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米国の攻撃に屈して中国が金融対外開放を打ち出す

ポイント
・習近平国家主席がアジアフォーラムで打ち出した金融分野を含む対外開放策の多くは既に打ち出されたものの焼き直しが多いが、“立ち消え”になるリスクもあったなかで、習主席自身が演説で提唱したことに意義がある。
・今回の対外開放策により銀行以外の金融分野でも6月末には51%まで、3年後には全額出資が認められることで、特に銀行については完全な買収も可能になるが、実際には当局の認可が必要であり、米系金融機関以外には認められないだろう。
・米国は世界覇権の斜陽期にさしかかってきたなかで、親イスラエル右派は中国を相手に軍拡競争を繰り広げる一方で、買収劇を繰り返して内部から蚕食したうえで、中国による対外膨張路線に乗ってグローバル規模で利権を拡大していこうとしている。
・こうした資本取引の自由化策は人民元がIMFのSDRの構成通貨に組み込まれた時点で取り組んでいなければならなかったものだが、親イスラエル左派主導の米国が「中国売り」攻撃を仕掛けたことでそれが及び腰になってしまったものだ。
・今回の中国の開放策は、米国がこれまで北朝鮮問題で軍事攻撃をちらつかせたり銀行を米金融システムから排除すると脅したり、年明け以降には通商問題を激化させることで攻撃を続けてきたことで、中国側が屈服したことでもたらされたものだ。
・今後は中国が国有企業改革を推進して国有銀行の不良債権問題を浮かび上がらせて買収劇を認めさせていくうえで、中期的にリスク選好による株高傾向が続くことが望まれている。



金融市場開放に向けて習近平から保証をとる

 先週はこれまで、金融市場で最大の懸念要因となっていた米国と中国との間での通商紛争については、10日に習近平国家主席が博鰲(ボーアオ)でのアジアフォーラムでの演説が注目を集め、翌11日には中国人民銀行の易綱総裁がより具体的な説明を行った。
 地政学リスクについては北朝鮮問題が一服状態になるなか、中東でバッシャール・アサド政権軍によるとされる化学兵器使用問題への制裁として、ロシアが反対しているなかで、ついに米国や英国、フランスが軍事攻撃に踏み切った。また北朝鮮問題についても、5月下旬から6月初旬にかけて開催されるとされている米朝首脳会談を控えて、来週末27日には南北首脳会談が、さらにそれ以前には本日、翌日と日米首脳会談も行われる。その最初の会談が間近に迫ってきたことで、これから否応なく注目されてくるのは間違いない。
 そこで今週はまず、米中間での通商紛争の結果、中国側が譲歩した市場開放策について簡単に検証していく。さらに地政学リスクについては、シリア問題ではまだ詳細な分析ができておらず、紙幅の関係もあるなかで、今回は改めて北朝鮮問題について検証していく。

 10日の習近平主席の演説ではいくつか注目すべき市場開放策が提起されたが、そのなかでも重要なのが金融分野での開放策である。証券や保険の分野で近い将来、全面的に対外市場開放が実施されることになった。またそれ以外には自動車の分野でも全面的に過半出資が認められることになり、さらには足元で紛争の焦点になっている知的財産権の侵害問題について、担当官庁を拡充するなどしてその保護を強化することになった。
 今回、中国側が提唱した対外市場開放の案件の多くは、既に昨年11月にドナルド・トランプ米大統領が訪中して米中首脳会談が開催された際に打ち出されたものの焼き直しに過ぎないものではある。とはいえ、金融の分野では具体的に開放の日程がしっかり打ち出されたりそれが前倒しにされたり、自動車の分野でも対象の範囲が拡大されている。
 さらにいえば、昨年11月にそれが打ち出されて以来、特に取り上げられることもなく“立ち消え”になるリスクすら皆無ではなかったなかで、今回、習近平主席が演説でしっかり明言したことに意義がある。米国としては(明日、述べるように日本側にもメリットがあるが)、それにより中国側に間違いなく市場開放策を打ち出す“保証をとった”といって過言ではないといえる。


完全に市場開放されるが当局の認可が立ちはだかる

 今回の市場開放策について、金融の分野では外資系金融機関が中国の証券や資産運用、生命保険、商品先物の分野に進出する場合、中国側と合弁会社を設立しなければならないことになっている。そうしたなかで、これまでは過半出資ができなかったのを6月末には51%に引き上げられることになり、3年後には全額出資も認められることになった。既に銀行については合弁への全額出資だけでなく、中国資本の銀行に直接的に出資することも本当は認められており、それにより金融のすべての分野にわたり外資の進出が容認されることになった。
 習近平主席には米ロックフェラー財閥直系のブラックストーン・グループのスティーブン・シュワルツマン最高経営責任者(CEO)が大きな影響力を行使しており、米国側との間を介在しているので、今回の件についてもこの人物が非常に大きな役割を担っているのは想像に難くない。

 もっとも制度上、外資が100%出資できることになるとしても、実際にはそれが実現されるには単に当事者間での合意だけでなく当局が認可する必要があるので、共産党政府による国家戦略の意向に大きく左右されることになる。ましてや、銀行については既に直接的に外資が出資できるので制度上では完全に買収することが可能になっているものの、当局が容易に認めるはずがなく、少なくとも欧州や日本といった米国以外の銀行に対してはそれが認められることは非常に難しいと思われる。
 今回の金融分野の対外資本開放については、このことをしっかり押さえる必要がある。


