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かなり強気な内容になった米雇用統計

ポイント
・今回の米雇用統計は失業率、非農業部門の雇用者数、平均時給どれを取っても事前予想を上回る強気な内容となり、市場ではFRBの利上げ加速観測が再燃しつつある。
・失業率の低下は労働参加率が下がったことでそれなりに説明できるが、約50年ぶりに低下したなかで、非農業部門の雇用者数が20万人を超える増加ペースに回帰しているのでこれから一段と低下していきそうだ。
・平均時給も事前予想を下回ったとはいえまだ水準が低いとの指摘があるが、これは長期失業者といった通常、正規の職にありつけない人たちの雇用が増えていることが全体の賃金の伸びを抑えていることによるものだ。



どれを取っても強気な内容になった米雇用統計

 今回の米雇用統計では、失業率が3.8%と前月から0.1ポイント低下して事前予想も下回った。非農業部門の雇用者数(NFP)の前月比の増加幅も22万3,000人と予想を上回り、また前月分が16万4,000人から15万9,000人に下方修正されたものの、前々月分が13万5,000人から15万5,000人に上方修正され、計1万5,000人も引き上げられた。さらに賃金の動向を推し量る指標として近年、注目度が高まっている平均時給も26.92ドルと前月比0.08ドル、0.3%増加し、前年同月比でも2.7%増えて予想を上回った。
 どれを取っても強気な内容であり、最近の米連邦準備理事会(FRB)のハト派的な政策姿勢や新興国通貨不安、イタリアやスペインでの政情不安からFRBの利上げ見通しが後退していたものの、それが以前のように再燃する兆候が出ているといえなくもない。


50年ぶりの水準に低下した失業率がさらに低下していく

 やや詳細に見ていく。
 まず失業率については低下したとはいえ、労働参加率が62.7%と前月と同様に前月から0.1ポイント低下しており、職探しをする人が減退しているので、それでそれなりに説明ができるものだ。とはいえ、それでも3.8%という数値は約50年ぶりの低水準であり、労働市場が極めてひっ迫していることを示唆するものだ。

 次にNFPの増加幅については、その2日前に発表されるオートマティック・データ・プロセッシング(ADP)社の雇用統計と反対の結果になることが多いものだ。そのADP統計が今回は17万8,000人と予想を下回っただけに、1日に発表された正規の雇用統計のNFPが予想を上回っておかしくなかったといえる。
 ただ最近のNFPの推移を見ると、2月に32万6,000人も増えた反動で3月は15万5,000人に減退し、4月も15万9,000人とほぼ同水準にとどまったが、5月は20万人を超える水準を回復した。かつて、ジャネット・イエレン前FRB議長が失業率が低下していかない水準として、8万5,000~12万5,000人も増えていれば十分だと述べていたことを考えると、このNFPの動向は約50年ぶりの低水準にまで低下した失業率がこれからさらに下がっていくことを示唆するものだ。
 連邦公開市場委員会(FOMC)委員の中で最もハト派的とされるミネアポリス連銀のニール・カシュカリ総裁が、労働市場では依然として幾分もの“弛み(スラック)”があると指摘しているが、果たしてどれほどの弛みがあるのか疑問視せざるを得ないものだ。


長期失業者の減少が全体の賃金の伸びを抑えている

 とはいえ、今回は平均時給も事前予想を上回ったとはいえ、それでも依然として前年同月比で2.7%の伸びにとどまっており、3%台に到達するメドが一向に立たないので、こうした指摘が説得力を持つのも当然である。ただ、これは前月に雇用統計が発表された際に当欄で指摘したように、長期失業者といった通常、正規の職にありつけないような人たちにも就職の恩恵に預かっていることでそれなりに説明ができるものだ。
 今回も、完全失業者に経済的理由によるパート労働者、働く意欲はあるが求職をやめた人を加味した広義の失業率である不完全雇用率(U6失業率)は7.6%と前月から0.2ポイントも低下している。また半年以上にわたる長期失業者も118万9,000人と前月から10万4,000人も減っている。さらに経済的理由でのパート勤務者も前月の498万5,000人から494万8,000人に減っている。
 こうした人たちは高付加価値の仕事にありつくことが難しく、どうしても賃金の低い職種に雇用される傾向が強いため、こうしたことが全体的な賃金の伸びを抑えていると言える。


低賃金での雇用が増えていることがうかがわれる

 実際、そうしたことは今回のNFPの内訳を見てもそれなりにうかがえるものだ。今回の雇用者数は民間部門に限ると前月から21万8,000人増えているが、このうち製造業や建設業がその範疇に入る物品生産部門の増加幅は4万7,000人に過ぎず、相対的に賃金が低いサービス部門が17万1,000人も増えている。
 本来の賃金水準の動向をうかがうには、雇用コスト指数を見る方がより適切だろう。4月28日に発表された1-3月期のこの数値は前期比0.8%伸びている。昨年末にドナルド・トランプ政権が大型の税制改革を成立させたことで、大規模な法人減税から恩恵を受ける企業が軒並み賃上げに動いた影響が出ているといえなくもない。
 とはいえ、そうした一時的で特殊な要因を除いても、米国経済はここにきて再び加速しつつあるなかで、企業側の雇用や賃上げに対する意欲はそれほど低下していないだろう。


 明日、明後日の2日間では、最近、FRBの政策姿勢が政策金利の天井が議論されるなど、1~2カ月前に比べるとハト派的になっていますが、その背景について、特に中国を中心に北朝鮮問題も含めて、米国の対外政策の観点から考察します。
 明日は主にFRBの政策姿勢がハト派的に変わった背景について考えます。
 明後日はそれに米国の対中国政策を絡ませて考察します。
 よろしくお願いします。
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プロフィール

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永山卓矢と申します。
有限会社ナリッジ・クリエイション代表です。
現在、マクロ経済の分野でアナリスト業務を中心に活動しています。
フリーの立場で従来のマクロ経済や金融市場分析に限らず、その背後の政治的な権力闘争に至るまで調査活動を行っています。
これまで、月刊誌『商品・証券・金融先物市場』とその後継の『フューチャーズ・マーケット』や投資日報社などの大部分のインタビュー記事の作成をはじめ、他の情報媒体の市況執筆に携わってきました。
また、『「実物経済」の復活』(副島隆彦著 光文社刊)』はじめ、著名評論家の著作本執筆の実質的な共著や補助などの業務に携わってきました。
どうぞ、よろしくお願いいたします。