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双方の妥協により増産幅が抑制されたOPEC総会の決定

ポイント
・今回のOPEC総会では実質的に増産を決めたとされるが、その実態は減産枠の遵守を呼びかけたものであり、枠自体は据え置いているため、公式的には減産を決めたとはいえない。
・ロシアのプーチン大統領はやがて中東の管理を米国から一任されようとしているなかで、その提携先をイランから切り替えていくためにサウジに配慮していたが、米国の要請を受け入れてそのサウジが増産に舵を切ったため、それに同調して当然である。
・増産の決定を巡り特にイランをいかに説得するかが焦点だったが、サウジが増産幅を抑制することで合意した背景には、双方ともに巨大な国際カルテル機構であるOPECの枠組みの維持を望んだことがあったと言える。
・イランが軟化した背景には、水面下での交渉でサウジの背後にいるイスラエルや米国が当面は同国への軍事攻撃に踏み切ることはないと表明したこともあったようだ。



厳密には今回の増産決定は「増産」とはいえない

 国際金融市場ではドナルド・トランプ米政権による保護主義的な政策措置に大きく揺れており、リスク回避から米長期金利の上昇圧力が抑え込まれている一方で株安に振れやすくなっている。基本的には主に中国との間での紛争から動揺していたが、先週末には欧州連合(EU)との紛争でもリスク回避がもたらされる兆候が見られた。
 ただ、EUに対してはほとんど追加関税措置の導入といった純粋な通商紛争に限定されるのに対し、中国に対しては技術強要や対米投資への制限措置に向けた動きも強まるなど、より広範囲にわたり政治的、外交的な要素が強いことが特徴といえる。そこで今週は米中貿易紛争について採り上げるが、その前に今回は先週末に石油輸出国機構(OPEC)総会で原油の増産が決まったので、その件について少し所見を述べておく。

 今回、OPECでは実質的に日量100万バレルもの原油の増産を決めたとされているが、厳密にいうと、「公式」には増産を決めたとはいえない。
 OPECはもとより同120万バレルの減産を決めていたが、実際にはピーク時で同180万バレルもの減産をしていた。OPECの加盟国で圧倒的な増産余力があるのはサウジアラビアだが、同国がこれまでこれほど強力に減産に取り組んできたのは、ムハンマド皇太子主導で推進している経済構造改革で重要なカギを握る国営石油会社サウジアラムコの新規株式公開(IPO)を実現することを、いかに望んでいるかを示唆するものだ。
 そこで今回の総会では既に設定されている減産枠を遵守することを呼びかけることにしたというものであり、減産枠自体はそのまま温存されているので、厳密には増産を決めたとは言えないはずだ。以前、OPECでは加盟各国が生産枠を超過して生産するのが常態化していたものであり、それをいかに枠内で抑えるかが大きな課題とされていたものだ。現在ではそれと反対の構図になっているのが興味深いところだ。


ロシアが増産でサウジに同調して当然

 今回の総会を控え、OPECのキングメーカーであるサウジは非OPECのロシアとともに同150万バレルの増産を求めていた。サウジが増産を主張していたのは、今秋の中間選挙を控えてトランプ米政権がそれを求めていたことに対応したものだ。自動車社会である米国では、ガソリン価格が1ガロン当たり3ドルを超えると一般大衆の不満が高まることが知られているからだ。
 一方でロシアについては、原油価格が指標となる米ウェストテキサス・インターミディエート(WTI)市況で一時1バレル当たり70ドルを超える水準にまで高騰してきたなかで、国内の石油会社の間では増産を求める声がかなり出ていた。これに対し、ウラジーミル・プーチン大統領がサウジとの外交関係を優先してそれを拒んでいた。
 その背景には、米国が将来的には中東から駐留米軍を撤退させていこうとしているなかで、それに代わってロシアがその管理を担っていくにあたり、提携する相手国をイランからサウジに切り替えていこうとしている事情があった。それが今回、そのサウジが米国の要請を受けて増産を主張するようになったので、ロシアとしてはそれに同調して当然である。


