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通商報復合戦でやせ我慢を続ける中国

ポイント
・先週末までの米中間での通種紛争については、米国側の動きに中国側も対抗措置を打ち出す動きが続いたなかで、米国の主要閣僚は市場の動揺を抑えるために穏健的な発言を繰り広げたが、トランプ大統領が追加関税を支持してそれをぶち壊した。
・トランプ大統領が貿易戦争への懸念を煽っているのは今秋の週間選挙を意識しているといわれているがそれは正しくなく、あくまでも中国側に圧力をかけて資本取引の自由化や国有企業改革の断行を迫るためだ。
・米中間の貿易紛争は明らかに中国側が不利だが、それは米国向け輸出の激減から経済成長の失速懸念が高まるだけでなく、食料品価格の高騰によるインフレ圧力から民衆の暴動を引き起こす恐れがあることも指摘できる。
・今回の知財権の侵害問題では多国籍企業が沿海部に生産工場を設けている加工組み立てのハイテク製品が含まれていないが、これも含めると失業者が急増して社会不安が起こりかねないため、米国側としては中国を脅す格好の手段といえる。



知財権侵害問題を巡るこれまでの経緯

 次に地政学その他、市場に大きな影響を及ぼしている要因について考える。
 まず先週までの米中間の貿易問題については、それを今回の知的財産権の侵害問題について絞ってこれまでの経緯を振り返ると、まず3月22日にドナルド・トランプ大統領が中国からの輸入1,300品目に25%と500億ドル相当分の関税を課す大統領令に署名したことから始まった。中国側はこれに反発して商務省からは米国債の購入減額をちらつかせるなど強硬に反発する姿勢を見せたが、同省を管轄している国務院を統括している李克強首相はこうした強硬派を抑えて穏健的な姿勢を見せ、交渉を優先する姿勢を示した。
 米国側もそれに応じて、4月1日に中国側が米国側が鉄鋼やアルミニウムの関税措置への報復として、米国産128品目に最大25%の関税を上乗せすると発表した。ただし、スティーブン・ムニューシン財務長官、ウィルバー・ロス商務長官、ロバート・ライトハイザー米通商代表部(USTR)代表、ピーター・ナバロ通商製造政策局長といった米国側の担当閣僚は貿易戦争への懸念を和らげる発言を繰り返した。米中貿易戦争への懸念から株価が動揺したことも、米国側にひとまず強硬姿勢を封印する姿勢を採らせた一因になったとされている。
 これに対し、トランプ大統領が反発して知財権の侵害の制裁関税について、さらに1,000億ドルを上乗せするようにUSTRに指示を出すと、当然のことながら中国側もこれに反発し、鍾山商務相が状況により対抗措置を打ち出す姿勢を見せたことから、先週末には貿易戦争への懸念で株価が急落した。


交渉優先路線をトランプ大統領がぶち壊す

 今週に入ると、習近平国家主席が博鰲(ボーアオ)アジアフォーラムでの演説で外資規制を大胆に開放する方針を示した。ただ、とりあえず先週末までの経緯でまず指摘すべきなのは、米国側が知財権の侵害問題で中国からの輸入に大規模な関税をかけることを発表したものの、中国側では李克強首相が交渉を呼びかけたのに応じて米国側もすべての担当閣僚がそれに応じる姿勢を示したにもかかわらず、トランプ大統領が追加関税を課す意向を見せてそれを“ぶち壊した”ことだ。
 トランプ大統領は1日に中国側が米国からの輸入に対して最大25%の関税をかける措置を打ち出したことに怒ったとされているが、これは前記のように鉄鋼やアルミへの輸入関税への対抗措置であり、いわば“既定路線”とでもいうべきものだ。実際、米国側の担当閣僚はほぼすべて、1日に中国側が対抗措置を発表してからも交渉を優先する姿勢を示していたものだ。


