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平均時給が鈍かった米雇用統計の“怪”

ポイント
・今回の雇用統計では失業率が0.2ポイントも低下したが、労働参加率が下がっていることを考えると、実態は予想と同じ0.1ポイント低下が妥当か。ただ労働市場は限りなく完全雇用に近づいており、スラックは解消されたと見てよいだろう。
・NFPは事前予想を下回ったが、過去分の修正を考えると決してハト派的とはいえない。前月が低水準だったのは極めて高水準を記録した前々月の反動であり、今回、予想を下回ったのは、気温が上がらず季節雇用が遅れたことが影響していたと思われる。
・労働市場の環境が一段と良くなっていることで通常なら職にありつけなかったような人が正社員に採用されていることがうかがわれるが、こうした人たちの職種は賃金水準が高くないことが、今回の平均時給の低調な伸びをもたらしていると思われる。
・次回のFOMCのドットチャートでは年内の利上げの回数の中心値が4回に引き上げられ、また米国経済の潜在成長率やFRBの物価目標水準を考えると妥当な政策金利の水準は4%程度であるため、利上げ打ち止めの水準も引き上げらておかしくない。



労働市場でのスラックは解消か

 先週は週末に長期金利の動向に影響を及ぼす米連邦準備理事会(FRB)の今後の利上げの行方を左右する可能性のある雇用統計が発表されたので、毎月恒例なものとして簡単に検証しておく。
 今回の雇用統計では失業率が事前予想では前月から0.1ポイント低下するとされていたのが、実際には3.9%とそれをも下回った。これに対し、非農業部門の雇用者数(NFP)の前月比の増加幅は16万4,000人と事前予想の19万3,000人を下回り、また平均時給も26.84ドルと前年同月比で2.6%の増加にとどまり、事前予想の2.7%を下回った。
 市場では後者の方が材料視されて、発表直後にはドル安に振れた。

 このうち、失業率については前月から0.2ポイントも下回ったが、労働参加率が62.8%と前月から0.1ポイント低下しており、職探しをする人が減ったことで実態以上に押し下げられた可能性が高い。おそらく、実力的には0.1ポイント低下の4.0%程度なのだろう――すなわち、事前予想と同じ水準であるということだ。
 それでも、失業率がこれほどの水準にまで低下したのは労働市場が極めてひっ迫した状態にあることを示唆するものであるのは間違いない。以前、ジャネット・イエレン前FRB議長は労働市場にはまだ幾分かの「スラック(弛み)」があるといった表現をしていたが、もはやそうした状態にはないと見てよいだろう。


雇用の伸びの鈍化は季節雇用の遅れが原因か

 次にNFPの増加幅については事前予想より3万人ほど少なかったが、サンプリングの対象となる12日の週を含む週間失業保険申請件数が23万3,000件(修正値)と比較的多かったため、ある程度多めの数値になることは予想されていた。
 ただ、前月分が10万3,000人から13万5,000人に3万人以上も上方修正されており、前々月分がわずかに2,000人下方修正されているとはいえ、トータルで当月分が予想を下回った分だけ引き上げられており、その限りでは決してハト派的とはいえない。
 おそらく、前月分が少なかったのは前々月が32万4,000人も記録した反動によるものだろう。今回、予想を下回ったのは、気温がなかなか上がらなかったことで季節雇用が遅れたことが影響していたと思われる。


雇用環境が一段と良好になり低賃金の職種が増える

 また、賃金がかなり伸びていることが報じられていたなかで、今回の平均時給が微増にとどまったことは意外感をもって受け止める向きが多いようだが、その謎を解くカギは長期失業者が減っていることにあると思われる。
 今回、半年以上にわたる長期失業者は前月の132万2,000人から129万3,000人に減っており、また正社員を希望していながらパート勤務を余儀なくされている人たちも501万9,000人から498万5,000人に減っている。その結果、完全失業者に経済的理由によるパート労働者、働く意欲はあるが求職をやめた人を加味した広義の失業率である不完全雇用率(U6失業率)も8.0%から7.8%にさらに低下している。労働市場が一段とひっ迫して完全雇用の状態に限りなく近づいていることで、通常なら職にありつけないような人たちや、パート勤務を余儀なくされていた人たちが正社員に登用されるケースが増えていることがうかがわれる。
 こうした人たちが正規の職にありつくこと自体はいうまでもなく望ましいことだが、もとよりそれほど付加価値の高い仕事をこなすだけの技量がないことが多いため、低賃金の職種に甘んじるケースが多いものだ。こうしたことが、全体の賃金の伸びを抑える結果になっていることが容易に推測できる。

 そうした意味では、インフレ率の趨勢に直接的に影響を及ぼす賃金の動向を推し量るには、少なくとも現在の局面では雇用統計での平均時給で判断するのは不適切である。むしろ、1-3月期の雇用コスト指数が前期比0.8%、前年同期比2.7%と伸びが一段と高まっていることが、賃金の動向を正確に映していると言えるだろう。それにより家計の所得が伸びているからこそ、支出面から見た個人消費支出(PCE)価格指数の伸びも一気に高まってきたのである。


ドットチャートで利上げ打ち止めの水準が焦点に

 FRBの金融政策については、もはや6月12~13日に開催される連邦公開市場委員会(FOMC)では利上げの決定は確定的だが、焦点はFOMC委員による今後の利上げの回数の見通し(ドットチャート)の行方だ。
 3月20~21日にFOMCが開催された際のドットチャートでは、“定義上”では年内の利上げの回数の見通しの中心値は3回と変わらなかったが、3回と4回を見込む委員が6人で同数になるなど、全体的にはかなりタカ派的にシフトしていた。おそらく、次回のドットチャートではその中心値が明確に4回になるのではないか。

 それ以上に注目されるのが最終的な利上げの打ち止めの水準であり、前回はそれが前々回の2.8625%から3.375%に引き上げられている。
 ただ、リーマン・ショックによる巨大な金融危機に襲われて以降、中立金利が0%付近に低下しているとしても、それでも米国経済の潜在成長率が2%程度であると考えられており、これにFRBの物価目標水準である2%を加味すれば、本来的には政策金利を4%程度にまで引き上げなければならないはずだ。
 だとすれば、次回のドットチャートでは利上げ打ち止めの水準が一段と引き上げられておかしくない。


 明日は中国の外交が北朝鮮や日本に接近してきていることを採り上げます。
 明後日は先週、行われた米中貿易交渉について考察します。
 さらに今週は1日伸びて週末の12日土曜日では、米国とイランとの対立が強まりつつありますが、それについて簡単にコメントします。
 よろしくお願いします。
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プロフィール

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永山卓矢と申します。
有限会社ナリッジ・クリエイション代表です。
現在、マクロ経済の分野でアナリスト業務を中心に活動しています。
フリーの立場で従来のマクロ経済や金融市場分析に限らず、その背後の政治的な権力闘争に至るまで調査活動を行っています。
これまで、月刊誌『商品・証券・金融先物市場』とその後継の『フューチャーズ・マーケット』や投資日報社などの大部分のインタビュー記事の作成をはじめ、他の情報媒体の市況執筆に携わってきました。
また、『「実物経済」の復活』(副島隆彦著 光文社刊)』はじめ、著名評論家の著作本執筆の実質的な共著や補助などの業務に携わってきました。
どうぞ、よろしくお願いいたします。