FC2ブログ

記事一覧

通商問題で中国に無理難題を押し付ける米国の戦略

ポイント
・今回の米中貿易交渉では、米国側が対中貿易赤字を1,000億ドル削減するように要求していたのが、それを2,000億ドルに倍増するなど無理難題を押し付けており、最初から協議が決裂するのを意図しているようだ。
・決裂すれば米国は中国側に関税を課すことになり、いうまでもなくそれはWTO違反だが、中国を相手に「新冷戦」体制に持ち込もうとしているなかで、米国はWTO体制から新時代に適合するように国際通商体制を変換させようとしている。
・米国はZTEに制裁を科したり、さらにそこにファーウェイも加えようとするところに中国に対する敵視政策が表れており、「中国製造2025」の中止を求めているのは国家主導で技術強要やその内在化をしていく経済発展戦略を不公平だと主張しているためだ。
・米国は今回の貿易交渉では最初から中国側と合意しようなどと思っておらず、その目的は現行のWTOがいかに時代に適合しなくなっているかを白日の下にさらすことになる。



度が過ぎて最初から通商交渉の決裂を意図している?

 中国を相手に「新冷戦」体制に持ち込む動きについては、先週3~4日に開催された米中貿易交渉で露骨に見られたものだ。
 そこでは、米国からはスティーブン・ムニューシン財務長官やウィルバー・ロス商務長官だけでなく、通商協議で相手を“ねじ伏せるプロ”であるロバート・ライトハイザー米通商代表部(USTR)代表や、さらには大統領選挙の際にドナルド・トランプ大統領が中国からの輸入に一律で45%もの関税をかけることを提唱していたが、その“張本人”であるピーター・ナバロ通商製造政策局長が出席しただけに、かなり露骨に強硬な要求が出されていた。
 今回の交渉では両大国による初回の協議だったので、とりあえず高い要求だけをしておいて、今後も協議を継続していくことを確認することが目的だったといった見方がある。しかし、米国側は事前にトランプ大統領自身がツイッターで中国側に対中貿易赤字を年間で1,000億ドル削減する計画を立てるように要求しており、それ自体が“無理難題”であるにもかかわらず、この協議でさらにその要求額を2,000億ドルに倍増している。
 相手に出来る限り自分たちの要求を呑ませることを目指して、交渉で主導権を握ることを目的に相当に高い要求を突き付けた可能性もないわけではない。とはいえ、この要求はあまりに“度が過ぎて”おり、中国側が受け入れるのが不可能な要求をすることで最初から協議が決裂することを意図している感がしないでもない。


国際通商体制を時代に適合させるように変換させようとしている

 協議が決裂すれば、米国は中国からの輸入に高関税をかけることになる。既に米国側は知的財産権の侵害問題で年間500億ドルもの関税をかける姿勢を示し、さらにトランプ大統領はUSTRに1,000億ドルもの積み増しを検討するように指示を出している。一方的に関税を課せば明らかに世界貿易機関(WTO)違反だが、トランプ政権はもとよりその枠組みを守る気がないのは、当欄でこれまで指摘してきた通りだ。
 WTO体制は米国の世界覇権の絶頂期の際にグローバル生産体制を軌道に乗せるにあたり、新興国や旧社会主義諸国、それもとりわけ中国を取り込んで米国主導の世界共通の通商ルールに組み込むことを目的に制定されたものだ。ところが、米国の世界覇権が斜陽期に転じるとともにグローバル生産体制が機能しなくなり、中国を相手に「新冷戦」体制に移行しつつあるなかで、ナチズム系主導の米国は国際通商体制もそれに適合するものに変換させていこうとしている。