米大統領の強硬姿勢は中間選挙をにらんだものではない

 どうしてトランプ大統領が意図的に貿易戦争に陥る危険性を高めるような強硬な姿勢を示し続けているのかというと、一般的には11月6日の中間選挙を意識しているためだとされている。最近ではやや上昇したとはいえ、昨年1月に発足してから支持率が低迷した状態が続いており、ロシアゲート問題といった“爆弾要因”も抱えているなかで、その支持基盤に配慮した政策姿勢であるとされている。
 しかし、その支持基盤は主に白人至上主義的な右翼思想が広まっている中低所得者層の白人だが、それはまさにトランプ大統領の中核的な基盤とでもいうべきものだ。こうした勢力に対しては、あからさまに反発を受けるような政策を打ち出さなければ離反していくことはなく、またあえてそれに配慮した政策姿勢を示しても、さらにそうした勢力による支持が拡大することもないはずだ。
 全体的な支持率を引き上げるには主に無党派層の支持を取り付ける必要があるが、それにはこうした露骨に保護主義的な政策姿勢を打ち出していては支持が集まらないばかりか、一段と離反していく動きを強めかねない。


トランプ大統領が貿易戦争入りを煽るワケ

 では、どうしてトランプ大統領がこの時期に一段と貿易戦争への発展を煽るような姿勢を示しているのかというと、大統領自身は支持基盤の意向を考えているのかもしれないが、より大きなところではその背後の米権力者層の意向によるものだと言わざるを得ない。
 これまで当欄で述べてきたことだが、トランプ大統領を実質的に操っている米権力者層は、昨年末までは北朝鮮問題を持ち出して軍事攻撃を煽り、年明け以降になると一転してその問題を封じる一方で通商問題を高めて中国側に圧力をかけてきた。それにより、中国で絶対的な権力を握った習近平国家主席に国有企業改革を断行させ、国有銀行の大規模で潜在的な不良債権を“炙り出した”うえで米系金融機関に次々に買収工作を認めさせていこうというものだ。
 それにより中国そのものを“蚕食”したうえで、「一帯一路」はじめ対外膨張路線に乗って主にユーラシア大陸を西方に向けて利権を拡大していこうというものだ。いわば、「豚(中国)は太らせてから喰え」ということだ。


食料品価格の輸入関税引き上げでも打撃を受ける

 これも前回の当欄で述べたことだが、貿易戦争になれば米国側も生産コストの上昇によるインフレ圧力に悩まされるが、打撃の度合いは中国経済の方がはるかに深刻である。
 中国経済の成長に寄与しているのはあくまでも、居住があまり見込めないようなマンションの建設やほとんど利用が見込めない港湾、テーマパークの造成といった固定資産投資に次いで、米国向け輸出は2番目の地位を占めている。そうしたなかで、米国向け輸出が激減すれば経済成長が失速してしまい、深刻なデフレ圧力に見舞われることでバブル崩壊が促進されかねないからだ。
 ただ前回の当欄で指摘しないことをここで付け加えると、輸入に高関税をかけることでインフレ圧力がもたらされることで、先進国より中国をはじめ新興国の方がより大きな打撃を受けることだ。特に一般民衆の生活を直撃する食料品価格が値上がりすると都市部で社会不安が高まり、暴動が引き起こされやすくなる傾向がある。これはまさに、中国では共産党政権が一党独裁体制の維持を図るうえで最も嫌うことだ。


大豆の輸入関税引き上げで豚肉価格上昇も

 例えば、中国は米国から大豆を大量に輸入している。中国は最近では実に年間で1億トン近い規模の大豆を輸入しており、輸入先は米国産とブラジルを中心とする南米産でおおむね半分ずつ程度だ。日本では大豆を豆腐や味噌、醤油といった食料加工品目的で輸入しているが、中国では直接食料にするのではなく、製油業者が大豆油を抽出して大豆粕を豚や鶏向けの配合飼料として利用している。そのため、米国産の大豆が手当てできなくても、油分が多く食料向けに向かない南米産でも充当できと思いがちであり、また南米産の方が安価であるので輸送コストの上積み分もカバーできる。
 ところが、ブラジルでは密林を開拓すればまだかなり増産余地があると見込まれているが、海上に輸送するにあたり港湾まで運ぶインフラ施設が未整備のため、いくら増産しても輸出余力が高まらない傾向がある。このため、中国が米国産大豆に輸入関税を引き上げれば配合飼料価格が上昇することで豚肉価格も値上がり圧力が強まってしまい、都市住民の生活が圧迫されざるを得ないのである。
 そこで最も被害を受けるのが、地方から出稼ぎに来ている「農民工」のような、都市に住んでいながら都市戸籍を持たない貧困層だ。


