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米国の離脱によるイラン攻撃の高まりとロシアの戦略的な思惑

ポイント
・今回の米国によるイラン核合意からの離脱表明は、トランプ政権の閣僚の顔ぶれやその背後勢力を考えると、いうまでもなくイスラエルの意向に配慮したものだ。
・体制を温存したまま核廃絶や核放棄を達成できるはずがないことを考えると、この合意からの離脱は米国がイランに対してシーア派宗教体制の打倒を目指す宣戦布告を意味するといって過言ではない。
・この離脱はサウジアラビアに配慮したものでもあり、原油価格を押し上げることで国政石油会社のIPOを支援したり、イランの産油量が落ち込むことでサウジがそれほど減産をしなくてもOPECの減産枠を達成できることが指摘できる。
・今回の合意離脱を巡り、イランの後ろ盾になっているはずのロシアがそれほど反応していないが、同国は米国から中東の管理を任されつつあるなかで、サウジに接近していることがありそうだ。
・ロシアとしてはイランを巡り軍事紛争に見舞われた方が、天然ガスの独占化を図ったり、エネルギー価格が上昇することで朝鮮半島北部のウラン鉱石の利権を握るとより有利になることも指摘できる。



イラン核合意を巡るイスラエル、サウジの不満と米国の路線転換

 今週の最後として、8日にドナルド・トランプ米大統領がイランの核合意からの離脱を表明したことについて考察する。
 この合意は15年に米国はじめ国連の常任理事国にドイツを加えた6ヵ国とイランが取り交わしたものであり、約10年間にわたりイランがウラン濃縮活動を抑制することで核開発を制限する見返りに、米欧諸国が経済制裁を解除したものだ。
 これに対し、イランと敵対しているイスラエルやサウジアラビアは、この合意では核開発に向けた動きを封じるのが十分でないだけでなく、弾道ミサイルの発射についても制限されていないとして批判してきた。にもかかわらず、米国が率先してこの合意を取りまとめたのは、当時のバラク・オバマ政権ではイスラエルと距離を置いて対外協調外交路線を推進していた外交問題評議会(CFR)系が主導権を握っていたからだ。

 今回、トランプ大統領が離脱を表明したのは、まさにイスラエルの利害に沿った動きであるのはいうまでもないことだ。もとよりトランプ大統領には強固な親イスラエル右派である娘婿のジャレッド・クシュナー上級顧問が政権内で主要な地位を占めているだけでなく、その背後ではイスラエルの右派的な政権政党であるリクードへの最大の献金者であるとされるシェルドン・アデルソン氏が大きな影響力を及ぼしているからだ。


合意の離脱はイランの体制崩壊に向けた宣戦布告を意味する

 まずここで大事なことは、トランプ政権の米国がこの核合意から離脱したことは、結論から先に言えばイランに対して「宣戦布告」をし、シーア派宗教体制の崩壊を“宣言”したに等しいことだ。前回までの北朝鮮問題でも指摘したように、本当に核廃絶や非核化を目指すなら体制を崩壊させる以外にないのであり、現体制を存続させたままでは必ずと言ってよいほど、どこかに核兵器を隠し持ち続けることになる。
 この核合意はあくまでも短期的にイランが核保有できないようにするだけのものだったが、そうした曖昧な合意が結ばれたのはロシアや中国だけでなく、米国とともに制裁を科していた欧州勢の政権もイスラエルとはそれほど深いつながりがなかったなかで、イランへの経済進出を優先したからだ。今回、合意からの離脱を巡り、英独仏3カ国の首脳が懸命に離脱しないようにトランプ大統領を説得していたのは、制裁の解除とともに進出して獲得した案件が、制裁が再び発動されることで無効になってしまい、巨額の損失を強いられる恐れがあるからだ。
 実際、体制が存続されていては、密かに核兵器を隠し持ったり開発に動くものであることは、4月30日にイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相が、イランは合意を受け入れてウラン濃縮活動を大幅に抑制した後になっても密かに開発に向けた計画があったことを、関連資料とともに明らかにした通りである。今回、トランプ大統領が核合意から離脱して制裁を再び科すことを決めたのは、いずれ体制の崩壊を目指して軍事攻撃をすることを宣言したことにほかならないわけだ。


核合意からの離脱はサウジの利害に沿った動きでもある

 今回の核合意からの離脱については、イスラエルだけでなくサウジの利害に沿った動きでもある。それは政治的、宗教的にもサウジはスンニ派の盟主としてシーア派大国のイランと対立しているだけでなく、経済政策面でも恩恵を受けることが想定されるものだ。
 サウジではムハンマド皇太子主導で経済構造改革が推進されているが、その大きなカギを握るのが国営石油会社サウジアラムコの新規株式公開(IPO)の実現の成否であるといって過言ではない。それを実現するためには株式市場を安定させるだけでなく、原油価格を上昇させることで企業価値を高めれば、それだけ有利な条件で株式を上場させることができる。そのため、中東で地政学リスクを高めれば、それによりリスク回避から株安にならない限り、市況が上がるのは好都合である。


