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米政府の対中国政策に密接に左右されるFRBの政策姿勢

ポイント
・パウエル議長は本来的にホワイトハウスの“イエスマン”であることを考えれば、最近のFRBのハト派的な姿勢は、そうした性格を前面に押し出すようになってきたといえなくもない。
・トランプ政権は中国に対して「新冷戦」構造を構築しながら属国群を独立させて兵器の輸出を伸ばして軍事力を強化させようとしており、その一方で中国に資本取引を自由化させて大規模に資本参加をしていき、中国そのものを“蚕食”して利権の拡大を目指している。
・米国はそのために中国に対して国有企業改革を推進させることで国有銀行の不良債権を炙り出す必要があり、足元で激化している米中貿易交渉で米国側が本当に望んでいるのは「中国製造2025」の撤廃や技術強要の禁止である。
・ただし、米国が最優先事項としているのは在韓米軍を撤退させるために朝鮮半島で平和条約を結ぶことであり、その前段階として核放棄の手順を取り決めるにあたり、非現実的な「リビア方式」を排して中国の関与も排除するために米朝間で“猿芝居”が行われた。
・ただし、米国としては核放棄の手順を決める段階では排除できても、平和条約を締結する段階になると当事国である中国を排除するわけにいかないため、それまでは同国に対して強硬措置を採れない事情があり、最近、FRBがハト派的な姿勢に転じたのはそのためだ。
・それまではリスク選好的なムードが強い状態が続くが、平和条約の締結のメドが立つと国有企業改革に取り組ませるために中国に圧力を強めることになり、FRBがタカ派的な姿勢に転じるとリスク回避が強まりそうだ。



トランプ政権の背後勢力の基本的な対中国及び対外戦略

 米連邦準備理事会(FRB)議長にホワイトハウスの“イエスマン”が就いたという意味では、そのFRBがここにきて従来のタカ派的な政策姿勢から急激にハト派的になってきたのは、ドナルド・トランプ政権の意向を受けているジェローム・パウエル議長がその本来の姿勢を前面に押し出すようになってきたといえなくもない。
 ただし、だとしたらどうしてトランプ政権はハト派的な金融政策姿勢を望んでいるかをもう少し詳しく考察する必要がある。それはタカ派的な政策姿勢が米国経済の景気拡大傾向を挫折しかねないといった単純な理由だけではないはずであり、より戦略的な意味合いが隠れているはずだ。

 そこでこれまで当欄で何度も指摘してきたことだが、大事なことなので簡単にもう一度述べることにする。
 トランプ政権で主導権を握っている親イスラエル右派的なナチズム系は、多国籍企業主導によるグローバル生産体制が機能しなくなってきたなかで、大規模な軍需を創出するために表面的には中国との間で「新冷戦」構造を構築しようとしている。ただし、もはや米国の国力が衰えてしまい、米軍をグローバル規模で展開し続けるのが難しくなっているなかで、日本をはじめ属国群を独立させてそれらの国々に軍事力を強化させたうえで、それらの国々と連携していくことで中国と対峙していこうとしている。その際に、それらの国々に兵器や防衛装備品等の輸出を伸ばすことで、米国内で製造業を活性化させて貿易赤字を減らしていこうとしているのであり、それこそがトランプ大統領が掲げている「米国第一主義」の本質にほかならない。
 またそうした表面的な動きとは別に、水面下で中国に対して資本取引を自由化させ、国有企業改革も促進させていくことで、米系資本が国有銀行や代表的な国有企業に完全買収も含む大規模な資本参加をしていこうとしている。それにより、習近平国家主席が掲げている「一帯一路」構想に乗ってユーラシア大陸内部に向けて、グローバル規模で利権を拡大していこうとしている。


米国が中国に本当に求めているのは外資に対する技術強要の禁止

 足元で行われている米中貿易協議で米国側が本当に求めているのは、「中国製造2025」の撤廃や外資に対する技術強要を禁止することだ。2,000億ドルもの対米貿易黒字の削減や中興通訊(ZTE)の問題は、そうした“本命”の目的を中国側に呑ませるための手段に過ぎない。
 中国としては創造性を駆使して新産業を興したり、“職人気質”により技術革新を推進する能力がない代わりに、共産党政府に統制管理・後押しされた国有大企業が外資の技術を“盗み取り”、いわゆる「規模の経済」で躍進してきた。それだけに、それが禁止されてしまえばこれ以上、経済発展ができなくなってしまう。そうなると、中国側としては本格的に簿外で巨額な債務を抱えている国有企業の改革に取り組まなければならなくなってしまい、国有銀行の莫大な不良債権が顕在化することで、米系金融資本としては中国国内で“ハゲタカ”業務を推進する機会を得られることになる。
 中国側がこの分野については米国側の要求を完全に拒否したのは当然である。その一方で、多くの分野で関税を大幅に引き下げて米国からの大規模な輸入増大に向けて懸命に努力する姿勢を見せても、米国側がまったく評価せずに知的財産権の侵害問題を名分に中国からの輸入に大規模関税を発動しようとしているのはこのためだ。


