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北朝鮮の核放棄の行方と日本がたどる道

ポイント
・米朝首脳会談の開催を前に米国は二つの誤算に見舞われた。一つは米軍が撤退しても日本が代わりに極東で安全保障を担えるように、強硬路線を維持して防衛力の強化を続けるように指示していたが、安倍政権が孤立化を恐れて日朝首脳会談の開催を模索したことだ。
・もう一つの誤算は、米国は核兵器の一括処理を強要することを説明したにもかかわらず、韓国の文在寅政権はそれでは北朝鮮側が呑めないと勝手に判断して段階的な処理を模索する動きに出たことだ。
・中国は日本を核武装化させて軍事的に対峙させるという米国の本当の目的に気付いているため、北朝鮮の核問題では段階的な放棄を模索しており、またそのために金正恩委員長の訪中と首脳会談の開催も受け入れて6カ国協議の再開も望んでいた。
・ただし、一括処理して北朝鮮をNPT体制に再加盟させて厳格な核査察を受けさせても、査察する場所は限定されているので完全に放棄させることは不可能だ。
・処理後も隠し持っていることは在韓米軍が撤退した後に明らかになると思われ、短中距離ミサイルもそのまま温存されることで韓国だけでなく日本でも世論が騒然となってしまい、核保有に向けて一気に傾いていくかもしれない。



北朝鮮が先に支援を求めているとの見方は正しくない

 開催地を巡り双方が対立していることで、5月下旬から6月上旬に開催がずれ込むとされている米朝首脳会談で焦点になっているのが、核放棄の手順の行方だ。そこでは、米国側が「リビア方式」と呼ばれる検証可能で不可逆的な一括処理を要求しているのに対し、北朝鮮側は放棄しやすい環境を醸成するために放棄よりまず先行して支援を求めているとされており、いわゆる「パキスタン方式」と呼ばれているものだ。
 ただし、本当は北朝鮮が求めているのはそれとは異なるが、その前にドナルド・トランプ政権としては二つの同盟国の動きに誤算が出てきたことを指摘する必要がある。


トランプ政権に同盟国絡みでの二つの誤算

 一つは日本の安倍晋三政権に対し、米国は撤退していく在韓米軍に代わり、中国に軍事的に対峙して安全保障面での秩序を担えるように防衛力を強化していくにあたり、融和ムードが高まっても日本だけは北朝鮮に強硬な姿勢を続けるように指示(はっきりいえば“命令”)していた。ところが安倍政権は外交面で孤立することや、特に拉致問題がそこで置き去りになるのを嫌い、独自に日朝首脳会談の開催を模索する動きに出た。それにより安倍首相が今、どのような状況に陥れられているかを見れば一目瞭然だろう。

 もう一つは、米国は韓国側にも一括処理による核放棄の手順を説明していたが、水面下で中国が執拗に北朝鮮を追い込むようなことをしないように説得していたなかで、文在寅(ムン・ジェイン)政権がそれでは北朝鮮側が呑めないと“勝手に”判断してしまい、段階的な放棄とその都度支援をしていく「南アフリカ方式」を提唱するようになったことだ。
 そこでトランプ政権は対立している軍需産業系が推していた職業軍人系のハーバート・マクマスター大統領補佐官を更迭し、その後任に“強烈”な新保守主義(ネオコン)派であるジョン・ボルトン元国連大使を就けることで、中韓両国を牽制した(ただし、その主目的はあくまでも中東でシリアを起点にイランへの攻撃を見据えての起用だが)。


北朝鮮の核保有の容認に転じた中国は段階的な非核化を推奨

 中国は以前には北朝鮮が核兵器を保有することに反対していたが、それは一つには韓国や台湾、そして特に日本が核武装するのを防ぐことにあり、またそれ以上に重要なのが、同国の核ミサイルは本当は中国を照準にしているからだった。ただ、トランプ政権が北朝鮮に対して強硬な姿勢を示すようになったなかで、もはや北朝鮮が完全に核兵器や弾道ミサイルを保有するようになると、これ以上、米国による攻撃的な姿勢に振り回されるのは得策ではないため、表向きの姿勢とは裏腹に水面下では同国の核保有を容認する姿勢に転じた。この問題でレックス・ティラーソン国務長官と中国の姿勢が一致することが多かったのはこのためだ。
 現在、米国と北朝鮮との間で朝鮮半島の非核化により北朝鮮の核兵器の廃棄とともに、戦術核を持ち込んでいることが確実視されている在韓米軍の撤退で合意するのは、本来なら中国としては賛成してしかるべきである。ところが、中国としては後述するように日本を核武装化させて同国と対峙させるという米国の本当の目的に気付いているため、段階的な非核化を推奨して時間稼ぎをしながら、6カ国協議を再開させて主導権を握ろうとしている。先日、金正恩(キム・ジョンウン)委員長の要請に応じて訪中を受け入れ、中朝首脳会談に臨んだのはそのためだ。


