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米自動車関税の大幅引き上げに見えるドイツと中国のさらなる接近

ポイント
・今回のトランプ米政権による自動車やその部品に高関税をかける動きは、それが実現されると日本経済に大きな打撃になるが、本当の狙いは巨大な関税障壁を伴うEUの盟主にして、巨大な経常黒字を計上しているドイツを標的にしたものと考えられる。
・ドイツは安全保障面でもNATOから米国が撤退しようとしているなかで、ロシアの軍事的脅威をまともに受ける恐れがあり、それに対抗して同じく米国から通商面で攻撃されている中国との関係を一段と深めようとしている。
・中国は外貨準備でユーロ債を多く保有していくのでドイツに対してユーロ高が続くように求めており、両国はイランへの関与を強めている一方で、本来の同国の後ろ盾であるはずのロシアは水面下でサウジアラビアとの関係を強めつつある。



自動車関連の追加関税は米国にも大きなリスクを伴う

 先週は米朝首脳会談の開催を巡る動きに振り回された感があるが、それ以外にもドナルド・トランプ大統領が自動車や自動車部品に追加関税を課すことを提唱したことが大きく採り上げられた。鉄鋼アルミニウムに追加関税を課した際と同じように、安全保障上の脅威になっていることがその理由とされている。日本では対米貿易黒字の6割ほどが自動車関連で占められているだけに、本当に乗用車の輸出に25%もの関税を課されると、外需寄与度を落ち込ませることで日本経済に大きな影響が出る恐れがある。
 それだけに、今週は北朝鮮に関する問題を考察する前に、今回はまずこの問題について簡単に考えてみる。

 今回、トランプ政権が自動車やその部品に対する追加関税の適用を検討するように指示したのは、カナダやメキシコとの間で北米自由貿易協定(NAFTA)の見直し交渉がうまく進展しておらず、相手から譲歩を引き出すことを狙っていることが指摘されている。また日本との間でも通商協議を開始することになっているが、日本側が積極的に二国間交渉に乗り出さない姿勢を見せているので、交渉に引き出すことを意図していることも言われている。
 ただし、例えば日本に対しては確かに二国間交渉に積極的に応じるようにこれを“脅し”に使う可能性もなくはないとはいえ、そこには米国にとっては大きなリスクも伴うことになる。それは、自動車の完成品だけでなく米国で組み立てられている自動車の価格をも引き上げることで、米国内でインフレ圧力を引き起こすだけにとどまらないものだ。
 既に太平洋圏内では米国を除く11カ国で日本を中心に環太平洋経済連携協定(TPP)が発効に向けて動き出そうとしているなかで、現実問題としてはそうした加盟国を相手に二国間で異なる協定を結ぶのは大きな摩擦を引き起こしかねない。そもそも、日本から輸出している自動車部品の中にはかなり高品質なものも多く、“麻薬中毒”のような低質の白人労働者を雇用して生産できるような代物ではない。


自動車関税の主な標的は巨大な経常黒字国ドイツ

 結論から先に言えば、この措置は主に欧州、それも特にドイツを標的にしたものだ。例えば、鉄鋼やアルミニウムに追加関税を課したのは、特定の国を除いて一律に適用しているとはいえ、本当は中国を標的にしているのと同じようなものだ。
 共産党が国家経済を統制管理している中国ほどではないとはいえ、それでも欧州では自由主義経済群の中では諸国家がまとまって域外に対しては比較的高めの関税が課されており、しかも域内では米国とはやや異なるルールを適用しているのを米国は問題視している。
 特にドイツは今年の経常黒字が4月時点の国際通貨基金(IMF)の見通しで3,468億ドルに達する世界最大規模を誇り、対国内総生産(GDP)比で15年以来、実に8%台に乗せるほどの規模に達している。対照的に南欧諸国が経済・財政事情が脆弱な状態にあえいでいるなかで、それでいて財政収支も黒字基調を維持しているのは、国内経済面では健全ではあっても国際収支均衡の観点での国際協調面では極めて不健全であると言わざるを得ない。


米国から圧力を受けてドイツと中国が接近

 ドイツでは3月半ばに第4次アンゲラ・メルケル政権が発足するにあたり、連立を組む条件として社会民主党(SPD)との間で財政支出の拡大で合意しているだけに、今後は以前に比べると輸出依存度が低下するとは思われるが、それでも自動車の追加関税は大きな打撃になるのは間違いない。
 そこで、もとよりドイツ経済は中国経済への依存度が高かったが、同じように米国から通商面で圧力を受けている中国に接近しつつある。自動車の自動運転の技術開発が採り上げられているが、メルケル首相が訪中して首脳会談に臨んだ際に、李克強首相が外貨準備にユーロ債を多く保有するつもりでいるのでユーロ高が進むように配慮することを要請したのは、まさに米国の覇権の後退とともに、「一帯一路」構想によりユーラシア経済圏が興隆していくことが現実味を帯びていくことにほかならない。
 ただし、それは米国の覇権の斜陽期への転換とともに、意識的にそれを推し進めて多極化を後押しし、それとともに米系資本が買収その他で内部から“蚕食”していくことで、グローバル規模で利権の拡大を目論んでいる親イスラエル右派的なナチズム系が密かに推進していることだ。


安全保障面でもドイツと中国が関係を強化

 ドイツと中国は安全保障面でも提携関係を強化せざるを得ない。
 トランプ政権は北大西洋条約機構(NATO)の主要加盟国に防衛費の増額を求めて米国の負担を肩代わりさせようとしており、いずれ全面的な撤退も含めて関与を大幅に減らしていこうとしている。そうなると、歴史的、地政学的に欧州はロシア(旧ソ連)の軍事的脅威を慢性的に受け続けており、フランスはじめラテン系の国々とは異なりドイツはその矢面に立っているなかで、これからはその脅威をまともに受けることになる。米国への依存度が低くなっていけば、それを軽減するためには中国の軍事力を利用し、それと提携することで少しでもロシアの脅威を減らす必要がある。
 この両国はイラン核合意が締結されて国連安全保障理事会の制裁が解除されてから積極的に同国に進出しているが、今回の米国によるそれからの離脱を受けて、今後もこの合意の維持とともにイランを支援していくことを確認している。本来のイランの後ろ盾であるはずのロシアが今回、米国の合意を受けても静観姿勢を続けながら、密かに原油価格の高値誘導や安定をはじめとしてサウジアラビアと結び付きつつあるのとは対照的だ。


 明日、明後日の2日間は先週後半の米朝首脳会談を巡るドタバタ劇について考察します。
 明日はトランプ米大統領がその中止を決めると北朝鮮の姿勢が一転して軟化して予定通り6月12日に開催する動きになっていますが、その背後事情について考察します。
 週末の2日目には、前週の貿易協議の結果を含めて米国の対中国戦略との関係について考えることにします。
 よろしくお願いします。
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プロフィール

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永山卓矢と申します。
有限会社ナリッジ・クリエイション代表です。
現在、マクロ経済の分野でアナリスト業務を中心に活動しています。
フリーの立場で従来のマクロ経済や金融市場分析に限らず、その背後の政治的な権力闘争に至るまで調査活動を行っています。
これまで、月刊誌『商品・証券・金融先物市場』とその後継の『フューチャーズ・マーケット』や投資日報社などの大部分のインタビュー記事の作成をはじめ、他の情報媒体の市況執筆に携わってきました。
また、『「実物経済」の復活』(副島隆彦著 光文社刊)』はじめ、著名評論家の著作本執筆の実質的な共著や補助などの業務に携わってきました。
どうぞ、よろしくお願いいたします。