今回の対外開放策は米系資本の中国乗っ取り策の一環

 これから述べることは当欄で何回も述べてきたことだが、今回のテーマを考察するうえで大事なことなのでもう一度振り返る。
 トランプ政権の背後の米権力者層は昨年9月の共産党大会と今年3月の全国人民代表大会(全人代)で習近平主席に絶対的な権力を握らせたうえで、2035年や49年までに「社会主義現代化強国」の建設が標榜されているように、積極的に対外膨張政策を推進させようとしている。それにより、表面的には中国を米国の世界覇権の秩序に挑戦する修正主義勢力と位置付けて軍拡競争を繰り広げていこうとしている。
 その一方で、国内的には国有企業改革を推進していくことで、それに対する既得権益層や失業者増加による民衆の抵抗については強権的に圧殺させていきながら、国有銀行の不良債権を顕在化させて存続が困難な状態に陥らせ、米系金融資本が代表的な国有企業も含めて買収していくことを目論んでいる。そのうえで中国政府が「一帯一路」をはじめとする対外膨張路線に乗って、ユーラシア大陸を西方に向けてグローバル規模で利権を拡大していくことを目論んでいる。
 今回の中国政府の対外資本開放策は、米国側が完全買収も含む出資ができる環境作りの一環であるのはいうまでもないことだ。


中国発信用不安で資本取引の自由化に及び腰に

 もっとも、こうした金融部門の対外開放による資本取引の自由化策は、本当は人民元が国際通貨基金(IMF)の特別引出権(SDR)の構成通貨に加えられたことが決まった時点で取り組んでいなければならなかったものだ。実際、以前には欧州勢が人民元をSDRの一員に採用させることを提唱していたなかで、当初は難色を示していた米国もそれに賛成に回ったのは、それを意図していたからにほかならない。中国側も当初は「一帯一路」構想を推進していくうえで、円滑に資金調達をしていく必要から人民元の国際的な信用を確保しようとしていたので、その国際化を進める観点からそれに前向きな姿勢を示していた。
 ところが、ウォール街の勢力を代弁している親イスラエル左派が主導権を握っているグループ・オブ・サーティ(G30)から派遣されたスタンレー・フィッシャー副議長(当時)主導で米連邦準備理事会(FRB)が利上げ推進姿勢を示し、それとともに投機筋が「中国売り」攻撃を仕掛けたことで信用不安が強まったことで、中国政府は資本取引の自由化に及び腰になってしまった。


米国の圧力に屈して金融の対外開放を強いられる

 それに対し、米国の絶対的な世界覇権の持続を図った親イスラエル左派とは異なり、ヘンリー・キッシンジャー元国務長官に代表される右派の勢力は米国の国力が衰えてきたなかで、むしろそれを後退させて中国を台頭させながら、その中国を内部から“蚕食”していくことで利権を拡大していこうとしている。
 そこで昨年末までは北朝鮮問題を利用し、軍事攻撃をちらつかせることで難民が中国領域内に押し寄せ、都市部で暴動が引き起こされる恐怖心を煽ってきた。また北朝鮮に対して原油の供給の停止をはじめ、制裁に加わるように圧力をかけることで、水面下で中国の銀行を米金融システムから排除すると脅してきた。そして年明け以降、米国は鉄鋼やアルミニウムに輸入関税をかけ、さらに知的財産権の侵害問題を持ち出すなどして、攻撃の手段を通商問題に切り替えて引き続き中国に圧力をかけ、資本取引の自由化に踏み切るように促してきた。
 そうした米国による圧力に屈して打ち出されたのが、今回の金融分野での対外開放であるわけだ。


今後は国有企業改革と外資の参入が焦点に

 今後の焦点は、習近平主席が率いる中国政府がどのような形で国有企業改革に取り組み、それにより浮かび上がる国有銀行の不良債権処理を目的に大規模な外資の参入を認めていくかに移ってくる。
 資本参加については、それも特に完全な買収については当局の厳しい認可を経なければならないので、そこでは米系金融資本だけに認められてしまい、日欧の銀行勢が参入するのは困難になるのは容易に推測がつくと言える。また中国が国有企業改革を推進しやすい環境を醸成するためにも、これからまだ中期的にリスク選好による株高傾向が続く公算が高いといえるだろう。


 明日は中国側が打ち出した対外開放策について、自動車分野もそこに加わったことについて少し考えてみます。
 明後日以降の2日間では、米朝はじめカギを握る各国の首脳会談が迫ってきたなかで、北朝鮮問題についてその本質を改めて考えることにします。
 よろしくお願いします。
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プロフィール

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永山卓矢と申します。
有限会社ナリッジ・クリエイション代表です。
現在、マクロ経済の分野でアナリスト業務を中心に活動しています。
フリーの立場で従来のマクロ経済や金融市場分析に限らず、その背後の政治的な権力闘争に至るまで調査活動を行っています。
これまで、月刊誌『商品・証券・金融先物市場』とその後継の『フューチャーズ・マーケット』や投資日報社などの大部分のインタビュー記事の作成をはじめ、他の情報媒体の市況執筆に携わってきました。
また、『「実物経済」の復活』(副島隆彦著 光文社刊)』はじめ、著名評論家の著作本執筆の実質的な共著や補助などの業務に携わってきました。
どうぞ、よろしくお願いいたします。