中国の通信機器大手2社への制裁の動きに敵視政策が表れる

 そうしたことは、米国が情報技術(IT)分野で中国に圧力を強めていることに露骨に表れている。
 米国は通信機器大手の中興通訊(ZTE)が米国からイランや北朝鮮に違法に通信機器を輸出していたとして、米企業との取引を禁じた。そしてさらに同社とより規模の大きい華為技術(ファーウェイ)に対し、中国政府のスパイ活動に使われる恐れがあるとして、政府機関が通信機器を調達するのを禁止する大統領令が近く出るとされている。
 明らかに中国を敵視した政策だが、今回の協議で「中国製造2025」の中止を求めたのは、まさに新冷戦体制入りをにらんだものにほかならない。かつて、日本から新幹線の技術を盗んで「自前で開発した」などと“うそぶいて”いるように、この計画は2049年に「社会主義現代化強国」を目指すにあたり、政府の意向を背景にハイテク技術を有する外資系企業を“青田買い”したうえで、国有企業に巨額の補助金を支給してその技術を内在化させていこうというものだ。


民間企業間の取引での国家の介在を不公平であると問題視

 中国では本当の意味で市場経済が浸透しておらず、起業家精神も未発達であるために自ら創造性のある事業を興したり、技術革新に磨きをかける能力がない。その代わり、社会主義体制による国家主導の経済体制であるため、国際競争に打ち勝つにあたり巨大な国家の後押しを存分に利用できるわけだ。
 米国が中国のこの計画を攻撃するのは、米国自身の世界覇権秩序に挑戦する勢力を先んじて叩くことにあるのはいうまでもないことだ。ただ、その表向きの理由は資本主義的な枠組みでは民間企業同士の競争が主体であるはずであるなかで、そこに国家が介在することは公平ではないからだ。米国が中国に対し、多くの輸入関税や輸出補助金、様々な非関税障壁だけでなく、知的財産権の侵害に加えて技術強要の是正を求めているのはこのためだ。


米国の狙いは現行のWTO体制が非現実的であるかを明らかにすること

 もちろん、中国側が米国の要求を呑めるはずがなく、特に「中国製造2025」の中止は共産党が企業活動をも含むすべてにおいて指示を出す社会主義大国の中国にとってはこれ以上、経済発展ができなくなることを意味するので、到底受け入れられないものだ。
 米国が本当に中国にこれらの要求を受け入れさせようとすれば、中東からの石油の供給を遮断したり、米連邦準備理事会(FRB)が積極的に利上げに動くことで信用収縮を引き起こし、中国から資本流出を加速させてバブル崩壊に拍車をかけるといったことで実現させることが可能だが、ナチズム系主導のトランプ政権はそれはしないだろう。これまで当欄で何度も指摘しているように、これから米ナチズム系は中国に対外膨張路線を推進させることで表面的には軍拡競争をしていきながら、その一方で内部から“蚕食”してグローバル規模で利権を拡大していこうとしているからだ。
 むしろ、米国の狙いは民間企業主導の資本主義体制と国家が後押ししている国有企業主導の社会主義体制との相違を浮き彫りにすることで、現行のWTO体制がいかに現在では現実にそぐわないものになっているかを白日の下にさらすことにある。そうすることでかつて、戦後の国際通商体制である「関税と貿易に関する一般協定(GATT)体制」を構築した際にソ連やその衛星国を排除したように、中国やその衛星国を排除する新通商体制を構築しようとしているわけだ。
 それが実現すれば、いよいよ世界情勢では新冷戦体制が軌道に乗っていくことになる。


 今週は延長して明日も掲載します。
 米国がイラン核合意から離脱しましたが、明日は同国への攻撃を巡り、一つだけ簡単な指摘をしたいと思います。
 よろしくお願いします。
スポンサーサイト

コメント

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

17894176

Author:17894176
永山卓矢と申します。
有限会社ナリッジ・クリエイション代表です。
現在、マクロ経済の分野でアナリスト業務を中心に活動しています。
フリーの立場で従来のマクロ経済や金融市場分析に限らず、その背後の政治的な権力闘争に至るまで調査活動を行っています。
これまで、月刊誌『商品・証券・金融先物市場』とその後継の『フューチャーズ・マーケット』や投資日報社などの大部分のインタビュー記事の作成をはじめ、他の情報媒体の市況執筆に携わってきました。
また、『「実物経済」の復活』(副島隆彦著 光文社刊)』はじめ、著名評論家の著作本執筆の実質的な共著や補助などの業務に携わってきました。
どうぞ、よろしくお願いいたします。