくいくとは予想できないなかで、トランプ政権の閣僚がこうした“戦争屋”の顔ぶれに変わってしまえば、本当に攻撃をにらんでのものと思ってしまうのは致し方ないものだ。米軍が攻撃することで北朝鮮から難民が流入するのを極度に恐れている中国はもとより、北朝鮮でも金正恩委員長はともかくとしても、それを支持している勢力はどうしても疑ってしまうだろう。そうした勢力に安心感を与えるには、ここで金委員長が電撃的に習近平主席と電撃的に会談を行うことが得策だといえる。


いかに米軍は強くても中国軍との衝突は避けるはず・・・・

 いわゆる中国と北朝鮮との間で締結された軍事同盟である「中朝友好協力相互援助条約」は1961年に締結されたものであり、20年ごとに更新されることになっている。01年に2回目の更新がされた際に、中国側は北朝鮮が攻撃されたら援軍を出すが、先制攻撃をして反撃をされた場合にはその義務を負わないとの解釈を示している。
 この規定は少なくとも21年に3回目の更新が行われるまでは有効なのであり、こうした規定が実際に存在する以上、中朝間で首脳会談が行われれば、少なくとも北朝鮮が暴発して先に手を出すことで、米軍の反撃を呼び込むといった愚かなことをするはずがないといった安心感を強めることが期待できるからだ。米国で実際に北朝鮮への攻撃を望んでいる軍需産業系としても、いかに装備面で米軍の方が圧倒的に優れているとはいえ、米中間で直接的に軍事衝突するような事態になることは避けようとするだろうといったことは、誰しもが思うことであるからだ。


 明日からの2日間はこの続きとして最近、米トランプ政権での主要閣僚の交代からタカ派色が強まっていることについて、イラン攻撃の可能性も含めて考察します。
 翌日の週末には、そこからさらに話を広げて、ロシアでの元工作員父娘の暗殺未遂事件から米欧とロシアの対立が激化していることについて、ごく簡単に考えることにします。
 よろしくお願いします。
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永山卓矢と申します。
有限会社ナリッジ・クリエイション代表です。
現在、マクロ経済の分野でアナリスト業務を中心に活動しています。
フリーの立場で従来のマクロ経済や金融市場分析に限らず、その背後の政治的な権力闘争に至るまで調査活動を行っています。
これまで、月刊誌『商品・証券・金融先物市場』とその後継の『フューチャーズ・マーケット』や投資日報社などの大部分のインタビュー記事の作成をはじめ、他の情報媒体の市況執筆に携わってきました。
また、『「実物経済」の復活』(副島隆彦著 光文社刊)』はじめ、著名評論家の著作本執筆の実質的な共著や補助などの業務に携わってきました。
どうぞ、よろしくお願いいたします。