イランの産油量が減ることでサウジの減産が抑制される

 しかも、原油価格を引き上げるためにサウジは自らが大きな影響力を行使している石油輸出国機構(OPEC)で減産を取り決め、自ら率先して減産枠の遵守に向けて減産に取り組んでいる。サウジはそれを遵守するにあたり、16年末に減産が始まった当初はかなり無理をしてそれに取り組んだが、最近ではベネズエラの生産量が大幅に減っているため、それほど無理をしなくても減産の維持が達成されるようになっている。
 一方で、イランは制裁が解除されたことで生産量を大幅に伸ばしてきたが、再び制裁が科されることで以前のように減産を余儀なくされれば、サウジとしては減産に向けた負担がよけいに取り除かれることも指摘できる。


ロシアは中東の管理を任されサウジ取り込みに動く

 ただ、今回の米国による核合意からの離脱の決定を巡り、イランの後ろ盾になっているはずのロシアがそれほど目立った動きを示していないのが不気味である。
 そこで指摘すべきなのは、ロシアは既にオバマ前政権の時から米国からイスラム国(IS)を打倒するにあたり主導権を握るように要請されていたが、現在ではトランプ大統領の背後の親イスラエル右派的なナチズム系から、米軍が関与を放棄する代わりに中東での管理を委譲されつつある。それ以来、ロシアはイランの“仇敵”であるはずのサウジに接近して良好な関係を維持しており、それはすなわち、これまでその後ろ盾となってきたイランを切り捨てることを意味する。
 実際、原油の生産を巡り、OPECの盟主であるサウジと非OPECの代表であるロシアとの間で、だからこそ協調減産で合意することができたのである。ロシア国内では原油価格が上昇してきたことで、石油会社の間ではそろそろ減産の解除を求める動きが出ているが、ウラジーミル・プーチン大統領が中東への関与姿勢を優先してOPECとの協調姿勢を維持する動きを見せている。


資源エネルギー面からもイラン切り捨てが有利になりつつある

 ロシアは資源エネルギー面からも、イランが軍事攻撃を受けると様々に有利なところがある。原油価格が上がれば、その輸出に経済成長や財政収支のかなりの部分を占めているロシアには好ましいことだが、それ以外に有利な面もある。
 例えばロシアはイランやカタールと並ぶ天然ガスの三大生産国の一角を占めているが、このうちカタールはサウジから国交を断絶されたことで、今ではイランに対する依存度が高まっている。そこにイランが軍事攻撃を受ければ“無傷”で済むのはロシアだけになるため、世界の天然ガス市場を独占できる期待が高まる。
 さらにそれだけでなく、ロシアは米国とともに中国を排除して、ウラン鉱石の世界最大の埋蔵量を誇るとされる朝鮮半島北部の利権を握ろうとしていたが、いうまでもなく原油価格が上がると原子力事業にも追い風が吹くことになる。ロシアとしては、これまでイランで獲得してきた利権もあるが、一方で同国を切り捨てた方が有利になってきている面もあるわけだ。

 ただし、米国は今回、イランに対して再び制裁を科すことになったとはいえ、実際に発動されるには180日間の猶予期間がある。しかも北朝鮮問題がそれなりに片付くまでは、イランに対して軍事攻撃に踏み切るのは難しいだろう。とはいえ、いずれ攻撃に動く可能性が高まったのは間違いない。


 今週はこれで終わりになります。今週もご拝読いただき、ありがとうございました。
 来週もこれまで通り、21日月曜日から掲載していくので、よろしくお願いします。
 また、何かありましたら書き込んでいただけたら幸いです。できる限りご返信させていただきます。
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永山卓矢と申します。
有限会社ナリッジ・クリエイション代表です。
現在、マクロ経済の分野でアナリスト業務を中心に活動しています。
フリーの立場で従来のマクロ経済や金融市場分析に限らず、その背後の政治的な権力闘争に至るまで調査活動を行っています。
これまで、月刊誌『商品・証券・金融先物市場』とその後継の『フューチャーズ・マーケット』や投資日報社などの大部分のインタビュー記事の作成をはじめ、他の情報媒体の市況執筆に携わってきました。
また、『「実物経済」の復活』(副島隆彦著 光文社刊)』はじめ、著名評論家の著作本執筆の実質的な共著や補助などの業務に携わってきました。
どうぞ、よろしくお願いいたします。