都市での暴動の発生を恐れている北京指導部

 これまで当欄で指摘してきたように、中国の共産党政権は一党独裁体制を維持するにあたり、都市で暴動が発生し、それが大規模化していくことをかなり警戒している。
 米国が中国に外資による完全な買収を含む対外資本開放を要求するにあたり、昨年末まで北朝鮮問題を利用して同国に対して強硬な姿勢を見せていたのも、実際に同国を軍事攻撃すればかなりの難民が越境して中国領域内に流入せざるを得ず、それが都市の貧困層を刺激して大規模な暴動が起こり、首都北京にまで押し寄せることを極度に恐れているからだ。


焦点となる加工組み立てによるハイテク製品

 そこで今回の米国による知財権の侵害問題で注目されるのが、500億ドル分に相当する1,300品目の中に、米国の多国籍企業が中国の沿海部で生産拠点を構えているハイテク製品を含めるのを避けたことだ。これは一般的には米多国籍企業が打撃を受けるのを避けるためといった“短絡的”な解釈がなされているようだが、そうした見方は正しくない。トランプ政権の背後に控えているキッシンジャー元国務長官を中心とするナチズム系は、政府が昨年末に大型税制改革を実現させて製造業が米国内に戻りやすい税制に変えたのに見られるように、つい数年前まで「世界皇帝」として君臨した世界単一政府系のデイヴィッド・ロックフェラーが構築したグローバル生産体制を解体しようとしているからだ。
 むしろここで問題なのは、こうしたハイテク製品が思うように米国に輸出できなくなれば現地の加工組み立て工場が稼働できなくなり、労働者が大量に解雇されて失業者が一気に増大する恐れがあることだ。それにより暴動が引き起こされやすくなり、それが大規模化すると広東や深圳が“占領”されるだけでなく、距離的には北京を凌ぐ金融大都市である上海にまでそれが波及する恐れも出てくるからだ。
 米国としては1,000億ドルの追加関税にそれを含めるか定かではないが、中国を“脅す”格好の手段であるといえよう。

 いずれにせよ、米国が通商戦争を仕掛けてきているなかで、中国側としては圧倒的に不利な立場に立たされているとはいえ、それでも大国としての“メンツ”から実際に報復措置を打ち出し、米国の出方次第でさらにそれを膨らませようとしている。いわば、明らかに“やせ我慢”をしており、それにいつまで耐えられるかが焦点になりそうだ。


 明日、明後日は北朝鮮問題を巡る主要国間の動きを簡単に考察します。
 今週は1日長く、週末は日米首脳会談について、とりあえず深読みではなく“浅い感じ”で予想してみます。
 よろしくお願いします。
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プロフィール

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永山卓矢と申します。
有限会社ナリッジ・クリエイション代表です。
現在、マクロ経済の分野でアナリスト業務を中心に活動しています。
フリーの立場で従来のマクロ経済や金融市場分析に限らず、その背後の政治的な権力闘争に至るまで調査活動を行っています。
これまで、月刊誌『商品・証券・金融先物市場』とその後継の『フューチャーズ・マーケット』や投資日報社などの大部分のインタビュー記事の作成をはじめ、他の情報媒体の市況執筆に携わってきました。
また、『「実物経済」の復活』(副島隆彦著 光文社刊)』はじめ、著名評論家の著作本執筆の実質的な共著や補助などの業務に携わってきました。
どうぞ、よろしくお願いいたします。