さしあたり優先事項は北朝鮮と平和条約を結ぶこと

 トランプ政権としては上記の戦略を推進していくにあたり、さしあたり優先事項になるのが貿易協議で中国に圧力を強めるとともに、地政学的には在韓米軍を撤退させるために、親イスラエル派の“傀儡”である金正恩(キム・ジョンウン)委員長を頂点とする独裁体制を維持しながら北朝鮮と平和条約を結ぶことだ。
 そのためには、その前段階として核放棄の手順について取り決める必要がある。そこでは既に北朝鮮は完全な核保有国であることから「リビア方式」の採用やその一括処理は非現実的であり、段階的に期間を区切ってその都度、放棄に向けた目標及び義務を課して期限が来たら事後検証をしていくことにならざるを得ない。
 ところが、米国内ではいまだに旧来のコスモポリタン的な勢力がメディア世界も握っているだけに、強硬姿勢を求める世論が圧倒的である。またイランへの攻撃を目的に“ガリガリ”の新保守主義(ネオコン)派であるジョン・ボルトン大統領補佐官のような人物を閣内に抱えているだけあって、トランプ政権は表面的には「完全かつ検証可能で不可逆的(CVID)」な一括処理を掲げざるを得ない情勢だ。
 そこでそうした名分を実質的に“骨抜き”にする一方で、対外的には関与を強めようとしている中国を排除するために、“一心同体”の関係にあるトランプ大統領と金委員長の背後勢力による“阿吽の呼吸”により、5月24日に米国側が来週12日に予定されている米朝首脳会談の中止をほのめかし、翌日に一転して北朝鮮側が軟化することで予定通り実施する流れを作る“プロレスじみた猿芝居”を打ったのは、以前、当欄で述べた通りである。


平和条約の締結のメドが立つまでは中国に配慮せざるを得ない

 とはいえ、核放棄に向けた手順の決定が一段落し、平和条約に向けて動き出す段階になると、どうしても中国が関与せざるを得ない。米国はできればその段階になっても中国を排除したいと思っているのだろうが、朝鮮戦争で北朝鮮に義勇軍を送り、休戦協定を結ぶ際にもそれにサインした当事国を排除するわけにいかないのは言うまでもないことだ。
 そこでトランプ政権としては、平和条約を締結するメドが立つまでは完全に中国を敵に回すのは得策ではない。そのため、米国としては国有企業改革に向けて今しばらくは中国に圧力を強めるわけにいかない事情がある。貿易協議で攻勢に出ているのも、あくまでもその第一の名分は巨額な対中貿易赤字の削減なのである。
 米国が中国に圧力を強めるとすれば、軍事的に封鎖することで中国向けの原油の供給を封じるといった“荒療治”を別とすれば、FRBが金融引き締め政策を強化することで信用収縮を強め、中国から資本流出を加速させることで、人類史上、未曾有の超巨大バブルが崩壊する危機感を強めることだ。実際、南シナ海に強引に軍事基地を建設するなど対外膨張路線を推進している中国を“懲らしめる”ために、16年初頭にスタンレー・フィッシャー副議長(当時)が「FRBが今年は4回利上げするとの見方は妥当」と発言したのを機に投機筋が人民元や中国株を“怒涛”のごとく売り浴びせ、前年7月の人民元切り下げに端を発する危機に次いで2回目の中国危機が引き起こされたものだ。


平和条約の締結のメドが立つまでリスク選好で株高傾向か

 朝鮮半島で平和条約が締結されるメドが立つまでは中国に配慮して信用不安を引き起こすわけにいかないとすれば、それまではFRBはハト派的な政策姿勢を続けざるを得ない。ホワイトハウスのイエスマンであるパウエル議長が本領を発揮して、最近になってハト派的な姿勢に舵を切った真因がそこにあると見るべきだろう。
 すなわち、平和協定が締結されるメドが立つまではFRBがハト派的な姿勢を続けることでリスク選好が強まりやすくなり、株高傾向が続きやすくなるということだ。外国為替市場では日本銀行(日銀)が例外的に超大規模な金融緩和策の継続が容認されているのを背景に、対円を除いてドル安が進みやすくなるだろう。特に欧州中央銀行(ECB)に対しては出口に向けて動くように圧力を強めることで、ユーロ高・ドル安傾向が進みやすくなると想定される。


平和条約締結後は中国に圧力を強めるためタカ派姿勢に転換へ

 ところが、平和条約が締結されるメドが立つと、米政府の方針が中国に国有企業改革に取り組むように圧力を強めるため、一転してFRBの金融政策姿勢がタカ派的になっておかしくない。資本流出が加速してバブル崩壊が現実味を帯びれば中国政府に対する強力な“脅し”になるだけでなく、それ自体が否応なしに改革に取り組まざるを得ない状況をもたらすからだ。
 おそらく、その際には米国でもインフレ圧力が顕在化するか、もしくは本来的に2%の米国経済の潜在成長率とFRBの物価目標値である2%を加えた4%程度が適度な本来の政策金利の天井といった議論が強まるのだろう。それにより株価が急落するとともに、さしもの10年超にわたり続いた米国経済の景気拡大傾向がようやく終止符を打つのではないか。


 今週はこれで終わりになります。
 今週もご拝読いただき、ありがとうございました。
 来週もこれまで通り、週明け11日の月曜日から掲載していくのでよろしくお願いします。
 なにかありましたら書き込んでいただければと思います。
 また、簡単なセミナー等、ご要望がございましたらお引き受けいたしますので、応募していただけたら幸いです。
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プロフィール

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永山卓矢と申します。
有限会社ナリッジ・クリエイション代表です。
現在、マクロ経済の分野でアナリスト業務を中心に活動しています。
フリーの立場で従来のマクロ経済や金融市場分析に限らず、その背後の政治的な権力闘争に至るまで調査活動を行っています。
これまで、月刊誌『商品・証券・金融先物市場』とその後継の『フューチャーズ・マーケット』や投資日報社などの大部分のインタビュー記事の作成をはじめ、他の情報媒体の市況執筆に携わってきました。
また、『「実物経済」の復活』(副島隆彦著 光文社刊)』はじめ、著名評論家の著作本執筆の実質的な共著や補助などの業務に携わってきました。
どうぞ、よろしくお願いいたします。