呪文を信じ込んでいる頭の古い有識者層

 米国の世界覇権の絶頂期に確立された軍需産業や金融資本系主導での米国及び世界統治管理体制に慣れ親しんでいる識者の間では、米朝首脳会談ではうまく合意できず、それを見越して金正恩委員長が電撃的に訪中して中国の後ろ盾を得ようとしたといった見方が根強いようだ。それは、いまだに米国は世界貿易機関(WTO)体制によって構築された自由貿易の枠組みや、米金融市場の安定を意図したドル高政策を維持しているといった“馬鹿げた呪文”が根強いことに端的に見て取れる。
 しかし、在韓米軍の撤退への道筋を描こうとしているトランプ政権の性格と、親イスラエル的な米国の傀儡である金正恩委員長の“本質”を考えれば、在韓米軍の撤退と引き換えに核兵器の一括処理で合意することは十分に考えられる。さしあたり、日米韓は米国で大統領選挙が行われる20年までに全面的な核放棄を迫る案を軸に調整しているとされており、米国が親北朝鮮的な政権が統治している韓国の要望を撥ねつけているところだ。


一括処理しても北朝鮮から核兵器を廃棄することは不可能

 とはいえ、一括処理したうえで核拡散防止条約(NPT)体制に復帰させ、定期的に厳格な核査察を実施しても、北朝鮮の核兵器を完全に廃棄させるのは不可能だ。査察する場所は原子力施設や軍事施設といった場所で行うことに決まっており、それ以外のところに隠し持っていても明るみになるはずがないからだ。
 かつて、リビアのムアマル・カダフィ政権は米国の要求を完全に受け入れ、国内の核兵器やミサイルをすべて米国側に引き渡して全面的に解体した。しかし、当時米国はカダフィ政権を将来的に打倒できるように弱体化させようとしていたのに対し、現在の北朝鮮の労働党政権は完全に米国の傀儡であるだけにまだまだ利用価値が高い。当時のリビアとは完全に事情が異なるわけだ。


日本に防衛力の強化や核武装化への道が開ける

 おそらく、北朝鮮が核兵器を隠し持っていることは在韓米軍が撤退した後に明るみになるのだろう。いうまでもなく、弾道ミサイルが廃棄されるとしても長距離型の大陸間弾道ミサイル(ICBM)に限定され、中国を照準に収めることができる「ノドン」や「テポドン」といった短中距離型はそのまま温存されるだろう。
 それにより韓国だけでなく日本でも世論が騒然となってしまい、国防の強化や憲法改正はもとより、核保有に向けて一気に傾いていくのかもしれない。米国は日本にかなりの兵器を購入させることで対日貿易赤字を減らしながら、米国内の軍需産業を潤すことができる。その一方で、表面的には北朝鮮の核兵器の脅威を煽っておきながら、裏側で日本の技術を導入してウラン鉱山の開発を本格化させ、脱石油社会の構築に向けてその先導役になろうとしている。
 それこそが17~18日にトランプ大統領のフロリダ州の別荘「マールアラーゴ」で開催された日米首脳会談の最大のテーマだったのであり、そうしたことを大統領が安倍首相に説明して説得したのだろう。それに比べれば、通商問題での日米自由貿易協定(FTA)の締結などは“枝葉の話”に過ぎない。


 今週はこれで終わりになります。
 今週もご拝読いただき、ありがとうございました。
 来週も週明け23日月曜日から掲載していくのでよろしくお願いします。
 なにかありましたら書き込んでいただけたら幸いです。
 また、筆者のお話を直接お聞きしたいようであれば、少人数での懇親会形式のようなセミナーでもお引き受けいたしますので、ご連絡いただければと思います。
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プロフィール

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永山卓矢と申します。
有限会社ナリッジ・クリエイション代表です。
現在、マクロ経済の分野でアナリスト業務を中心に活動しています。
フリーの立場で従来のマクロ経済や金融市場分析に限らず、その背後の政治的な権力闘争に至るまで調査活動を行っています。
これまで、月刊誌『商品・証券・金融先物市場』とその後継の『フューチャーズ・マーケット』や投資日報社などの大部分のインタビュー記事の作成をはじめ、他の情報媒体の市況執筆に携わってきました。
また、『「実物経済」の復活』(副島隆彦著 光文社刊)』はじめ、著名評論家の著作本執筆の実質的な共著や補助などの業務に携わってきました。
どうぞ、よろしくお願いいたします。