FC2ブログ

記事一覧

賃金の上昇が確認された雇用統計の検証

 毎度、当サイトをご覧いただき、ありがとうございます。
 最初に筆者からお知らせがあります。
 このたび、筆者が講師を務める講演会が大阪で行われることになりました。
 11月19日に大阪堂島商品取引所にて、午後1時より講演を行わせていただきます。
 またそれが終わった後も、午後3時より懇親会において、気軽に質問をしていただければお答えさせていただきます。
 無料で入場できるだけでなく、皆様方と触れ合える数少ない機会ですので、大阪及びその周辺にお住まいの方は是非、下記サイトにてお申込みをしていただいたうえでご来場いただければと思います。

http://www.sunward-t.co.jp/seminar/2016/20161119_3/index.html


ポイント
・NFPの当月分が事前予想を下回ったにもかかわらず前月や前々月分が上方修正されたのは、前月に作為的に低めの数値が発表されたことで、その歪みを是正するためと思われる。
・平均時給の伸びはようやく賃金インフレが高まりつつあることを示唆しており、インフレ連動債の動向を考えると、市場がそれを敏感に感じ取っていることを示唆している。



当月分は失業保険申請件数で説明できる

 次に先週末4日に発表された米雇用統計について検証する。
 今回は失業率が4.9%と事前予想や前月を下回ったが、労働参加率が62.8%と前月から0.1ポイント低下したことによるものであり、それほど好感できるものではない。
 問題は非農業部門の雇用者数(NFP)の前月比の増加幅が16万1,000人と事前予想を下回った一方で、前月分が15万6,000人から19万1,000人に、前々月分も16万7,000人から17万6,000人に上方修正されたことだ。当月分が予想を下回ったとはいえ、修正分を考えるとむしろ強材料といい得るものとなった。

 もとよりNFPでは、当月分が事前予想を上回る強気な内容になれば前月分や前々月分も上方修正され、当月分が下回れば前月分や前々月分も下方修正されることが多かったものだ。
 この当月分のNFPは、サンプリングの対象となる12日の週を含む週間新規失業保険申請件数の数値から算出されている。いうまでもなく、特定の週を抽出すると“ブレ”が生じることが多くなるので、当月分の数値がこれまでの趨勢から突出して逸脱した場合には、前月分や前々月分をその方向に修正して“ならす”ことで、当月分のブレを小さくするわけだ。
 ところが今回は当月分と前月分、前々月分の内容が異なるものになったのは、結論から先にいえば、前月に発表された際に、作為的に実態とかけ離れた数値が発表されたためと思われる。


当月分と前月、前々月分が異なる内容に

 やや詳しく検証していこう。まず当月分が弱気な内容になったのは、前月の12日の週を含む新規失業保険申請件数が26万件と、最近の趨勢からは比較的多かったことで説明できる。
 問題は前月分と前々月分についてだ。前月の雇用統計が発表された際に当欄で指摘したが、市場ではNFPの当月分の水準に素直に反応することが多いが、もとよりブレが大きい性格のものであるだけに、専門家は当月分だけでなく過去3カ月間の平均値で情勢を判断することが多い。
 ところが、前月に雇用統計が発表された際には、サンプリングの対象となる失業保険申請件数が低水準だったにもかかわらず、過去2カ月分がかなり高水準だったため、当月分では算出された数値をそのまま発表すると3カ月平均値も実勢より高水準になりかねなかった。そこで前月に発表された当月分は事前予想を下回るものだったが、これは多分に統計当局による作為的な色彩の強いものだった。
 今回、当月分が予想を下回る低水準なものにとどまったにもかかわらず、前月分や前々月分が上方修正されたのは、そうした前月に作為的に低めに発表されたことによる“歪み”を是正する意味合いが強いと思われる。

 とはいえ、それでもNFPの当月分を含む過去3カ月平均は17万6,000人に達しているが、これは労働省から発表されているこの雇用統計の2日前に発表されているオートマティック・データ・プロセッシング(ADP)社の雇用統計の最近の趨勢とほぼ同じ水準だ(今回は事前予想を下回る弱気な内容にはなったが)。
 労働市場が完全雇用の状態に近づいていると思われるなかで、その程度の雇用の伸びを確保していれば申し分ないはずだ。実際、今回の発表直後に、FRBの金融政策で主導権を握っているスタンレー・フィッシャー副議長が、各月で12万5,000~17万5,000人も増加すれば失業率を引き下げると述べた通りである。


注目される平均時給の高い伸びとインフレ圧力

 ただ、今回の雇用統計の発表で最も注目されるのが、コストプッシュ型のインフレ圧力の顕在化に直結しやすい賃金の動向を端的に示している平均時給が大きく伸びたことだ。
 今回はそれが25.92ドルとなり、上方修正された前月から0.10ドル、0.4%も上がった。前年同月比では、前月分が2.6%から2.7%に上方修正されたにもかかわらず、さらにそれを上回る2.8%も上昇し、伸び率では実に7年ぶりとリーマン・ショックの直後に大きく下がった反動で急上昇して以来の伸び率を記録した。
 賃金が比較的高い製造業がドル高による悪影響もあって低迷している一方で、それが低めのサービス産業主導で雇用が伸びてきたため、失業率が鮮明に低下してきたにもかかわらず、全体的な賃金の伸びは鈍い状態が続いてきた。しかし、既に毎四半期ごとに労働生産性とともに発表されている単位当たり労働(ユニットレーバー)コストはかなり高い伸びが続いていたが、労働市場が完全雇用の状態に近づいてひっ迫してきたことで、ようやく実際に賃金にも上昇圧力が強まってきていることがうかがわれる。

 ところで先週末にかけて、金融市場でリスク回避が強まっているのは、トランプ・リスクの高まりもさることながら、市場がそうしたインフレ圧力が顕在化していく可能性を敏感にかぎ取っていることもその一因であるのは容易に考えられるところだ。
 そもそも、それが上昇している背景としては、12月にFRBが利上げに動くのが現実味を帯びてきたからであるとされているが、それだけで説明できるものではない。利上げ自体は既に2カ月ほど前から市場でかなり織り込まれていた状態にあったからであり、最近の金利の上昇はそれ以外の要因も作用していたはずである。
 実際、通常の長期債の利回りが上昇していた一方で、インフレ連動債(TIPS)のそれはそれほど上昇しておらず、両者の利回り格差が拡大しているところにそうした傾向が見て取れる。


 トランプ・リスクの高まりが再び意識されてこれから本格的にリスク回避が進みそうな情勢になっています。それを踏まえて、明日以降、信用不安を引き起こしやすい要因について検証していきます。
スポンサーサイト



コメント

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

17894176

Author:17894176
永山卓矢と申します。
有限会社ナリッジ・クリエイション代表です。
現在、マクロ経済の分野でアナリスト業務を中心に活動しています。
フリーの立場で従来のマクロ経済や金融市場分析に限らず、その背後の政治的な権力闘争に至るまで調査活動を行っています。
これまで、月刊誌『商品・証券・金融先物市場』とその後継の『フューチャーズ・マーケット』や投資日報社などの大部分のインタビュー記事の作成をはじめ、他の情報媒体の市況執筆に携わってきました。
また、『「実物経済」の復活』(副島隆彦著 光文社刊)』はじめ、著名評論家の著作本執筆の実質的な共著や補助などの業務に携わってきました。
どうぞ、よろしくお願いいたします。