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米長期金利の上昇力抑制の謎について

ポイント
・以前から米イールドカーブはフラットな状態だったが、最近では大型税制改革により賃金が上がり、インフレ率も上昇してきたことで中期債の利回りが上昇してきたものの長期債が上がらず、フラットな部分が期間が長めのところにシフトしている。
・今回のFOMCでの声明文では最近の動向を映して物価判断が上方修正されたが、今後の金融政策姿勢については従来とそれほど変わらず、市場ではハト派的と受け止められたようだ。
・米長期金利の上昇力が鈍いのは、資金の流れからは大型税制改革の恩恵を受けた主要企業が債券発行を減らしていることで資金が国債に向かっていることや、年金基金が高収益に恵まれていることで運用資金を増やし、その多くが債券に向かっていることがある。



フラットな部分がより期間の長いところにシフト

 先週は米連邦公開市場委員会(FOMC)、雇用統計とともに予想を下回ったことからドル高圧力が削がれてしまったが、株価への影響も含めて今後も米長期金利の動向がカギを握っているのは間違いないだろう。
 以前には米連邦準備理事会(FRB)が利上げを推進していく姿勢を示していたにもかかわらず、賃金がなかなか上がらなかったことでインフレ率がFRBが目標としている2%水準に到達するメドが立たなかったことから長期金利が上がらず、イールドカーブがフラット(平坦)な状態での推移が続いた。ところが、最近ではドナルド・トランプ政権が昨年末に成立させた大型税制改革により、恩恵を受ける企業が従業員に還元して賃金が伸びていき、インフレ率も上昇してきたことから中期金利に上昇圧力が強まっているものの、長期金利は依然として上昇力が鈍い状態が続いている。その結果、イールドカーブではフラットな部分がより期間の長いところにシフトしている。


金融政策姿勢がハト派的と受け止められた声明文の内容

 2日にFOMCが終わった直後に公表された声明文では「家計支出の伸びは緩やかになった」として、以前に比べるとややハト派気味になった部分も見られた。
 とはいえ、FRBがインフレ率の指標としている3月のコア・ベースの個人消費支出(PCE)価格指数の前年同月比の伸び率が前月の1.6%から一気に1.9%に高まって目標の2.0%に近づき、総合ベースではついにその大台に乗っている。トランプ政権が打ち出した大型税制改革の影響によるものであり、市場ではFRBの利上げが加速していくとの観測が強まりだしている。その結果、声明文では「物価上昇率は2%近辺での推移が見込まれる」としてその判断を上方修正させている。
 ただ、市場では利上げに向けた姿勢が強まるのではないかとの見方が強かったようだが、声明文では今後の金融政策については「さらなる緩やかな利上げをしていく経済環境が続くと予想される」とされたのが、従来と変わらないと受け止められてしまったようだ。


長期金利の上昇力が鈍い二つの要因

 もっとも、こうした声明文が公表される以前のFRBの利上げ加速観測がやや強まっていた段階ですら、長期金利の上昇圧力は極めて抑制された状態が続き、指標となる10年債利回りは3%台に到達できない状態が続いた。
 確かに中期債の利回りに上昇圧力が強まっているにもかかわらず長期債のそれが鈍いのは、“教科書的”にいえば米国経済が減速していくことを織り込んでいることになる。あるいは、先行き信用収縮が強まっていき、新興国不安から資金が安全資産である米国債に向かう動きが強まる前兆といえなくもない。

 もっとも、こうした先行きの動きの前兆と捉える見方は今後、実際に起こってから“後解釈”により明らかになるものだが、足元の資金の流れではっきりしていることが二つある。
 一つは大型税制改革により多国籍企業が海外に滞留している資金を米国内に還流させることが優遇されることになったことで、そうした企業の間では資金調達の必要性が薄れたために社債の発行が減っていることだ。その結果、債券市場では資金が長期債を中心とする国債に多く向かっていることが、長期金利の上昇力を抑制させている一因になっている。
 もう一つは、株価がかなり上昇したことで年金基金の間では期待以上の高収益に恵まれていることから、運用資金を一段と増やしており、そのかなりの部分が長期国債に向かっていることも指摘できる。
 最近の長期金利が上がらない現象が米国経済が先行き陰っていく前兆であると捉えるのは早計に過ぎるだろう。


 明日は前週末に発表された米雇用統計の内容について検証します。
 明後日は中国の外交が北朝鮮や日本に接近してきていることを採り上げます。
 その翌日は先週、行われた米中貿易交渉について考察します。
 さらに今週は1日多く、12日土曜日まで掲載します。当日は米国とイランとの対立が強まりつつありますが、それについて簡単にコメントします。
 今週もよろしくお願いします。
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プロフィール

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永山卓矢と申します。
有限会社ナリッジ・クリエイション代表です。
現在、マクロ経済の分野でアナリスト業務を中心に活動しています。
フリーの立場で従来のマクロ経済や金融市場分析に限らず、その背後の政治的な権力闘争に至るまで調査活動を行っています。
これまで、月刊誌『商品・証券・金融先物市場』とその後継の『フューチャーズ・マーケット』や投資日報社などの大部分のインタビュー記事の作成をはじめ、他の情報媒体の市況執筆に携わってきました。
また、『「実物経済」の復活』(副島隆彦著 光文社刊)』はじめ、著名評論家の著作本執筆の実質的な共著や補助などの業務に携わってきました。
どうぞ、よろしくお願いいたします。