イランをいかに説得するかが焦点だった

 これに対し、ベネズエラとイランがこれに反発したのも当然である。ベネズエラは米国による経済制裁を受けて経済環境が著しく悪化しており、国内の生産設備も老朽化していて生産量が著しく落ち込んでいる。イランは産油量が同300万バレルを超える水準にまで回復していたが、米国が核合意から離脱して厳しい経済制裁を科そうとしていることで再び大きく落ち込んでいくことが避けられず、OPECが全体で増産に向かうことで原油価格が反落していくとよけいに苦しい状況に陥るからだ。
 ただし、OPEC加盟国の多くは中東諸国で占められているなかで、非中東のベネズエラはそうした国々との関係が薄いだけにそれほど影響力がなく、問題はイランをどのように説得するかだった。OPEC総会の決定はあくまでも全会一致を原則としているため、水面下で合意が成立しないと正式に決めることができないからだ。


双方ともにOPECの枠組みを維持するのが得策と考えた

 結局、非OPECのロシアと同調しているサウジが同100万バレルに増産への水準を引き下げることで落ち着いたが、その背景には双方ともにOPECの枠組みの維持を優先したという事情があったと考えられる。
 イランもベネズエラも、サウジを筆頭に増産余力があり、親米的な性格が強い中東湾岸諸国の姿勢に反感を抱いていておかしくない。とはいえ、増産余力に限界があるこれら両国としては、世界最大の国際カルテル機関であるOPECの枠組みが機能不全状態に陥り、増産余力のある産油国が独自に増産に動くことで市況が“奈落の底”に落ち込んでしまえば、それこそ致命的な打撃を受けかねないからだ。
 一方で、サウジとしては当面は国営石油会社のIPOの実現を優先する事情があるとはいえ、中長期的には独自に増産に動けばそれなりに高収益を望めるはずだ。とはいえ、それでも他の産油国への影響力を考えれば、依然としてOPECの枠組みを維持した方が得策であると考えているのだろう――ただし、米国でシェール産業が興隆している現在では、以前に比べるとその重要性が低下しているはずだが。


イランが軟化した水面下での交渉の背景

 もっとも、今回のOPEC総会での決定はあくまでも減産枠を遵守することを呼びかけただけであり、枠自体の変更が議題になったわけではなかったので、もとよりイランやベネズエラが異議を唱える次元の話ではなかったといえる。
 さらにいえば、増産に向けてイランが軟化したもう一つの要因が、サウジの背後に控えている米国やイスラエルが、少なくともしばらくは同国を軍事攻撃しないことを水面下で表明したこともあったようだ。米国としてはいずれこれら両国を押し立てて攻撃するとしてもまだ準備が整っておらず、当面は経済制裁を強化してイランを“締め上げて”いく一方で、周辺各国にも根回しをしていくなど、その環境整備を図ることが優先事項なのだろう。


 明日からの3日間では、足元で市況を大きく揺るがせている要因である米中貿易紛争について、世界覇権の盛衰の観点もまじえて、その真相、本質に迫っていきたいと思います。
 まず明日は米国の中国に対する貿易赤字の削減要求がいかに非現実的なものかを見たうえで、どうして米国がこうした要求をするようになったのかを、時代的な経済環境の変遷から明らかにします。
 よろしくお願いします。
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プロフィール

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永山卓矢と申します。
有限会社ナリッジ・クリエイション代表です。
現在、マクロ経済の分野でアナリスト業務を中心に活動しています。
フリーの立場で従来のマクロ経済や金融市場分析に限らず、その背後の政治的な権力闘争に至るまで調査活動を行っています。
これまで、月刊誌『商品・証券・金融先物市場』とその後継の『フューチャーズ・マーケット』や投資日報社などの大部分のインタビュー記事の作成をはじめ、他の情報媒体の市況執筆に携わってきました。
また、『「実物経済」の復活』(副島隆彦著 光文社刊)』はじめ、著名評論家の著作本執筆の実質的な共著や補助などの業務に携わってきました。
どうぞ、よろしくお願いいたします。